第78話

文字数 1,078文字

 外では未だに、歓喜の声が上がり続けていた。

 その夜、即位の祝宴が盛大に行われた。礼装に着替えたクレメンスは玉座に座り、臣下たちの祝辞を受ける。両隣にはテレノ帝国と、ヤポネシアこと金烏皇国(きんうのすめらみくに)の皇族たちが座し、ヴァイスハイト帝国の厚いもてなしを受けている。

「ところでクレメンス陛下。我が父帝から七百年ぶりに婚姻を結びませんかと、提案があるのですが」

 テレノ帝国の皇太子アルマンドが、酒杯を手に問いかけてくる。歳の離れた兄の隣に座る第一皇女との縁談かと身構えたが、そうと察したアルマンド皇太子は慌てて手を振った。

「クレメンス陛下はプラテリーア公国の公女を后に迎えると、もっぱらの噂。この宮殿に来るまでに民衆がそう噂していたのを、耳に挟みましたよ。そうではなくて、わたしの第一皇子アダルベルトと、陛下の従妹であるマグダレーナ王女との縁談ですよ」

 アルマンド皇太子は三十半ばを過ぎている。父帝が壮健なために未だに皇太子位にあるが、すでに次々代の継承者をもうけている。アダルベルト第一皇子は十歳で、現在七歳のマグダレーナ王女との釣り合いも良い。

「それは良い縁談(はなし)ですね。よろしい、さっそく婚約の儀とまいりましょう」

 同じ祝宴の場にいた叔父のザントシュトラント王フリードリヒに、その話を持ち掛けたところ、大喜びで承諾した。

 実のところクレメンスとの縁談が消えた今、どこに娘を嫁がせようか頭を悩ませていたのだ。国内の貴族に降嫁させるよりも、同じく封印を守護する帝室の、しかも次々代継承者の后ならば言うことはない。

 この婚約はすぐさま発表され、即位と婚約、二重の喜びに宮殿は沸き返った。

「おめでとうございます。ヴァイスハイト帝国とテレノ帝国の、益々の繁栄を祝って」

 封印を守護する帝室の一角にありながら、極東の島国ということもあって文化も大陸と違う金烏皇国(ヤポネシア)の春宮が微笑んだ。

 大陸では見かけない黒の冠と束帯という正装。片や華やかな色合いの五衣(いつつぎぬ)姿の内親王と共に、滅多に見られぬ日出処国(ひいずるくに)の衣裳に、宮殿内のあちこちではため息が漏れていた。

 三帝室に連なる者たちが一堂に会するなど皇帝や帝の国葬、あとは戴冠式くらいしかない。同じ大陸に領土を持つヴァイスハイト帝国とテレノ帝国ですら、たまに魔法陣を利用しての行き来はあるが、海を隔てた島国の金烏皇国(ヤポネシア)などは、こういった機会でもなければ顔を合わせることがない。

 祝宴は、その夜遅くまで続けられた。人々は若き新皇帝の即位とヴァイスハイト帝国とテレノ帝国の、婚姻による七百年ぶりの結びつきを祝して踊り、笑いあった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み