Ep.70 ジャック (Jack the AR)
文字数 2,428文字
「それでは、これからどのようにすれば、俺たちが目的を達成できるのか。キングに話してもらおうと思っている。キング。お願いできるか ?」
「ええ。私の方は準備ができております」
「よろしく頼む」
キングは笑顔を見せた後、まるで大学教授のように背筋を伸ばした。
「では皆さん。テオを倒すためにはどうすればいいのか。これから御教授させていただきましょう。これをご覧ください。あなた方にとっては、とても凄惨な映像になってしまいますが」
言ってキングは、事前に用意しておいたプロジェクターに、一台の通信機器を差し込んだ。壁に張られたスクリーンいっぱいに映像が映る。
画面には、黒一色の通路を走る完全武装をした一団。
約六十人。
知った顔がたくさんいる。
パジェスたちだ。
「この映像は、ミスター・パジェスが、あなたたちに残そうと仕掛けておいた、隠しカメラの映像です。誰かが近づくと、センサーが働いて録画が始まります。本来なら、リアルタイムであなた方に届くはずでしたが、B3の中は、この世界と遮断されていましてね。残念ながら、届くことはなかった、という訳です」
一団は二手に分かれる。
一階には十人が残り、他は全員、二階に向かっていく。
一階の十人には、一人の男が立ちはだかった。
古い貴族のような服装をして、コートを着ている。髪の毛は茶色く、硬めのボサボサで立たせており、おでこを出している。典型的な鼻の高いイギリス人の顔だが、何の感情もない殺人マシーンだ。耳にはピアスをつけている。
彼は、「寝起きにトイレにでも行く」という程度の顔つきで、『ル・ゾォ(動物園)』からやってきた動物たちに向かっていった。
他の人と比べると頭ひとつ大きいので、二メートルくらいだろう。ゾウのように堂々と歩くので、足の動きは速くない。
「これがジャックです」
キングが説明する。
大きいので殴り合いでは負けるが、銃で撃てば簡単に倒せそうだ。
俺と同じことを思ったのだろう。全員が通路の曲がり角に隠れたが、一人の向こう見ずな男が、ジャックに銃弾を撃ち込んだ。
銃弾は何発も当たったが、ジャックのコートに遮(さえぎ)られた。
ジャックは、右手に持った拳銃で、男の頭を簡単に撃ち抜いた。
隠れている男を正確に撃ち抜くとは、凄い射撃技術だ。
映像にはまだ、九人の『ル・ゾォ(動物園)』の動物たちが映っている。
この後の結末は知っている。
この一団は、この後、全員皆殺しになってしまうのだ。
だが、俺たち四人の肉食獣は、それでも画面を見つめ続けなければならなかった。敵を倒すには敵を知らなければならない。そのことを知っているからだ。
もちろん、『ル・ゾォ』も武闘派揃いだ。簡単に負けるわけはない。俺の思いと同じく、通路をうまく使ってジャックの周りを囲う。
銃弾の軌道から絶対に逃げられない状態。
そして、一斉射撃だ。
これは、どんなに射撃の腕があっても逃げられない。ジャックは抵抗する間もなく、煙幕で見えなくなるほどに銃弾の雨を浴び続けた。
これで生きているようなことは、どんなことがあってもあり得ない。
だが、煙幕が腫れ、視界が見えるようになった時、ジャックは無傷でそこに立っていた。
バカな。
ざわめく動物たち。
観ている俺たちの心もざわつく。
この部隊の隊長と思われる人物が、奇声をあげて、ジャックに銃を撃つ。彼の放った銃弾は、寸分違わずジャックの眉間に一直線に吸い込まれた。
そして、弾かれる。
見えなくなるほどの銃弾の雨に撃たれても死ななかったことよりも、実際に眉間に銃弾が当たって死ななかったという事実の方が、人は現実を感じることができる。
現場はパニックになっていた。逃げようとする者もいる。だが、動物たちはいつの間にか袋小路に追い込まれていた。
「これが、ジャックは無敵だという証拠です」
俺は唾を飲んだ。
ジャックはゆっくりと歩きながら、両手を動物たちに向ける。と同時に、彼の両手は、拳銃のように気軽な感覚でマシンガンを握っていた。
そのまま撃ち放つ。
逃げ惑う動物たち。
ジャックが熱を帯びた二本のマシンガンを捨てた時、目の前には、たくさんの動物の惨殺死体が累々と重なっていた。
ジャックは一人一人、足や手や首などを掴み、無造作に黒い壁に向かって放り投げていく。死体は壁を抜け、次々と消えていった。黒い通路には血痕すらも残らない。
ジャックは左右を見た後で、二階に向かって進んでいった。
「あれがジャックの攻撃力。『ジ・エーアール(The AR)』です。拡張現実により、現実空間に色々な物体を出現させることができます」
「できます、て…」
ウォーカーがおかしなツッコミを入れた。だが、この部屋の雰囲気を明るくするまでの破壊力は無い。
ジャックが去ると、惨殺劇のおこなわれた映像は途切れた。代わりに、他の画面が四分割してあらわれた。画面では、動物たちが走って逃げたり、隠れたり、何かを探したりしている。
「あれは、何を探しているんですか ?」
「ボスのテオです。テオは神ですが、ジャックと違い、耐久力は普通の人間です。テオを殺し、テオの持つピアスをつければ、ジャックは、その人の指示に従うようになります」
「壁を探しているが、そんなところに隠れているのか ?」
「ええ。テオは一日一回、B3内のどこかへ移動します。その扉は壁に隠れていて、毎日、場所が変わります。どこに隠れているのかはわかりません」
「なるほど。ジャックは殺せないが、テオを殺せばB3は制圧できる、という訳か」
「ジャックに傷を負わせる方法はあるのですが、ね」
「なに ?」
「ま、それはこの先の映像をご覧ください」
俺は気になったが、キングの言う通りに、続きを観ることにした。
映像は次々と増えていく。下の階から順番にパジェスが仕掛けているからだ。
画面は、戦闘があり、ジャックが動物を虐殺し、消えて、また、画面が黒くなる。この繰り返しだった。
「ええ。私の方は準備ができております」
「よろしく頼む」
キングは笑顔を見せた後、まるで大学教授のように背筋を伸ばした。
「では皆さん。テオを倒すためにはどうすればいいのか。これから御教授させていただきましょう。これをご覧ください。あなた方にとっては、とても凄惨な映像になってしまいますが」
言ってキングは、事前に用意しておいたプロジェクターに、一台の通信機器を差し込んだ。壁に張られたスクリーンいっぱいに映像が映る。
画面には、黒一色の通路を走る完全武装をした一団。
約六十人。
知った顔がたくさんいる。
パジェスたちだ。
「この映像は、ミスター・パジェスが、あなたたちに残そうと仕掛けておいた、隠しカメラの映像です。誰かが近づくと、センサーが働いて録画が始まります。本来なら、リアルタイムであなた方に届くはずでしたが、B3の中は、この世界と遮断されていましてね。残念ながら、届くことはなかった、という訳です」
一団は二手に分かれる。
一階には十人が残り、他は全員、二階に向かっていく。
一階の十人には、一人の男が立ちはだかった。
古い貴族のような服装をして、コートを着ている。髪の毛は茶色く、硬めのボサボサで立たせており、おでこを出している。典型的な鼻の高いイギリス人の顔だが、何の感情もない殺人マシーンだ。耳にはピアスをつけている。
彼は、「寝起きにトイレにでも行く」という程度の顔つきで、『ル・ゾォ(動物園)』からやってきた動物たちに向かっていった。
他の人と比べると頭ひとつ大きいので、二メートルくらいだろう。ゾウのように堂々と歩くので、足の動きは速くない。
「これがジャックです」
キングが説明する。
大きいので殴り合いでは負けるが、銃で撃てば簡単に倒せそうだ。
俺と同じことを思ったのだろう。全員が通路の曲がり角に隠れたが、一人の向こう見ずな男が、ジャックに銃弾を撃ち込んだ。
銃弾は何発も当たったが、ジャックのコートに遮(さえぎ)られた。
ジャックは、右手に持った拳銃で、男の頭を簡単に撃ち抜いた。
隠れている男を正確に撃ち抜くとは、凄い射撃技術だ。
映像にはまだ、九人の『ル・ゾォ(動物園)』の動物たちが映っている。
この後の結末は知っている。
この一団は、この後、全員皆殺しになってしまうのだ。
だが、俺たち四人の肉食獣は、それでも画面を見つめ続けなければならなかった。敵を倒すには敵を知らなければならない。そのことを知っているからだ。
もちろん、『ル・ゾォ』も武闘派揃いだ。簡単に負けるわけはない。俺の思いと同じく、通路をうまく使ってジャックの周りを囲う。
銃弾の軌道から絶対に逃げられない状態。
そして、一斉射撃だ。
これは、どんなに射撃の腕があっても逃げられない。ジャックは抵抗する間もなく、煙幕で見えなくなるほどに銃弾の雨を浴び続けた。
これで生きているようなことは、どんなことがあってもあり得ない。
だが、煙幕が腫れ、視界が見えるようになった時、ジャックは無傷でそこに立っていた。
バカな。
ざわめく動物たち。
観ている俺たちの心もざわつく。
この部隊の隊長と思われる人物が、奇声をあげて、ジャックに銃を撃つ。彼の放った銃弾は、寸分違わずジャックの眉間に一直線に吸い込まれた。
そして、弾かれる。
見えなくなるほどの銃弾の雨に撃たれても死ななかったことよりも、実際に眉間に銃弾が当たって死ななかったという事実の方が、人は現実を感じることができる。
現場はパニックになっていた。逃げようとする者もいる。だが、動物たちはいつの間にか袋小路に追い込まれていた。
「これが、ジャックは無敵だという証拠です」
俺は唾を飲んだ。
ジャックはゆっくりと歩きながら、両手を動物たちに向ける。と同時に、彼の両手は、拳銃のように気軽な感覚でマシンガンを握っていた。
そのまま撃ち放つ。
逃げ惑う動物たち。
ジャックが熱を帯びた二本のマシンガンを捨てた時、目の前には、たくさんの動物の惨殺死体が累々と重なっていた。
ジャックは一人一人、足や手や首などを掴み、無造作に黒い壁に向かって放り投げていく。死体は壁を抜け、次々と消えていった。黒い通路には血痕すらも残らない。
ジャックは左右を見た後で、二階に向かって進んでいった。
「あれがジャックの攻撃力。『ジ・エーアール(The AR)』です。拡張現実により、現実空間に色々な物体を出現させることができます」
「できます、て…」
ウォーカーがおかしなツッコミを入れた。だが、この部屋の雰囲気を明るくするまでの破壊力は無い。
ジャックが去ると、惨殺劇のおこなわれた映像は途切れた。代わりに、他の画面が四分割してあらわれた。画面では、動物たちが走って逃げたり、隠れたり、何かを探したりしている。
「あれは、何を探しているんですか ?」
「ボスのテオです。テオは神ですが、ジャックと違い、耐久力は普通の人間です。テオを殺し、テオの持つピアスをつければ、ジャックは、その人の指示に従うようになります」
「壁を探しているが、そんなところに隠れているのか ?」
「ええ。テオは一日一回、B3内のどこかへ移動します。その扉は壁に隠れていて、毎日、場所が変わります。どこに隠れているのかはわかりません」
「なるほど。ジャックは殺せないが、テオを殺せばB3は制圧できる、という訳か」
「ジャックに傷を負わせる方法はあるのですが、ね」
「なに ?」
「ま、それはこの先の映像をご覧ください」
俺は気になったが、キングの言う通りに、続きを観ることにした。
映像は次々と増えていく。下の階から順番にパジェスが仕掛けているからだ。
画面は、戦闘があり、ジャックが動物を虐殺し、消えて、また、画面が黒くなる。この繰り返しだった。