第47話
文字数 1,197文字
豪華な玉座に腰掛けたクレメンスは、やがて姿を現すであろうイザベラの姿を扉越しに空想の中で思い描いている。
「陛下、お考えを改める気はございませんか」
相変わらず無表情に、かつ慇懃無礼にハインリヒは若い皇帝に進言する。またかと、いささかうんざりした顔になり、うるさげに手を振った。
「くどいぞハインリヒ。その件に関しては、もう言い渡しているはずだ。イザベラ公女がすぐそこまで来ているというのに、何を考え直す必要があるのだ?」
「何度も申し上げておりますが、イザベラ公女は敵国の将。素直に陛下の后になるとは思えませぬ。どうか自国の娘を后にお迎えくださいませ」
「そなたの身内を迎えよと言うのか? 魂胆が見え見えだぞハインリヒ」
皮肉気に言い、クレメンスは脚を組んだ。目に見えて顔色が悪くなったハインリヒだが、相変わらずポーカーフェイスを崩さない。
「これ以上わたしの后に関して口を挟むようであれば、そなたといえど容赦はせぬぞ」
冷たい、氷のような台詞がハインリヒに突き刺さる。その場に居合わせている臣下たちは、煙たい老臣の様子を興味深げに見守るのみ。
「……容赦しないとは、どういうことでございますか」
「例え先帝から仕える老臣であろうと、わたしの決定に従えぬようであれば、それなりの処置をするということだ。そなたもそろそろ若い者に任せ、出仕も控えて隠居してはどうだ?」
その台詞に、ハインリヒの頬にさっと紅が走った。屈辱を味わった老臣は、僅かに声を震わせて何か言葉を発するが、意味不明な呻きに近いものしか出ない。
「そなたの操り人形であった皇太子時代とは違う。予はこのヴァイスハイト帝国の皇帝だ。予に不満があるならば、即刻この場を立ち去り挙兵の仕度を整えるが良い」
挑むような目で見据えられ、ハインリヒは顔を赤くしたまま若い君主を見ていた。相変わらず無表情ではあったが、明らかに狼狽と怒りを表している。
「陛下」
ハインリヒが何かを言おうとした刹那、扉を守る衛兵がイザベラの到着を告げた。
「開けろ」
やがて大きな扉はゆっくりと左右に開き、女官たちに囲まれたイザベラが真っ直ぐに歩いてきた。
(この女がイザベラ公女)
(噂に名高い猛将とは聞いていたが。なんと、まだこのような小娘であったか)
(随分と若い。しかし、美しいおなごであるな)
(戦乙女も、囚われの身になればただの女。さて、どう出るか)
居並ぶ上級将校たちは思い思いに、イザベラへ無遠慮な視線を投げた。クレメンスは初めて見る彼女に言葉が出ないまま、じっと見つめていた。自分が思った通り、弟のロベルト公子の容姿も貴公子然としていたが、姉は美しく着飾れば極上の華となっていた。ただ惜しいことに、その碧の瞳に激しい怒りの光を宿していることだった。エリーゼは皇帝に向かって一礼すると、隅へ下がった。イザベラは毅然と立ったまま、真っ直ぐにクレメンスの目を見ている。
「陛下、お考えを改める気はございませんか」
相変わらず無表情に、かつ慇懃無礼にハインリヒは若い皇帝に進言する。またかと、いささかうんざりした顔になり、うるさげに手を振った。
「くどいぞハインリヒ。その件に関しては、もう言い渡しているはずだ。イザベラ公女がすぐそこまで来ているというのに、何を考え直す必要があるのだ?」
「何度も申し上げておりますが、イザベラ公女は敵国の将。素直に陛下の后になるとは思えませぬ。どうか自国の娘を后にお迎えくださいませ」
「そなたの身内を迎えよと言うのか? 魂胆が見え見えだぞハインリヒ」
皮肉気に言い、クレメンスは脚を組んだ。目に見えて顔色が悪くなったハインリヒだが、相変わらずポーカーフェイスを崩さない。
「これ以上わたしの后に関して口を挟むようであれば、そなたといえど容赦はせぬぞ」
冷たい、氷のような台詞がハインリヒに突き刺さる。その場に居合わせている臣下たちは、煙たい老臣の様子を興味深げに見守るのみ。
「……容赦しないとは、どういうことでございますか」
「例え先帝から仕える老臣であろうと、わたしの決定に従えぬようであれば、それなりの処置をするということだ。そなたもそろそろ若い者に任せ、出仕も控えて隠居してはどうだ?」
その台詞に、ハインリヒの頬にさっと紅が走った。屈辱を味わった老臣は、僅かに声を震わせて何か言葉を発するが、意味不明な呻きに近いものしか出ない。
「そなたの操り人形であった皇太子時代とは違う。予はこのヴァイスハイト帝国の皇帝だ。予に不満があるならば、即刻この場を立ち去り挙兵の仕度を整えるが良い」
挑むような目で見据えられ、ハインリヒは顔を赤くしたまま若い君主を見ていた。相変わらず無表情ではあったが、明らかに狼狽と怒りを表している。
「陛下」
ハインリヒが何かを言おうとした刹那、扉を守る衛兵がイザベラの到着を告げた。
「開けろ」
やがて大きな扉はゆっくりと左右に開き、女官たちに囲まれたイザベラが真っ直ぐに歩いてきた。
(この女がイザベラ公女)
(噂に名高い猛将とは聞いていたが。なんと、まだこのような小娘であったか)
(随分と若い。しかし、美しいおなごであるな)
(戦乙女も、囚われの身になればただの女。さて、どう出るか)
居並ぶ上級将校たちは思い思いに、イザベラへ無遠慮な視線を投げた。クレメンスは初めて見る彼女に言葉が出ないまま、じっと見つめていた。自分が思った通り、弟のロベルト公子の容姿も貴公子然としていたが、姉は美しく着飾れば極上の華となっていた。ただ惜しいことに、その碧の瞳に激しい怒りの光を宿していることだった。エリーゼは皇帝に向かって一礼すると、隅へ下がった。イザベラは毅然と立ったまま、真っ直ぐにクレメンスの目を見ている。