Ep.75 そして誰もいなくなった (Ils Etaient Soixante)
文字数 2,146文字
完全にジャックを倒した二人は、その場にへたり込んだ。お互いに顔を見合わせ、グータッチを交わす。
かっこいい。
俺は、心が痺れた後で考えた。
パジェスとレンドルフはジャックに殺されると思っていた。しかし勝った。いくら化け物とはいえ、首と手が無ければ戦えない。
「キング」
「はい ?」
「パジェスたち、勝ったんだよな ? じゃあ、なんで」
言いながら、映像を見ていた俺の頭はひっくり返った。
なんと映像には、たった今倒したばかりのジャックが、完全無傷で立っているのだ。
「なんで !」
エリザベータが叫ぶ。
「たとえ無敵でも、復活するのは一時間後じゃねぇのか ?」
キングは当然という顔で、スマして答える。
「やられてから一時間後ではありません。大体一時間おきにキングは元の姿に戻る。つまり、今がちょうど、その一時間後だった、というわけです。運命は、彼らに微笑みませんでしたね」
「無理ゲーすぎんぜ…」
ゲラルハは呟いた。
ジャックはなんの感情もなく、無慈悲に二人との距離を詰めていく。二人は階段に向かって逃げようとした。今こうしてジャックを倒すことができた二人だ。体力さえ回復すれば、まだ戦うことはできる。
パジェスは痙攣(けいれん)する足を引きずり、必死で立ち上がって進む。
だが、レンドルフは立ち上がることができない。自分の足を叩いているが、先ほどの戦いで力を使い尽くしたのだろう。全く動けない。
ジャックは二人を見比べて、動けないレンドルフの方に向かった。パジェスが自分に注意を向かせようとして叫んでいるが、なんの反応もない。
パジェスは再び、懐(ふところ)から銀色に光る銃を取り出した。ゼロ距離でさえこれだけ疲弊する『ソウルイーター』だ。五メートルも離れた場所から撃てばどうなるか、聡明なパジェスならわかるはずだ。
それでもパジェスは、一切の躊躇(ためら)いもなく、トリガーを引いた。
ジャックは、パジェスが銃を取り出す仕草を見て、振り向きながら、拳銃を自分の手に出現させる。
パジェスの放った弾は、ジャックの脳へと一直線に飛んでいった。
だが先ほどとは違い、ジャックは腕で防御する。
パジェスはふらついていたが、さらに三発、もはや照準の定まらぬ銃口から弾丸を発射させた。
それでもさすがは銃撃の名人だ。全ての弾がジャックの体に命中した。
だが、動きを完全に止めるまでには至らない。
パジェスは力尽きたように両手を広げ、ゆっくりと後ろに重心を傾けた。目を閉じている。すでに意識はなさそうだ。
ジャックはその死に体に向けて、無慈悲に拳銃を構えた。
ジャックの背後からは、最後の力を振り絞り、レンドルフがナイフでジャックの心臓を刺す。
だが、その行動をやめさせるには一歩遅かった。
パン。
パン。
パン。
パン。
パン。
パジェスの端正な顔に、次々と銃弾が突き刺さる。
パジェスは何の反応もなく、ただ無表情に、地面に仰向けに倒れた。
ゴン。
音は無いが、頭蓋骨が地面を叩く音が聞こえる。
ジャックは銃弾が空になった拳銃を捨て、ゆっくりとレンドルフの方に向き直った。銃で撃たれて、心臓を刺されているのだ。相当のダメージを負っている。
だが、立ち向かうレンドルフにも、もはや力は残っていない。じっと動かず、独り言を呟いて、ジャックが自分の近くに来るタイミングを見計らっている。もう自分では立っているのがやっとなのだ。
ジャックがナイフを振り上げた瞬間、レンドルフは、ジャックの顔面目掛けてナイフを投げつけた。
サクッ。
まるでスイカに投げつけたかのように小気味よく、ジャックの顔にナイフが突き刺さる。
そして、カウンターのようにレンドルフの肩口にも。
サクッ。
刃は深く、心臓まで切り裂いた。
レンドルフは、ゆっくりと倒れた。
だが、ジャックも力尽きたようだ。レンドルフの上に、覆い被さるようにして倒れる。
しばらくして、機械は「人がいない」と判断したのだろう。
映像は全ての画面で止まり、スクリーンは黒に染まった。
「…以上です、ね」
「いや、まだだ」
俺は間髪入れずに答えた。
「まだジャックが何分で復活するのか、正確に計ってはいない。テオがどこに隠れているのかもわかっていない。この映像から調べることは山ほどある」
俺が前向きな姿でスクリーンを見続けているので、ただ悲嘆にくれていたエリザベータも、必死の形相になって映像に食い入った。
「…おやおや。気が早いですね。しかしグッドです」
キングは微笑んでいる。
いつも慎重派のウォーカーだけは、さすがにこんな画面を見せられたら無理だと言うかもしれないと思ったが、しっかりとやる気だ。積極的に質問をする。
「この、『ソウルイーター』という武器は、僕たちでも使えるのですか ? それから、今はどこにあるのか、わかりますか ?」
「ええ。使えますし、わかります」
キングは、懐から銃、両腰からナックルダスターとナイフを取り出し、机の上に置いた。
「これ…、本物の…」
「ええ。『ソウルイーター』は世界にいくつもある武器ではありませんので。私が回収しておきました」
映像よりも、実物は雄大に言葉を語る。
「これ…、パジェスの…」
エリザベータは、銃を胸に押し抱いて泣き崩れた。
かっこいい。
俺は、心が痺れた後で考えた。
パジェスとレンドルフはジャックに殺されると思っていた。しかし勝った。いくら化け物とはいえ、首と手が無ければ戦えない。
「キング」
「はい ?」
「パジェスたち、勝ったんだよな ? じゃあ、なんで」
言いながら、映像を見ていた俺の頭はひっくり返った。
なんと映像には、たった今倒したばかりのジャックが、完全無傷で立っているのだ。
「なんで !」
エリザベータが叫ぶ。
「たとえ無敵でも、復活するのは一時間後じゃねぇのか ?」
キングは当然という顔で、スマして答える。
「やられてから一時間後ではありません。大体一時間おきにキングは元の姿に戻る。つまり、今がちょうど、その一時間後だった、というわけです。運命は、彼らに微笑みませんでしたね」
「無理ゲーすぎんぜ…」
ゲラルハは呟いた。
ジャックはなんの感情もなく、無慈悲に二人との距離を詰めていく。二人は階段に向かって逃げようとした。今こうしてジャックを倒すことができた二人だ。体力さえ回復すれば、まだ戦うことはできる。
パジェスは痙攣(けいれん)する足を引きずり、必死で立ち上がって進む。
だが、レンドルフは立ち上がることができない。自分の足を叩いているが、先ほどの戦いで力を使い尽くしたのだろう。全く動けない。
ジャックは二人を見比べて、動けないレンドルフの方に向かった。パジェスが自分に注意を向かせようとして叫んでいるが、なんの反応もない。
パジェスは再び、懐(ふところ)から銀色に光る銃を取り出した。ゼロ距離でさえこれだけ疲弊する『ソウルイーター』だ。五メートルも離れた場所から撃てばどうなるか、聡明なパジェスならわかるはずだ。
それでもパジェスは、一切の躊躇(ためら)いもなく、トリガーを引いた。
ジャックは、パジェスが銃を取り出す仕草を見て、振り向きながら、拳銃を自分の手に出現させる。
パジェスの放った弾は、ジャックの脳へと一直線に飛んでいった。
だが先ほどとは違い、ジャックは腕で防御する。
パジェスはふらついていたが、さらに三発、もはや照準の定まらぬ銃口から弾丸を発射させた。
それでもさすがは銃撃の名人だ。全ての弾がジャックの体に命中した。
だが、動きを完全に止めるまでには至らない。
パジェスは力尽きたように両手を広げ、ゆっくりと後ろに重心を傾けた。目を閉じている。すでに意識はなさそうだ。
ジャックはその死に体に向けて、無慈悲に拳銃を構えた。
ジャックの背後からは、最後の力を振り絞り、レンドルフがナイフでジャックの心臓を刺す。
だが、その行動をやめさせるには一歩遅かった。
パン。
パン。
パン。
パン。
パン。
パジェスの端正な顔に、次々と銃弾が突き刺さる。
パジェスは何の反応もなく、ただ無表情に、地面に仰向けに倒れた。
ゴン。
音は無いが、頭蓋骨が地面を叩く音が聞こえる。
ジャックは銃弾が空になった拳銃を捨て、ゆっくりとレンドルフの方に向き直った。銃で撃たれて、心臓を刺されているのだ。相当のダメージを負っている。
だが、立ち向かうレンドルフにも、もはや力は残っていない。じっと動かず、独り言を呟いて、ジャックが自分の近くに来るタイミングを見計らっている。もう自分では立っているのがやっとなのだ。
ジャックがナイフを振り上げた瞬間、レンドルフは、ジャックの顔面目掛けてナイフを投げつけた。
サクッ。
まるでスイカに投げつけたかのように小気味よく、ジャックの顔にナイフが突き刺さる。
そして、カウンターのようにレンドルフの肩口にも。
サクッ。
刃は深く、心臓まで切り裂いた。
レンドルフは、ゆっくりと倒れた。
だが、ジャックも力尽きたようだ。レンドルフの上に、覆い被さるようにして倒れる。
しばらくして、機械は「人がいない」と判断したのだろう。
映像は全ての画面で止まり、スクリーンは黒に染まった。
「…以上です、ね」
「いや、まだだ」
俺は間髪入れずに答えた。
「まだジャックが何分で復活するのか、正確に計ってはいない。テオがどこに隠れているのかもわかっていない。この映像から調べることは山ほどある」
俺が前向きな姿でスクリーンを見続けているので、ただ悲嘆にくれていたエリザベータも、必死の形相になって映像に食い入った。
「…おやおや。気が早いですね。しかしグッドです」
キングは微笑んでいる。
いつも慎重派のウォーカーだけは、さすがにこんな画面を見せられたら無理だと言うかもしれないと思ったが、しっかりとやる気だ。積極的に質問をする。
「この、『ソウルイーター』という武器は、僕たちでも使えるのですか ? それから、今はどこにあるのか、わかりますか ?」
「ええ。使えますし、わかります」
キングは、懐から銃、両腰からナックルダスターとナイフを取り出し、机の上に置いた。
「これ…、本物の…」
「ええ。『ソウルイーター』は世界にいくつもある武器ではありませんので。私が回収しておきました」
映像よりも、実物は雄大に言葉を語る。
「これ…、パジェスの…」
エリザベータは、銃を胸に押し抱いて泣き崩れた。