Ep.68 ザ・クリエイター (The Creator)
文字数 1,757文字
「それでは教えてくれないか ? どうすれば俺が仇をとれるのか、を」
「ええ。もちろんです」
キングは再び歩きながら話し出した。
「その前にまず、『ザ・クリエイター』の全貌(ぜんぼう)をお話ししましょう」
「頼む」
「『ザ・クリエイター』は、伝説と情報に格差がありすぎて、不思議なギャング組織だと思われています。けれども、現実は情報通り、です」
「どういうことだ ?」
「つまり、これだけ有名で大きな組織なのですが、構成員は私とジャック、そしてボスのテオ。この三人しかいない、ということです」
バカな ! その三人で、どうやってあれだけの数々の伝説を引き起こせた ? パジェスたち、『ル・ゾォ(動物園)』が誇る世界最高峰の武闘派集団がやられたんだぞ ? それがたった三人の手によるモノだなんて。どんな手を使ったのかはわからないが、にわかに信じられる話ではないだろう ?
キングは俺の目を見て笑った。
「信じられない。そういう目をしていらっしゃいますね。けれども、それが全ての事実です」
「どうやって…」
「仕組みが気になりますか ? 私は最初から、あなたに全ての情報を提示していました。神であるテオは全てを知っています。そして神の器である『ベッサル』の信者を操って、自分のやりたいことをおこなうことができます」
「バカな…」
「そして、物理的に難しいオーダー(依頼)は、不死身であるジャックが力づくでこじ開けます。血の二百人事件も、『ル・ゾォ』を相手にした猛獣大虐殺事件も、全てはジャック一人がおこなったことです」
「洗脳に不死身 ? 全知全能 ?」
「ええ。世の中のほとんどは実に合理的です。そこに理想が入る隙間などはありません。ただ、理外(りがい)の理(ことわり)はある。それが私たち、『ザ・クリエイター』でございます」
なるほど。
神に喧嘩を売る。
パジェスが言っていた通りだ。
あの言葉は、ただの表現ではなく、紛れもない現実だった。
俺は、先ほどから感じていた寒気を抑えることができなかった。
「ふふ。震えていらっしゃいますね。そんなことでは神になれませんよ」
「待ってくれ。それではお前は。キング。お前もやっぱり、他の二人と同じように化け物の類(たぐい)なのか ?」
キングは優しく首を振った。
「私は化け物ではありません」
にこやかに話を続ける。
「いえ。私は化け物ですらない、という言葉が正解でしょうか。水や空気と同じ、ただの傍観者です」
「傍観者 ?」
「ええ。私には主義も主張もありません。ただあなたたちが紡ぐ歴史を見学している。それだけの存在です」
それだけの存在。
それだけの存在。
俺が震えている理由が今わかった。
テオやジャックに震えているのではない。
この男に、キングに対して震えていたのだ。
「恐れ、慄(おのの)きましたか ?」
キングは近づいてきて、斜め下から俺の目の中を覗いてくる。
「…冗談じゃない」
俺は精一杯の虚勢を張った。
「俺はお前のことが悪魔のように見える。だからこそ信じよう」
「ほう」
キングは驚いた顔をしてみせた。
「神を倒すため、悪魔に魂を捧げる。英雄神話でもよくある話だ」
「ふふふ。あなたは実に面白い存在ですねぇ」
キングは舌なめずりをして、また歩きはじめた。
「そんなあなたに、朗報を教えましょう。あなたの大好きなウンバロール。彼が再び、頭脳が活発になり、話ができるようになる方法があります」
俺は立ち上がり、キングの背中を目で追った。
「ええ。私は神の知識を全て知っておりますから」
「…教えてはくれないのか ?」
「ふふふ。私は、実は、賭け事が大好きでしてね」
キングは歩き回り、独り言のように話を続ける。
「何でも知っている神でも、未来だけは知ることができないのですよ」
キングは俺の方に振り向いた。
「神も知らない、あなたの選択する未来だけが、神を倒すことができる唯一の武器です」
俺は目線を外さなかった。
「ふふ。ゼロサムゲーム。勝った方が全てを総取りにできるというこの世界の法則。ミスター・セロ。あなたが神になれば、あなたは全てを手に入れることができる。私は、あなたにベットしましょう」
キングは近づいてきて、もう一度俺を抱きしめた。
悪魔の胃袋に納められた感覚。
俺は、自分の意識を保つことで精一杯だった。
「ええ。もちろんです」
キングは再び歩きながら話し出した。
「その前にまず、『ザ・クリエイター』の全貌(ぜんぼう)をお話ししましょう」
「頼む」
「『ザ・クリエイター』は、伝説と情報に格差がありすぎて、不思議なギャング組織だと思われています。けれども、現実は情報通り、です」
「どういうことだ ?」
「つまり、これだけ有名で大きな組織なのですが、構成員は私とジャック、そしてボスのテオ。この三人しかいない、ということです」
バカな ! その三人で、どうやってあれだけの数々の伝説を引き起こせた ? パジェスたち、『ル・ゾォ(動物園)』が誇る世界最高峰の武闘派集団がやられたんだぞ ? それがたった三人の手によるモノだなんて。どんな手を使ったのかはわからないが、にわかに信じられる話ではないだろう ?
キングは俺の目を見て笑った。
「信じられない。そういう目をしていらっしゃいますね。けれども、それが全ての事実です」
「どうやって…」
「仕組みが気になりますか ? 私は最初から、あなたに全ての情報を提示していました。神であるテオは全てを知っています。そして神の器である『ベッサル』の信者を操って、自分のやりたいことをおこなうことができます」
「バカな…」
「そして、物理的に難しいオーダー(依頼)は、不死身であるジャックが力づくでこじ開けます。血の二百人事件も、『ル・ゾォ』を相手にした猛獣大虐殺事件も、全てはジャック一人がおこなったことです」
「洗脳に不死身 ? 全知全能 ?」
「ええ。世の中のほとんどは実に合理的です。そこに理想が入る隙間などはありません。ただ、理外(りがい)の理(ことわり)はある。それが私たち、『ザ・クリエイター』でございます」
なるほど。
神に喧嘩を売る。
パジェスが言っていた通りだ。
あの言葉は、ただの表現ではなく、紛れもない現実だった。
俺は、先ほどから感じていた寒気を抑えることができなかった。
「ふふ。震えていらっしゃいますね。そんなことでは神になれませんよ」
「待ってくれ。それではお前は。キング。お前もやっぱり、他の二人と同じように化け物の類(たぐい)なのか ?」
キングは優しく首を振った。
「私は化け物ではありません」
にこやかに話を続ける。
「いえ。私は化け物ですらない、という言葉が正解でしょうか。水や空気と同じ、ただの傍観者です」
「傍観者 ?」
「ええ。私には主義も主張もありません。ただあなたたちが紡ぐ歴史を見学している。それだけの存在です」
それだけの存在。
それだけの存在。
俺が震えている理由が今わかった。
テオやジャックに震えているのではない。
この男に、キングに対して震えていたのだ。
「恐れ、慄(おのの)きましたか ?」
キングは近づいてきて、斜め下から俺の目の中を覗いてくる。
「…冗談じゃない」
俺は精一杯の虚勢を張った。
「俺はお前のことが悪魔のように見える。だからこそ信じよう」
「ほう」
キングは驚いた顔をしてみせた。
「神を倒すため、悪魔に魂を捧げる。英雄神話でもよくある話だ」
「ふふふ。あなたは実に面白い存在ですねぇ」
キングは舌なめずりをして、また歩きはじめた。
「そんなあなたに、朗報を教えましょう。あなたの大好きなウンバロール。彼が再び、頭脳が活発になり、話ができるようになる方法があります」
俺は立ち上がり、キングの背中を目で追った。
「ええ。私は神の知識を全て知っておりますから」
「…教えてはくれないのか ?」
「ふふふ。私は、実は、賭け事が大好きでしてね」
キングは歩き回り、独り言のように話を続ける。
「何でも知っている神でも、未来だけは知ることができないのですよ」
キングは俺の方に振り向いた。
「神も知らない、あなたの選択する未来だけが、神を倒すことができる唯一の武器です」
俺は目線を外さなかった。
「ふふ。ゼロサムゲーム。勝った方が全てを総取りにできるというこの世界の法則。ミスター・セロ。あなたが神になれば、あなたは全てを手に入れることができる。私は、あなたにベットしましょう」
キングは近づいてきて、もう一度俺を抱きしめた。
悪魔の胃袋に納められた感覚。
俺は、自分の意識を保つことで精一杯だった。