Ep.27 つきあう (Oh mon amour...)
文字数 1,225文字
証約手付(しょうやくてつけ)程度の目合(まぐわい)が終わり、俺たちは、裸で布団にくるまっていた。羽毛布団の中は二人の体温が混ざり合い、濃厚な安らぎに溢(あふ)れている。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
その安らぎを、スマートフォンの着信音が破った。ウォーカーに渡されていたスマートフォンだ。
画面を確認する。
『大会実行委員』か。
俺は、電話に出るしかなかった。
「はい」
「セロ。今、どこにいるんだい ?」
「今、ちょっと」
「ホテルにはいるのかい ?」
「まぁ…」
「それはよかった。もうすぐパーティが終わるんだ。少しでいいから、締(し)めの言葉を言いに来てくれ。主役がいないとパーティが終わらん」
俺は行きたくなかったので、ニタルトと目を合わせた。ニタルトは、スマートフォンのマイク部分をそっと指で押さえ、小声で、俺に囁(ささや)いた。
「大会の申し込み契約に、入賞した人は祝勝会に参加して、最初と最後にスピーチをすることって書いてあったわよ」
「じゃあ、行かなきゃダメか…」
俺は、「行かなくてもいい」と言ってくれないかなという期待を込めて、わざとだるそうな顔をし、愛おしそうにニタルトを見つめた。
ニタルトの瞳は、「行かなきゃいけない」としっかりと答えた。
観念した。
俺は、再度電話で答えた。
「分かりました。今から向かいます」
「あと十分だ。頼んだぞ」
俺は電話を切り、半身を起き上がらせ、スマートフォンを放り投げた。
ニタルトは、まだ布団に潜ったままだ。
「ニタルトは…、どうする ?」
「私は…、もう少し寝てていい ?」
「ああ」
言って服を着ながら、思い切って俺は続けた。
「いっそ、泊まっていかないか ?」
ほら、こんなに広いところ、俺一人でいても仕方ないし…。それに、お前と、ずっと一緒にいたいし…。
言い訳はスコール前の雲のように、どこまででもモクモクと湧き上がってくる。けれども、それらの言い訳は、口に出す必要がなかった。
ニタルトの瞳が輝き、早口で割り込む。
「泊まっていいの ?」
勢いが凄い。
「もちろん」
「やった。明日は直接、ここから出勤していいのね。夢みたい」
ニタルトは嬉しそうだ。
俺も嬉しい。
ただ、ニタルトが喜んでいるのは、恋人と一緒に一晩を過ごせるからではなく、出勤しやすいという理由からだ。もうニタルトは、現実的に戻っている。
もしかしたら最初から現実的だったのかもしれないが、俺にとっては十年越しで手に入れたお宝なんだ。もう少し余韻に浸らせてくれてもいいものなのに。
だが、俺は知っている。
ロマンチストでありながら、最終的にはリアリスト(現実主義者)。それが女だ、ということを。
こうして徐々に、俺の権利に侵食してきて、やがて当然のように、さまざまな権利を主張して、いずれは、俺の心の真ん中に居座ってくるのだろう。
「自由の搾取」と「性愛の付与」。
俺は、ニタルトと付き合ったのだということを、初めて実感することができた。
どのくらいの時間が過ぎたのだろう。
その安らぎを、スマートフォンの着信音が破った。ウォーカーに渡されていたスマートフォンだ。
画面を確認する。
『大会実行委員』か。
俺は、電話に出るしかなかった。
「はい」
「セロ。今、どこにいるんだい ?」
「今、ちょっと」
「ホテルにはいるのかい ?」
「まぁ…」
「それはよかった。もうすぐパーティが終わるんだ。少しでいいから、締(し)めの言葉を言いに来てくれ。主役がいないとパーティが終わらん」
俺は行きたくなかったので、ニタルトと目を合わせた。ニタルトは、スマートフォンのマイク部分をそっと指で押さえ、小声で、俺に囁(ささや)いた。
「大会の申し込み契約に、入賞した人は祝勝会に参加して、最初と最後にスピーチをすることって書いてあったわよ」
「じゃあ、行かなきゃダメか…」
俺は、「行かなくてもいい」と言ってくれないかなという期待を込めて、わざとだるそうな顔をし、愛おしそうにニタルトを見つめた。
ニタルトの瞳は、「行かなきゃいけない」としっかりと答えた。
観念した。
俺は、再度電話で答えた。
「分かりました。今から向かいます」
「あと十分だ。頼んだぞ」
俺は電話を切り、半身を起き上がらせ、スマートフォンを放り投げた。
ニタルトは、まだ布団に潜ったままだ。
「ニタルトは…、どうする ?」
「私は…、もう少し寝てていい ?」
「ああ」
言って服を着ながら、思い切って俺は続けた。
「いっそ、泊まっていかないか ?」
ほら、こんなに広いところ、俺一人でいても仕方ないし…。それに、お前と、ずっと一緒にいたいし…。
言い訳はスコール前の雲のように、どこまででもモクモクと湧き上がってくる。けれども、それらの言い訳は、口に出す必要がなかった。
ニタルトの瞳が輝き、早口で割り込む。
「泊まっていいの ?」
勢いが凄い。
「もちろん」
「やった。明日は直接、ここから出勤していいのね。夢みたい」
ニタルトは嬉しそうだ。
俺も嬉しい。
ただ、ニタルトが喜んでいるのは、恋人と一緒に一晩を過ごせるからではなく、出勤しやすいという理由からだ。もうニタルトは、現実的に戻っている。
もしかしたら最初から現実的だったのかもしれないが、俺にとっては十年越しで手に入れたお宝なんだ。もう少し余韻に浸らせてくれてもいいものなのに。
だが、俺は知っている。
ロマンチストでありながら、最終的にはリアリスト(現実主義者)。それが女だ、ということを。
こうして徐々に、俺の権利に侵食してきて、やがて当然のように、さまざまな権利を主張して、いずれは、俺の心の真ん中に居座ってくるのだろう。
「自由の搾取」と「性愛の付与」。
俺は、ニタルトと付き合ったのだということを、初めて実感することができた。