Ep.18 創造力 (La Creativite)
文字数 1,887文字
「新しく『レ・ジュモン(悪魔チーム)』に入る仲間を紹介する。ウォーカーだ。ポンテール・ノワールと呼ばれている。知っているものもいるだろう。この一ヶ月間『レ・ザンジュ(天使チーム)』で訓練をしていたが、優秀で誠実、お互いに命をかけあえる人間だと改めて実感した」
「ウォーカーです。よろしくお願いします」
しばらく会っていなかったウォーカーは、『レ・テネーブル・ド・モンマルトル(モンマルトルの闇)』の仲間として現れた。
俺が卒業まで九ヶ月もかかった『レ・ザンジュ』を、たった一ヶ月で卒業するとは。
俺は驚きを隠してウォーカーと目を合わせた。ウォーカーは目が合うと、珍しく歯をむき出しにして笑う。黒い肌に眩しすぎるほどの白い歯だ。
「アンタが先に入ってくれていたおかげだ」
相変わらずの無愛想な顔つきだが、どこか一人前の大人になっている。
「ふん。あくまで俺が先輩だからな」
俺たちは固く握手を交わした。
『レ・ジュモン』に入ってから、ウォーカーのパルクール能力の開花速度はますます加速していった。俺と違って感情の起伏が少ない。意見をよく聞き、作戦に絶対服従する。俺と同じくレンドルフからTIOR-C4を習っているが、絶対に戦闘をしない。仲間内でのウォーカーの評価は、否が応でも上がっていった。
負けたくない。
心の中で生まれた気持ち。だがこれは、何に負けたくないという気持ちなのだろうか。最初は、ウォーカーの『レ・ジュモン』での評価が上がっていることに対する焦りなのかと思っていた。だが、仕事はチームでやっている。じっくり考えてみても勝ち負けの感情は無い。美貌や口のうまさでも完全に勝っている。戦闘力に至っては比べるべくもない。
なんだ ?
考えて、俺はようやく一つの結論に辿り着いた。
パルクールだ。
ウォーカーのパルクールの動きに対して、抜かれるかもしれないという恐れを抱いているのだ。俺は物心がついた時、十歳のあの日から、欠かさずパルクールの練習を続けている。そして試合でも負けたことがないし、世界大会に出ても優勝できる実力を持っていると自信を持って言えていた。
だが、一緒に仕事をしていて、ウォーカーの動きを見ているうちに気が付いてしまったのだ。もしかしたら、俺のパルクールの地位を脅かす人間はウォーカーなのではないか、と。
自分の矜持であるパルクールで勝たなければ、あらゆる全てで勝とうが意味がない。パルクールは俺の原点で、これは誇りの問題だ。
俺はどうしても、パルクールでウォーカーより優れているというところを、ウォーカーと、そして何より、自分自身にしっかりと見せつけてやりたかった。
では、どうすれば、どちらのパルクール能力が優れているかがわかるというのか。
試合だ。
俺たちパルクールアーティストには、試合という名の答え合わせがある。試合の結果は嘘をつけない。
俺は、再度ウォーカーと、パルクールの世界大会に出て雌雄(しゆう)を決しようと思った。
だが、試合に出て、勝てなければ俺の矜持(きょうじ)はへし折れる。「勝てないかもしれないけど戦おう」では、戦う意味などない。そして、今までのようにただ練習するだけでは、勝てない可能性もある。
俺は気づいているのだ。
残念ながら、そもそも、ウォーカーと自分の身体能力が違うということを。
手足の長さ、黒人特有のバネ、瞬発力。これらで争っていては勝てない。
ならば自分は、どうすればウォーカーに勝つことができるのだろうか。
俺は考えた。
パルクールは、自分以外のなんの要素も助けてはくれない。ただ、自分だけが自分を助けてくれる。そして、自分を助けてくれる自分自身の最大の能力とは何だろう。
俺は考えた。
考えた末に、一つの答えを出すことに成功した。
答えは、想像力のさらに先にある。
「創造力」だ。
自分の「創造力」をつけ、「創造力」に体の動きが一致するようにすれば、自分の体は限界を超え、完璧に動くようになる。また、ゴールまでの完璧な道のりを、一歩たりとも間違えずに進むことができるだろう。
俺は人気者で話も面白いが、ウォーカーは無口で創造性がない。ウォーカーの方が身体能力は高いが、俺の方がウォーカーより創造力は高い。
これは間違いない。
ウォーカーの、身体能力にあかせた力任せのトリックや導線。それらの小さな取りこぼしを残らず拾い集め、さらに肉体と精神の完璧な一致によって、能力自体でもウォーカーを超えてやる。
俺は、トイレでも、シャワー中でも、寝る時でさえ、自分のイメージをできるだけ勝利に近づけることに集中した。
「ウォーカーです。よろしくお願いします」
しばらく会っていなかったウォーカーは、『レ・テネーブル・ド・モンマルトル(モンマルトルの闇)』の仲間として現れた。
俺が卒業まで九ヶ月もかかった『レ・ザンジュ』を、たった一ヶ月で卒業するとは。
俺は驚きを隠してウォーカーと目を合わせた。ウォーカーは目が合うと、珍しく歯をむき出しにして笑う。黒い肌に眩しすぎるほどの白い歯だ。
「アンタが先に入ってくれていたおかげだ」
相変わらずの無愛想な顔つきだが、どこか一人前の大人になっている。
「ふん。あくまで俺が先輩だからな」
俺たちは固く握手を交わした。
『レ・ジュモン』に入ってから、ウォーカーのパルクール能力の開花速度はますます加速していった。俺と違って感情の起伏が少ない。意見をよく聞き、作戦に絶対服従する。俺と同じくレンドルフからTIOR-C4を習っているが、絶対に戦闘をしない。仲間内でのウォーカーの評価は、否が応でも上がっていった。
負けたくない。
心の中で生まれた気持ち。だがこれは、何に負けたくないという気持ちなのだろうか。最初は、ウォーカーの『レ・ジュモン』での評価が上がっていることに対する焦りなのかと思っていた。だが、仕事はチームでやっている。じっくり考えてみても勝ち負けの感情は無い。美貌や口のうまさでも完全に勝っている。戦闘力に至っては比べるべくもない。
なんだ ?
考えて、俺はようやく一つの結論に辿り着いた。
パルクールだ。
ウォーカーのパルクールの動きに対して、抜かれるかもしれないという恐れを抱いているのだ。俺は物心がついた時、十歳のあの日から、欠かさずパルクールの練習を続けている。そして試合でも負けたことがないし、世界大会に出ても優勝できる実力を持っていると自信を持って言えていた。
だが、一緒に仕事をしていて、ウォーカーの動きを見ているうちに気が付いてしまったのだ。もしかしたら、俺のパルクールの地位を脅かす人間はウォーカーなのではないか、と。
自分の矜持であるパルクールで勝たなければ、あらゆる全てで勝とうが意味がない。パルクールは俺の原点で、これは誇りの問題だ。
俺はどうしても、パルクールでウォーカーより優れているというところを、ウォーカーと、そして何より、自分自身にしっかりと見せつけてやりたかった。
では、どうすれば、どちらのパルクール能力が優れているかがわかるというのか。
試合だ。
俺たちパルクールアーティストには、試合という名の答え合わせがある。試合の結果は嘘をつけない。
俺は、再度ウォーカーと、パルクールの世界大会に出て雌雄(しゆう)を決しようと思った。
だが、試合に出て、勝てなければ俺の矜持(きょうじ)はへし折れる。「勝てないかもしれないけど戦おう」では、戦う意味などない。そして、今までのようにただ練習するだけでは、勝てない可能性もある。
俺は気づいているのだ。
残念ながら、そもそも、ウォーカーと自分の身体能力が違うということを。
手足の長さ、黒人特有のバネ、瞬発力。これらで争っていては勝てない。
ならば自分は、どうすればウォーカーに勝つことができるのだろうか。
俺は考えた。
パルクールは、自分以外のなんの要素も助けてはくれない。ただ、自分だけが自分を助けてくれる。そして、自分を助けてくれる自分自身の最大の能力とは何だろう。
俺は考えた。
考えた末に、一つの答えを出すことに成功した。
答えは、想像力のさらに先にある。
「創造力」だ。
自分の「創造力」をつけ、「創造力」に体の動きが一致するようにすれば、自分の体は限界を超え、完璧に動くようになる。また、ゴールまでの完璧な道のりを、一歩たりとも間違えずに進むことができるだろう。
俺は人気者で話も面白いが、ウォーカーは無口で創造性がない。ウォーカーの方が身体能力は高いが、俺の方がウォーカーより創造力は高い。
これは間違いない。
ウォーカーの、身体能力にあかせた力任せのトリックや導線。それらの小さな取りこぼしを残らず拾い集め、さらに肉体と精神の完璧な一致によって、能力自体でもウォーカーを超えてやる。
俺は、トイレでも、シャワー中でも、寝る時でさえ、自分のイメージをできるだけ勝利に近づけることに集中した。