Ep.42 相談 (Consultation)

文字数 1,261文字

「オルク(シャチ) !」
 次の日、俺はすぐにパジェスに会いにいった。
「内密の話があるんだ」
「どうした ?」
「実は…、どうしても盗みたいものができて…」
 笑顔だったパジェスの顔が曇った。
「ん ? なんだ ?」
 こういう物はサプライズで渡したいが、いくら侵入部隊隊長といえども、パジェスの許可なく勝手に盗みをおこなってはならない。なぜなら、組織に迷惑をかける可能性がある、と言われているからだ。
「これなんだ」
 俺はノートPCを開けて、トレジャーカタログに載っているSSSランク・トレジャー、『ザ・ファースト・エッグ(始まりの卵)』を見せた。
「ほう」
 パジェスは少し見てから、すぐに問いかけてきた。
「で、なぜこれが欲しいんだい ?」
「もうすぐウンバロールの誕生日じゃないですか。このSSSランクのお宝を盗めば、『ル・ゾォ(動物園)』のランキングは一桁になります。俺はウンバロールに、このお宝をプレゼントしたいんだ」
「なるほど…」
 パジェスは説明文を指でなぞった後、もう一度問いかけてきた。
「しかし、どこにあるか分からない、と書いてあるぞ」
「はい。それが昨日、俺が見つけました !」
 俺は、自慢げに目を開いた。
「俺たちは普段、オーダー(依頼)を受けて盗むタイプの泥棒をしている。その方が他のグループからの信用が上がるからだ。だが、場所がわかっているのなら、クエスト(探求)で盗むことを考える余地はあるな。どこにあるんだ ?」
「昨日忍び込んだイギリス貴族の豪邸にありました !」
 俺は意気揚々だ。だがパジェスの顔は曇った。
「あの家か…」
 パジェスは腕を組んだ。
「あの家は…まずい。やめておけ」
「なんでなんですか ?」
「まだはっきりとは分かっていないがな…」
 パジェスは、俺の耳に口を近づけた。
「あの家は、イギリス王家と深い関わりがあるらしいんだよ」
 俺は意味がわからなかった。イギリス王家と関わりが深いからどうだというのだろう。見つからなければいいだけの話だ。
「え ? それって…」
「この話は一旦おしまいだ。思うところがあるから、ル・ポーン(孔雀)には話しておこう。もし調査をしてみて、安全だということが確かめられたら、その時は必ず、お前にこのクエストを頼もう。とにかく、もうこの話は忘れろ。手を出すな。ウンバロールのプレゼントは、今年は別の物を考えた方がいい」
「しかし…」
 パジェスは、俺の肩を軽く掴んだ。
「いいか。俺やウンバロールは、お前が健康で、俺たちの役に立ってくれていることが何よりの宝物なんだ。他にはいらない。いつも感謝している。誕生日にしっかりと会いにいって、一言おめでとうとでも言え。それだけでウンバロールは喜んでくれる」
 優しい目だ。
「わかったか ?」
 俺はうなづいた。
「うん。よかった。次の仕事の時にまた連絡する。コカドリーユ(コカトリス)は、いつでも俺に相談してきていいからな。とりあえず暴走だけはするな。昔とは違うんだ」
「わかったよ」
 パジェスはもう一度俺の肩を叩き、手を挙げて自分の事務室へと戻っていった。
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