Ep.83 老駱駝 (chameau)

文字数 1,048文字

 『レ・ジュモン(悪魔チーム)』の三人は、その日のうちにキングと共に『ル・ゾォ(動物園)』本部に戻り、ダナゥたち幹部に戦勝報告をした。そして、その日のうちにデューク大学のフクシマ医師をロンドンに呼び寄せ、ウンバロールの脳外科手術を施した。
 二週間後、ウンバロールは起き上がり、話ができるまでに回復した。
 足は動かなくなっていたが、八ヶ月ぶりに見せる元気な姿は、三十六位までランクが落ちた『ル・ゾォ』に訪れた久々の朗報だった。
 キングは組織全員の前でウンバロールに謝罪し、俺の代理として『ザ・クリエイター』の服従を約束した。
 ウンバロールは俺と会えないことが寂しいようだ。
「セロは来ないのか ?」と、キングに聞いた。
「はい。ゼロは来られません。ですが、お話はできますよ」と、キングは答えた。
「なぜセロは来られないのだ ?」
「ゼロは神になられたのです。もう現世のことには関与致しません」
 ウンバロールは渋い顔をしている。
「何か私に言付けなどはないのかね ?」
 キングと俺は繋がっている。俺はキングに自分の思いを通訳してもらった。
「ウンバロール。無事に治ってよかったです」
「無事、とは言えないがな」
 ウンバロールは自分の動かなくなった太腿を叩いて苦笑いした。
「ご承知の通り、俺は神になりました。いつもあなたと共にいます。あなたがピンチの時には俺に話しかけてください。必ず助けます」
「その言い草。本当に神だな」
「はい」
 ウンバロールは冗談と思っているようだが、俺は本当に神になっている。
 お互いの価値観が完全に違ってしまったので、もう話も噛み合わない。ウンバロールの気持ちは俺にはわかるが、俺の気持ちはウンバロールには伝わらない。バカには話が通じない。これは仕方のないことだ。
「話は以上ですか ?」
 キングはいつものように感情のない笑顔で聞く。ウンバロールはこれ以上話しても仕方がないと思ったようだ。
「わかった。セロによろしく伝えてくれ」と言って話を終わらせた。
 俺は今までの感謝をこめて、車椅子に乗りながら深いお辞儀をした。
「今のあなたの言葉を聞いて、ゼロは深く頭を下げています」
 ウンバロールは作り笑いを返して去っていった。
 だが、俺にはずっとウンバロールの動きが見えている。
 ウンバロールは車に乗って一人呟いた。
「セロ…。パジェス…。二人の子供たちは私の未来だった。だが、もう子供たちは一人もいない。こんな世界なら戻ってなんて来なくてもよかったのにな」
 申し訳ない。
 俺はもう一度、深く頭をさげた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み