第97話
文字数 1,172文字
「あいつとは、決着をつけねばならん」
「イザベラ様!」
エリーゼの制止も聞かず、部屋を飛び出そうとするイザベラ。
「お待ちください皇后陛下。おひとりで供も付けずに赴かれるおつもりですか」
不意にかけられた言葉の主は。
「プラテリーア公爵」
正式に叙爵されたロベルトが、武装をしたオスティ将軍を従えて部屋の外にいた。エリーゼが救いを求めるように見るが、彼は兜の下で目を細めて笑う。
「女官長。こうなったときの姉上――いや、皇后陛下は誰にも止められない。僕たちが守るから、行かせてあげてほしい」
「ですが!」
「皇后陛下は、戦場にいるときが最も輝かしい姿をされていると、じいから聞かされているのでね」
後ろに控えるオスティ将軍が、わずかに頭を下げた。
「エリーゼ。私は皇后であり、この腹に宿った御子の母だ。決して無理はしない。約束する」
「イザベラ様」
「私は陛下と約束をしたのだ。二人でこの国を守ろうと。共に未来への礎になろうと」
初夜のときに、囁かれた言葉がよみがえる。性別はまだ判らぬが、次世代の帝室を託すであろう御子は腹の中にいる。この子のためにも自分は死ねないし、国を残さねばならない。
血族が絶えれば封印が解け、世界は暴力と破壊の世界になり、法も秩序もなくなってしまう。この国で生きていくと決め、皇后としてヴァイスハイト帝国に骨を埋める覚悟もできている。
今、この危機に皇宮に引き籠もってなどいられない。大切な国と人々を守るために戦うと、イザベラは決意を固める。
「皇后が命ずる。至急ザントシュトラント王とマグダレーナ王女を、皇宮の最奥の部屋へお連れし、厳重に警護せよ」
万が一クレメンスと自分が死することがあっても、ザントシュトラント王が生きていれば封印は保たれる。命令を受けた兵士がすぐさま、警護に向かう。
「わたしも戦場へ参ります」
どうやら説得を諦めたらしいエリーゼは、自身も共に行くことを決めたようだ。
「わたしも帝国に生を受け、ひと通りの戦闘訓練は受けています。陛下を、お守りいたします」
「ありがとうエリーゼ」
急遽、身重のイザベラのために輿が用意された。
「わたしたちも参ります」
輿の傍には馬を従えた宮廷魔術師のメリッサと、剣の相手を務めていたキルシュが立っていた。
「謀反人ハインリヒを討つ!」
イザベラの号令に、集まってきた兵士たちが鬨の声を上げ進軍が始まった。
つわりなどどこかへ消えてしまったような、毅然とした皇后の精神力にエリーゼは本当にこのお方は武人なのだと痛感した。だが身重の体で戦場などとは、血の道があがって命の危険がある。できる限り安全な場にいてもらわねばと思うが、彼女の性格からして無理だろうとも思う。
「イザベラ様。陛下が合流されたら皇宮へ戻りますよ」
これだけは譲れないとエリーゼは主張し、イザベラも苦笑交じりで受け入れた。
「イザベラ様!」
エリーゼの制止も聞かず、部屋を飛び出そうとするイザベラ。
「お待ちください皇后陛下。おひとりで供も付けずに赴かれるおつもりですか」
不意にかけられた言葉の主は。
「プラテリーア公爵」
正式に叙爵されたロベルトが、武装をしたオスティ将軍を従えて部屋の外にいた。エリーゼが救いを求めるように見るが、彼は兜の下で目を細めて笑う。
「女官長。こうなったときの姉上――いや、皇后陛下は誰にも止められない。僕たちが守るから、行かせてあげてほしい」
「ですが!」
「皇后陛下は、戦場にいるときが最も輝かしい姿をされていると、じいから聞かされているのでね」
後ろに控えるオスティ将軍が、わずかに頭を下げた。
「エリーゼ。私は皇后であり、この腹に宿った御子の母だ。決して無理はしない。約束する」
「イザベラ様」
「私は陛下と約束をしたのだ。二人でこの国を守ろうと。共に未来への礎になろうと」
初夜のときに、囁かれた言葉がよみがえる。性別はまだ判らぬが、次世代の帝室を託すであろう御子は腹の中にいる。この子のためにも自分は死ねないし、国を残さねばならない。
血族が絶えれば封印が解け、世界は暴力と破壊の世界になり、法も秩序もなくなってしまう。この国で生きていくと決め、皇后としてヴァイスハイト帝国に骨を埋める覚悟もできている。
今、この危機に皇宮に引き籠もってなどいられない。大切な国と人々を守るために戦うと、イザベラは決意を固める。
「皇后が命ずる。至急ザントシュトラント王とマグダレーナ王女を、皇宮の最奥の部屋へお連れし、厳重に警護せよ」
万が一クレメンスと自分が死することがあっても、ザントシュトラント王が生きていれば封印は保たれる。命令を受けた兵士がすぐさま、警護に向かう。
「わたしも戦場へ参ります」
どうやら説得を諦めたらしいエリーゼは、自身も共に行くことを決めたようだ。
「わたしも帝国に生を受け、ひと通りの戦闘訓練は受けています。陛下を、お守りいたします」
「ありがとうエリーゼ」
急遽、身重のイザベラのために輿が用意された。
「わたしたちも参ります」
輿の傍には馬を従えた宮廷魔術師のメリッサと、剣の相手を務めていたキルシュが立っていた。
「謀反人ハインリヒを討つ!」
イザベラの号令に、集まってきた兵士たちが鬨の声を上げ進軍が始まった。
つわりなどどこかへ消えてしまったような、毅然とした皇后の精神力にエリーゼは本当にこのお方は武人なのだと痛感した。だが身重の体で戦場などとは、血の道があがって命の危険がある。できる限り安全な場にいてもらわねばと思うが、彼女の性格からして無理だろうとも思う。
「イザベラ様。陛下が合流されたら皇宮へ戻りますよ」
これだけは譲れないとエリーゼは主張し、イザベラも苦笑交じりで受け入れた。