Ep.74 コンビネーション (Combinaison)
文字数 1,905文字
レンドルフは、ジャックの目を自分に向けさせようとしている。
まず、動き出しはレンドルフだ。
ナイフを構えながら、すうっとジャックの懐に飛び込み、横に鋭く一閃する。
ジャックの胸は、ワイシャツごと切り裂かれた。
ジャックもナイフを振り返す。
その時にはすでに、レンドルフは射程圏外に下がっている。
さらに、ジャックが振った腕に照準を合わせ、追撃を加えた。
レンドルフの使用する武術、TIOR-C4は、不意打ちに適している一撃必殺の軍隊格闘術だ。本来は、真正面からの攻撃には向かない。だが、さすがは俺の師匠だ。誰よりも素早い。ジャックとはテンポが二段階は違う。
「ダメージを与えているようだが、あれもライオットが使ってたナックルダスターみたいな武器なのか ?」
「そうです。それと、ミスター・パジェスの銃も。『ソウルイーター(魂喰らい)』。そう呼ばれてい武器です」
「ソウルイーター ?」
「ええ」
パジェスは、近接格闘術はレンドルフほど凄くはない。だが、銃の腕前は神業だ。そのパジェスが、ジャックにダメージを与えられる銃を持っている。
だったら負ける気がしない。
しかし、なぜかパジェスは銃を撃とうとはしていなかった。
闘いは、最初のうちはレンドルフが優勢だった。
だが、徐々にレンドルフの動きを覚えたのか、ジャックの反撃も増えてくる。
レンドルフがジャックと相対し、横からパジェスが、ジャックの隙を目掛けてナイフで攻撃をする。
だが、パジェスのナイフは『ソウルイーター』ではない。
全くダメージを与えられない。
そのことに気づいたジャックは、パジェスではなく、レンドルフ一人に狙いを定めた。
「レンドルフは、いつもより疲弊していませんか ?」
俺と同じくTIOR-C4を習っているウォーカーが、レンドルフの動きの違和感に気がつく。確かに、いくら緊張感のある闘いとはいえ、こんなに早く疲れるレンドルフは見たことがない。
「それは『ソウルイーター』の特性です」
「特性 ?」
「何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはなりません。『ソウルイーター』はその名の通り、攻撃に使用すればするほど、体力が削られていきます。しかも、距離が長いほど大きく体力を削られるので、先ほどのミスター・ライオットよりも、ミスター・レンドルフさんのナイフの方が、たくさんの体力を消耗しているでしょう」
そうか。パジェスが銃を一発も撃っていないのは、撃つと一気に体力を消耗してしまうからだったんだ。
そう言われてみると、レンドルフも不自然なほどフェイントが多く、実際に攻撃するタイミングが極端に少ない。きっと、確実な時にしか攻撃をしないようにしているのだろう。
二人は、千載一遇のチャンスをひたすら待つ。
そして、その時はやってきた。
ジャックの大振りの突きを、レンドルフがギリギリで避けた、その時だ。
レンドルフは避けながら、先程まで右手に持っていたナイフを左手に持ち替えている。
そのナイフで、ジャックを、下から縦に切り裂く。
ジャックは、レンドルフのナイフの位置を見失っていた。
一瞬の混乱。
同時に、右からパジェスが飛び込む。
ジャックが振り向いた瞬間、パジェスはナイフの刃を飛ばす。パジェスのナイフはスペツナズ・ナイフといって、バネの力によって刀身を飛ばすことができるのだ。
刀身は時速六十キロで、ジャックの目元に向かって飛んでいった。
もちろん、ジャックに傷をつけることはできない。
だが、これは目眩し。
ジャックの視線を妨げておいて、パジェスは胸元から、銀色に光る銃を取り出した。
絶対に外してはいけない一撃。
パジェスはジャックの左目に銃口を当てにいく。
狙いはゼロ距離発射からの脳髄破壊だ。
ジャックもそれに気づいて、左手に拳銃を出現させる。
狙いはパジェス。
が、その左手は、手首ごと切り落とされた。
レンドルフによる渾身の一撃。
二人のコンビネーションは見事だった。
パジェスの押し当てた拳銃が火を吹き、銃弾は寸分の狂いもなく、ジャックの左目を通過し、脳みそを破壊した。
パジェスは、ジャックの体を蹴って素早く飛び退(すさ)る。
レンドルフも一歩下がる。
二人の間には、左手首を落とし、左目を拳銃で撃たれている、動かない大男だけが残った。
「やったか ?」
「そのようだな。だが、まだ油断はできない」
そんな会話が聞こえてきそうな動きをした後、レンドルフは慎重にジャックに近づき、背後から、もう片方の手首と、ついでに首まで切り落とした。
ゴトリ。
ジャックは、小さな音を立てて手首と頭を落とした後、ようやく首のない体を地面に倒れ伏した。
まず、動き出しはレンドルフだ。
ナイフを構えながら、すうっとジャックの懐に飛び込み、横に鋭く一閃する。
ジャックの胸は、ワイシャツごと切り裂かれた。
ジャックもナイフを振り返す。
その時にはすでに、レンドルフは射程圏外に下がっている。
さらに、ジャックが振った腕に照準を合わせ、追撃を加えた。
レンドルフの使用する武術、TIOR-C4は、不意打ちに適している一撃必殺の軍隊格闘術だ。本来は、真正面からの攻撃には向かない。だが、さすがは俺の師匠だ。誰よりも素早い。ジャックとはテンポが二段階は違う。
「ダメージを与えているようだが、あれもライオットが使ってたナックルダスターみたいな武器なのか ?」
「そうです。それと、ミスター・パジェスの銃も。『ソウルイーター(魂喰らい)』。そう呼ばれてい武器です」
「ソウルイーター ?」
「ええ」
パジェスは、近接格闘術はレンドルフほど凄くはない。だが、銃の腕前は神業だ。そのパジェスが、ジャックにダメージを与えられる銃を持っている。
だったら負ける気がしない。
しかし、なぜかパジェスは銃を撃とうとはしていなかった。
闘いは、最初のうちはレンドルフが優勢だった。
だが、徐々にレンドルフの動きを覚えたのか、ジャックの反撃も増えてくる。
レンドルフがジャックと相対し、横からパジェスが、ジャックの隙を目掛けてナイフで攻撃をする。
だが、パジェスのナイフは『ソウルイーター』ではない。
全くダメージを与えられない。
そのことに気づいたジャックは、パジェスではなく、レンドルフ一人に狙いを定めた。
「レンドルフは、いつもより疲弊していませんか ?」
俺と同じくTIOR-C4を習っているウォーカーが、レンドルフの動きの違和感に気がつく。確かに、いくら緊張感のある闘いとはいえ、こんなに早く疲れるレンドルフは見たことがない。
「それは『ソウルイーター』の特性です」
「特性 ?」
「何かを得るためには何かを犠牲にしなくてはなりません。『ソウルイーター』はその名の通り、攻撃に使用すればするほど、体力が削られていきます。しかも、距離が長いほど大きく体力を削られるので、先ほどのミスター・ライオットよりも、ミスター・レンドルフさんのナイフの方が、たくさんの体力を消耗しているでしょう」
そうか。パジェスが銃を一発も撃っていないのは、撃つと一気に体力を消耗してしまうからだったんだ。
そう言われてみると、レンドルフも不自然なほどフェイントが多く、実際に攻撃するタイミングが極端に少ない。きっと、確実な時にしか攻撃をしないようにしているのだろう。
二人は、千載一遇のチャンスをひたすら待つ。
そして、その時はやってきた。
ジャックの大振りの突きを、レンドルフがギリギリで避けた、その時だ。
レンドルフは避けながら、先程まで右手に持っていたナイフを左手に持ち替えている。
そのナイフで、ジャックを、下から縦に切り裂く。
ジャックは、レンドルフのナイフの位置を見失っていた。
一瞬の混乱。
同時に、右からパジェスが飛び込む。
ジャックが振り向いた瞬間、パジェスはナイフの刃を飛ばす。パジェスのナイフはスペツナズ・ナイフといって、バネの力によって刀身を飛ばすことができるのだ。
刀身は時速六十キロで、ジャックの目元に向かって飛んでいった。
もちろん、ジャックに傷をつけることはできない。
だが、これは目眩し。
ジャックの視線を妨げておいて、パジェスは胸元から、銀色に光る銃を取り出した。
絶対に外してはいけない一撃。
パジェスはジャックの左目に銃口を当てにいく。
狙いはゼロ距離発射からの脳髄破壊だ。
ジャックもそれに気づいて、左手に拳銃を出現させる。
狙いはパジェス。
が、その左手は、手首ごと切り落とされた。
レンドルフによる渾身の一撃。
二人のコンビネーションは見事だった。
パジェスの押し当てた拳銃が火を吹き、銃弾は寸分の狂いもなく、ジャックの左目を通過し、脳みそを破壊した。
パジェスは、ジャックの体を蹴って素早く飛び退(すさ)る。
レンドルフも一歩下がる。
二人の間には、左手首を落とし、左目を拳銃で撃たれている、動かない大男だけが残った。
「やったか ?」
「そのようだな。だが、まだ油断はできない」
そんな会話が聞こえてきそうな動きをした後、レンドルフは慎重にジャックに近づき、背後から、もう片方の手首と、ついでに首まで切り落とした。
ゴトリ。
ジャックは、小さな音を立てて手首と頭を落とした後、ようやく首のない体を地面に倒れ伏した。