Ep.65 勝敗 (Gagner ou Perde)
文字数 1,434文字
「運命を知るのは、まだ先でしたね」
キングは、俺に、もう一枚、カードを配った。
「待ってくれ」
「ん ?」
キングは、不思議そうな顔をする。
「あんたは、このカードの中身を知っている可能性がある。ここは、俺に引かせてくれないか ?」
「いいですよ。けれども、私は、このカードを引くと、あなたが勝つことを知っています。それでも、御自分で引かれるのですか ?」
「不躾(ぶしつけ)なことはよくわかっている。だが、運命は、自分が、この手で引き当てたい」
キングは、興味深いという顔をして、俺の表情を味わっている。
「…なるほど。では、お好きなカードを、お選びください」
キングは、残りのカードを裏返したまま、机に広げた。
俺は、集中してカードを見る。
何枚か、光っているように思えるカードがある。
俺は悩んだ。
この一枚で未来が変わるかもしれない。
だが、その中でも、一番光っているような気がするカードに手をかけた。
ゆっくりと。
めくる。
出た数字は。
絵柄のキングだった。
「私の絵柄を引くとはついていませんね。キングは0点なので、あなたの負けです」
「ああ。俺の負けだ。約束通り、チップは持っていってくれ」
キングは頭を下げた後、山と積まれているチップを、自分の手元に引き寄せた。
「しかし、あなたも変わっていますね。私があなたに渡したカードは7。合計は9になるはずでした。ラッキーセブンをあなたに渡したかったのに、わざわざそれを拒否して、よりにもよってキング。私のカードを引いてしまうとは」
俺は、チップが収納されていく様子を見ながら、無言でキングの話を聞いていた。
「それで、どうします ? 今まで稼いだチップは、全て無くなってしまいましたが」
「うん」
俺は、椅子に座り直して、キングの目を見た。
「それでは、情報を教えてもらおう」
キングは目を丸くした。
「あなたは今、勝負に負けましたよね ?」
「ああ。負けた」
「もしかして、この平和なカジノに、悪の華を咲かそうとでもいうのですか ?」
「いや。約束通りだ」
怪訝(けげん)そうな顔をするキングに、俺は、録音しておいた最初の約束を再生して聞かせた。
『俺が勝っても負けても、このチップはあなたに返そう。だが、その代わりに、勝ったら、俺の知りたい情報を全て教えてもらいたい』
「勝負とは関係なく、俺はあんたにチップを返す。その代わりに、あんたが勝ったら、全てを教えてもらう。そういう約束だったはずだ」
「なるほど。勝ったらというのは、あなたが、ではなく、私が、という意味だったのですね」
キングは、下を向いて、小さく何度もうなづいた。
「…こざかしい」
また何度もうなづく。
「実に、実にこざかしい !!」
キングの上げた顔は、笑顔に満ちあふれていた。
「うん。私は、あなたのことが、実に気に入りました。人間の美、醜、全てが、高密度で内在しています」
キングは近寄ってきて、ジロジロと、俺をねぶるように、上から下まで睨(ね)め回(まわ)し、その後、全力で、身体中を触りまわした。
俺は感情を無(む)に保(たも)つ。
「素晴らしい」
そのまま、周りにいる全ての店員に言う。
「みなのもの。この部屋から出ていってくれ。私を、この男と二人きりにさせてくれ。この男は安全だ。何かあれば、すぐにベルを鳴らす。それまでは、この部屋に、誰も入れないようにしてくれ」
キングが手で追い払う仕草を見せると、店員たちは、用心棒も含め、全員が、『アイーダルーム』から出ていった。
キングは、俺に、もう一枚、カードを配った。
「待ってくれ」
「ん ?」
キングは、不思議そうな顔をする。
「あんたは、このカードの中身を知っている可能性がある。ここは、俺に引かせてくれないか ?」
「いいですよ。けれども、私は、このカードを引くと、あなたが勝つことを知っています。それでも、御自分で引かれるのですか ?」
「不躾(ぶしつけ)なことはよくわかっている。だが、運命は、自分が、この手で引き当てたい」
キングは、興味深いという顔をして、俺の表情を味わっている。
「…なるほど。では、お好きなカードを、お選びください」
キングは、残りのカードを裏返したまま、机に広げた。
俺は、集中してカードを見る。
何枚か、光っているように思えるカードがある。
俺は悩んだ。
この一枚で未来が変わるかもしれない。
だが、その中でも、一番光っているような気がするカードに手をかけた。
ゆっくりと。
めくる。
出た数字は。
絵柄のキングだった。
「私の絵柄を引くとはついていませんね。キングは0点なので、あなたの負けです」
「ああ。俺の負けだ。約束通り、チップは持っていってくれ」
キングは頭を下げた後、山と積まれているチップを、自分の手元に引き寄せた。
「しかし、あなたも変わっていますね。私があなたに渡したカードは7。合計は9になるはずでした。ラッキーセブンをあなたに渡したかったのに、わざわざそれを拒否して、よりにもよってキング。私のカードを引いてしまうとは」
俺は、チップが収納されていく様子を見ながら、無言でキングの話を聞いていた。
「それで、どうします ? 今まで稼いだチップは、全て無くなってしまいましたが」
「うん」
俺は、椅子に座り直して、キングの目を見た。
「それでは、情報を教えてもらおう」
キングは目を丸くした。
「あなたは今、勝負に負けましたよね ?」
「ああ。負けた」
「もしかして、この平和なカジノに、悪の華を咲かそうとでもいうのですか ?」
「いや。約束通りだ」
怪訝(けげん)そうな顔をするキングに、俺は、録音しておいた最初の約束を再生して聞かせた。
『俺が勝っても負けても、このチップはあなたに返そう。だが、その代わりに、勝ったら、俺の知りたい情報を全て教えてもらいたい』
「勝負とは関係なく、俺はあんたにチップを返す。その代わりに、あんたが勝ったら、全てを教えてもらう。そういう約束だったはずだ」
「なるほど。勝ったらというのは、あなたが、ではなく、私が、という意味だったのですね」
キングは、下を向いて、小さく何度もうなづいた。
「…こざかしい」
また何度もうなづく。
「実に、実にこざかしい !!」
キングの上げた顔は、笑顔に満ちあふれていた。
「うん。私は、あなたのことが、実に気に入りました。人間の美、醜、全てが、高密度で内在しています」
キングは近寄ってきて、ジロジロと、俺をねぶるように、上から下まで睨(ね)め回(まわ)し、その後、全力で、身体中を触りまわした。
俺は感情を無(む)に保(たも)つ。
「素晴らしい」
そのまま、周りにいる全ての店員に言う。
「みなのもの。この部屋から出ていってくれ。私を、この男と二人きりにさせてくれ。この男は安全だ。何かあれば、すぐにベルを鳴らす。それまでは、この部屋に、誰も入れないようにしてくれ」
キングが手で追い払う仕草を見せると、店員たちは、用心棒も含め、全員が、『アイーダルーム』から出ていった。