Ep.76 バッテリー (La Batterie)

文字数 1,135文字

 その日から俺たちは、キングからもらった映像を見続けた。
 情報がなくては作戦を練れない。作戦を練らなければ、成功率は上がらない。
 俺がパジェスから何度言われてもわからなかった言葉だ。今は身に染みてわかる。

 まず俺たちは、テオがどこに隠れているのかを探った。パジェスの死後も動き続けているカメラは、車椅子に乗った老人を、椅子ごと抱えているジャックの姿を捉えていた。八十歳は超えているだろうか。白いワンピースを着た、長い黒髪の東洋人だ。ピアスをつけている。
「彼女がテオか ?」
「ええ。彼女こそがテオ。テオ・ザ・モーニング・グローリー。その人です」
 キングは愛おしそうに言った。
「あいつのピアスを奪えば、ジャックと『ザ・クリエイター』は俺のモノになる。間違いないな ?」
「ピアスを奪って身につければ、ですね。そうすれば、あなたの生体反応がピアスのデータに入り、それ以降、ジャックはあなたの思うがままに動きます」
「それだけわかれば問題ない」
 パジェスたちを直接殺したのはジャックだが、ジャックはテオの思うがままに動く。ウンバロールも、『ベッサル(器)』の信者をテオが操って襲撃させている。結局、仇はシンプルに、テオ、ただ一人だ。
 目標が決まればあとは突き進むだけだ。
 俺たちは作戦を練り続けた。

 数日後、八階の映像が映らなくなった。
「どうしたんだ ?」
 ゲラルハの問いに、エリザベータが答える。
「おそらく、カメラの電池が切れたようね。このままだと、他のカメラも順番に切れていくわ」
 カメラの電池が切れるのはヤバい。俺たちは大きな不安を覚えた。
 俺たちは、今やれる全ての作戦を練り終わっていた。
 後は、突入のタイミングを決めるだけだった。
 キングが教えてくれたように、テオは一日一回、階を移動している。どこに隠れているのかまでは映っていなかったが、それだけでどこの階に移動しているのかはわかる。ただ一つだけ、六階に移動する時だけは、カメラの近くの壁に触って入っていくことが確認できた。
 つまり、六階に移動した日に突入すれば、たやすくテオの元まで辿り着けるということだ。
 だが今日、八階の映像が映らなくなった。これからは時間ごとに順次、映らないカメラが増えていく。そうなれば、その分どこにテオがいるのかわかる確率は減ってくる。一日一回しか移動していないので、今のうちならば突入しても、どの階にいるかだけはわかる。
 いつか六階に移動するまで待ってもいいが、その前に他のカメラの電池が切れてしまうかもしれない。
「明日、決行しよう」
 俺が言うまでもなく、すでに全員準備ができていた。装備だけでなく、心も、体も。
 『レ・ジュモン(悪魔チーム)』の三人は、俺の言葉に同調して大きくうなづいた。
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