Ep.71 蟻喰らい (Fourmilier)

文字数 921文字

 幹部の中で最初にやられたのは、フルミリエ(アリクイ)のミナモスキーだった。罠を仕掛けるのが得意な男だ。
 彼は、組織員を八階より上に逃し、七階で罠を仕掛けていた。ジャックは決して走らないので、その隙をついた形だ。
 ジャックが七階に足を踏み入れてしばらく進むと、地雷が爆発した。
 それに合わせて、逃げられないような多重爆発が起こる。
 爆発に爆発を重ねると、威力が上がる場所がある。
 ミナモスキーは、ちょうどジャックがいる位置に最大火力が来るように、その位置を計算していたのだ。
 その爆発力は、ちょっとした高層ビルが吹き飛ぶほどの威力だ。
 だが、『ブラック・ブラッディ・ボックス』はかすり傷ひとつつかない。
 ジャックもまた、びくともせずに歩みを止めない。
 触れただけで切り落とすタングステンの見えない糸も各所に張り巡らせたが、何の効果もなかった。
 ミナモスキーは防護悪を着て、自らジャックに向かう。
 手には大きな殺戮道具。
 毒ガス兵器だ。
 嗅いだ途端に、痙攣しながら泡を吹いて死んでしまう猛毒が仕込まれている。いかに防護服を着ていたとて、服を破かれたら自分も死んでしまう。そんな危険な最終手段だ。
 ミナモスキーは、ジャック目掛けて毒ガス弾を射った。七階いっぱいに毒ガスが充満する。
 ところが、やはりこちらも効果がない。
 ミナモスキーは焦っていた。
 本当は今すぐ上の階に逃げたい。
 だが、まだこの階には猛毒ガスが充満している。
 上の階にいる他の動物にも被害が出てしまうので、今、階段は、大きなバルーンで上にガスがいかないように止めている。
 バルーンを破る手立てはない。
 結果、ミナモスキーは、ジャックという最悪な災厄に対して、ただ立ちすくむしか手はなかった。
 持っている最後の武器、拳銃でジャックを撃つが、もちろん何の効果もない。ジャックは、首をかしげた後、先ほど拾ったタングステンの糸を大きく振った。
 ミナモスキーは動かない。
 数秒後、彼の左半身は、右半身から綺麗に滑り降りた。
 こうしてミナモスキーの時間は永遠に止まった。 
 ジャックは、ごみ収集の仕事をしている掃除人のように、ミナモスキーを壁に放り投げ、パルーンを破り、八階へと上っていった。
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