Ep.81 秘密の部屋 (La Chambre Secrète)
文字数 1,621文字
俺は十二階に向かった。
後ろではジャックの唸り声や激しい衝撃音が聞こえるが、もう振り向かない。
仲間の強さだけを信じる。
俺は、先ほど修正したばかりの十三階の地図と十二階の地図を重ねて、持っていたスマートフォンのライトで照らした。
二つが透けて、重なって見える。
ここだ。
目的の場所はすぐに見つかった。
俺は確信を持って、その位置に向かった。
その位置は、真っ直ぐな通路で何の変哲もない。壁には既に、先ほど自分が調べた印である、白い線が引いてある。だが、この通路でまだ調べていないところがある。
天井だ。
パジェスが『ブラック・ブラッディ・ボックス』に入った時と今回とで、通路が変わっている階は二箇所あった。そして共通しているのは、4×4メートルの壁があるかないかで変わっている、ということだ。
つまり、この4×4メートルの壁の中に部屋があり、そこにテオが潜んでいるに違いない。
テオは車椅子で移動していたので、段差のない場所に隠れていると普通なら思い込んでしまう。しかしおそらく下から入ることができる部屋がある。
俺は、目的の場所に着くと天井を凝視した。
天井は三メートル近くの高さがあるが、一流のパルクーラーにとってはたいした障害にはならない。通路が狭いので天井に張りつく事ができる。
俺は壁を駆け上がって、天井を調べ始めた。
すぐに階段の方から大きな音がする。
振り向くと、ジャックが降りてきている。
まさか ! みんながやられたのか ?
俺は心配した。だが、すぐにジャックの後を追いかけている足音も聞こえてきた。三人分の足音だ。
「ル・ポーン(孔雀) ! どういうことだ ?」
「ジャックが急に、あなたの元に向かっていったの !」
これで先ほどのジャックの謎行動と一致した。
先ほどウォーカーとゲラルハが一回で戦っていた時も、この近辺に俺とエリザベータが来た時だけ、目の前の敵を無視して俺たちの方に向かってきた。今回もここに来たからジャックが向かってきた。
ということは、ここにテオの部屋があるから向かってくる。
間違いない。
俺は緊張と確信を同時に覚えた。
ジャックは一直線に俺に向かってくる。
三人は一歩遅れているので、一合は拳を交わさなくてはならない。
俺は地面に降りて、身構えた。
スピードと反応速度にはかなりの差がある。問題ない。
だがジャックは、今まで一度も放ったことのない蹴りを放った。
腕の動きばかりを見ていたため、一瞬反応が遅れる。
かすかにジャックの蹴りが当たり、俺は二回転しながら吹き飛んだ。
『ザ・ファースト・エッグ(始まりの卵)』がポケットからこぼれる。
反射的にそれをつかむ。
ジャックは一瞬動きを止めた。
背後からウォーカーがジャックを突き刺している。
ジャックは腕を振るって応戦した。既にナイフを手にしている。
「セロ。お前はテオを見つけろ ! お前の敵は、いつだって僕が食い散らかしてやる !!」
ウォーカーは両手を広げ、まるで肉食獣のような趣でジャックの前に立ちはだかった。
相棒。なんて頼れる男なんだ。
俺は信頼して、壁と天井を利用して上に張りつき、必死で天井を探した。
どこだ。
どこにある。
その時、全く他と変わりのない天井の一箇所が、『ザ・ファースト・エッグ』と引き合っているような気がした。
俺は片手と両足で身体を支え、『ザ・ファースト・エッグ』を手に持ってみた。くぼみが見える。俺は、そのくぼみに、卵を嵌(は)め込んだ。
「アンロック(解除)」
『ブラック・ブラッディ・ボックス』に入った時にキングが唱えていた単語を口ずさむ。卵を離さない俺の手が天井にゆっくりと吸い込まれていく。腕、頭、体…。
足元でジャックが暴れている音が聞こえるが、天井に入りはじめている俺に物理的な攻撃は届かない。
俺は小さな部屋に浮かび上がり、一人の車椅子に乗った人と相対していた。
映像で見たあの老人。
テオだ。
後ろではジャックの唸り声や激しい衝撃音が聞こえるが、もう振り向かない。
仲間の強さだけを信じる。
俺は、先ほど修正したばかりの十三階の地図と十二階の地図を重ねて、持っていたスマートフォンのライトで照らした。
二つが透けて、重なって見える。
ここだ。
目的の場所はすぐに見つかった。
俺は確信を持って、その位置に向かった。
その位置は、真っ直ぐな通路で何の変哲もない。壁には既に、先ほど自分が調べた印である、白い線が引いてある。だが、この通路でまだ調べていないところがある。
天井だ。
パジェスが『ブラック・ブラッディ・ボックス』に入った時と今回とで、通路が変わっている階は二箇所あった。そして共通しているのは、4×4メートルの壁があるかないかで変わっている、ということだ。
つまり、この4×4メートルの壁の中に部屋があり、そこにテオが潜んでいるに違いない。
テオは車椅子で移動していたので、段差のない場所に隠れていると普通なら思い込んでしまう。しかしおそらく下から入ることができる部屋がある。
俺は、目的の場所に着くと天井を凝視した。
天井は三メートル近くの高さがあるが、一流のパルクーラーにとってはたいした障害にはならない。通路が狭いので天井に張りつく事ができる。
俺は壁を駆け上がって、天井を調べ始めた。
すぐに階段の方から大きな音がする。
振り向くと、ジャックが降りてきている。
まさか ! みんながやられたのか ?
俺は心配した。だが、すぐにジャックの後を追いかけている足音も聞こえてきた。三人分の足音だ。
「ル・ポーン(孔雀) ! どういうことだ ?」
「ジャックが急に、あなたの元に向かっていったの !」
これで先ほどのジャックの謎行動と一致した。
先ほどウォーカーとゲラルハが一回で戦っていた時も、この近辺に俺とエリザベータが来た時だけ、目の前の敵を無視して俺たちの方に向かってきた。今回もここに来たからジャックが向かってきた。
ということは、ここにテオの部屋があるから向かってくる。
間違いない。
俺は緊張と確信を同時に覚えた。
ジャックは一直線に俺に向かってくる。
三人は一歩遅れているので、一合は拳を交わさなくてはならない。
俺は地面に降りて、身構えた。
スピードと反応速度にはかなりの差がある。問題ない。
だがジャックは、今まで一度も放ったことのない蹴りを放った。
腕の動きばかりを見ていたため、一瞬反応が遅れる。
かすかにジャックの蹴りが当たり、俺は二回転しながら吹き飛んだ。
『ザ・ファースト・エッグ(始まりの卵)』がポケットからこぼれる。
反射的にそれをつかむ。
ジャックは一瞬動きを止めた。
背後からウォーカーがジャックを突き刺している。
ジャックは腕を振るって応戦した。既にナイフを手にしている。
「セロ。お前はテオを見つけろ ! お前の敵は、いつだって僕が食い散らかしてやる !!」
ウォーカーは両手を広げ、まるで肉食獣のような趣でジャックの前に立ちはだかった。
相棒。なんて頼れる男なんだ。
俺は信頼して、壁と天井を利用して上に張りつき、必死で天井を探した。
どこだ。
どこにある。
その時、全く他と変わりのない天井の一箇所が、『ザ・ファースト・エッグ』と引き合っているような気がした。
俺は片手と両足で身体を支え、『ザ・ファースト・エッグ』を手に持ってみた。くぼみが見える。俺は、そのくぼみに、卵を嵌(は)め込んだ。
「アンロック(解除)」
『ブラック・ブラッディ・ボックス』に入った時にキングが唱えていた単語を口ずさむ。卵を離さない俺の手が天井にゆっくりと吸い込まれていく。腕、頭、体…。
足元でジャックが暴れている音が聞こえるが、天井に入りはじめている俺に物理的な攻撃は届かない。
俺は小さな部屋に浮かび上がり、一人の車椅子に乗った人と相対していた。
映像で見たあの老人。
テオだ。