第16話

文字数 1,032文字

 離宮までの道のりは、昼間ならばなんの問題もなく行ける。しかし、夜の闇の中を行くということは、自殺行為に等しい。夜はモンスターの力が増す時間帯。加えて犯罪者どもも、闇に紛れて暗躍するのだ。そのような中を、たった四人で離宮に向けて馬車を進めるのは、無謀だ。ましてや、ミーナはあまり武術が得意ではない。母亡きあと、身体を鍛えなおし始めたロベルトも、まだ剣術の感覚が鈍っている。

(実際に戦えるのは、俺と御者役の兵士、バルドどのだけか)

 フィオリーノは腰に吊るした長剣と、懐に忍ばせた数本の投げナイフ、そして左腰に付けた細鞭(ウイップ)だけで、ロベルトとミーナを護りながら離宮に着けるか不安だった。せめてもう一人二人、腕の立つ人間が欲しかったが、イザベラも言ったようにオリンド大公の息がかかった者の目を潜り抜けるには、これが精一杯だったのだろう。離宮まで道半ば、夜明けまでまだ間があるという頃合いで、御者役の兵士バルドが幌の中にいるフィオリーノに声をかけてきた。

「結界を張るのを、手伝ってくれませんか」
「ああ、判りました」

 魔法よりも武術を重視しているプラテリーア公国では、魔術師の数が少ない。ましてや今のメンバーの中に、魔法に秀でた者はいない。先代大公は、自国の弱点解消とダークエルフに対抗するために、エルフに助力を求めた。ダークエルフの侵攻に手を焼いていた、北の森に住むエルフとメリッサは合同で、呪符魔法(タリスタン・マジツク)を編み出した。

 魔法を使えない兵士たちでも、定められたキーワードひとつで発動する魔法アイテム。攻撃に限らず、回復、防御、補助など様々な効果が一枚の紙きれの中に各々封じられている。

 バルドとフィオリーノは大木に馬を繋ぎとめると、馬車の周囲に呪符を均等に並べる。バルドがキーワードを発すると、結界が馬車の周囲を取り囲んだ。これで不可視ではないが、モンスターは侵入できない。ひとまず夜が明けるまで眠ることができる。

 交代で見張りにつくことにしたバルドとフィオリーノは、そのことをロベルトにも告げる。自分も見張りの任に就くとロベルトは主張したが、危険だからと一蹴される。まずフィオリーノが見張りに立ち、三十分が経過したところ。

「起きてください、人狼(ワーウルフ)です!」

 ライカンスロープとも呼ばれる獣人族に属するモンスターで、主に森に生息する。夜行性で、集団で行動する。大きな口で噛みつき、四つ足でも二足でも行動可能。敏捷性は人間より高く、人虎(ワータイガー)と共に、夜間の森で遭遇したくないモンスターである。
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