Ep.80 戦闘 (Combat)
文字数 1,436文字
俺とエリザベータが階段の上にたどり着いた時には、すでに下からジャックの足音が聞こえてきていた。
ジャリ。
ジャリ。
来た。
短めの髪の毛。
表情のない顔。
無敵の強さを誇る神の使徒が徐々にその姿を現す。
「おい ! 作戦はどうしたんだ ?」
ジャックの背後から、俺たちの姿に気づいたゲラルハが叫ぶ。
「失敗だ。地図とは違い、十三階は行き止まりしかない」
「そんなバカな !」
「いや、だが、俺はひとつの可能性を見つけたぞ ! パンテー(豹)。メモしてくれ」
「ああ」
ウォーカーはメモを取り出す。
「11、9、7、6、4、3、2。それらの階で、地図と違うところの映像を送ってくれ ! ル・ポーン(孔雀)。カメラを」
俺はジャックから目を離さず、ジリジリと後ろに下がりながら手を出した。エリザベータはカメラを手渡す。いくつかのフェイントを混ぜた後、ジャックの右脇の隙間から素早くカメラを放り投げる。
ジャックはフェイントに引っかかったが、相棒のウォーカーはうまく片手でカメラを捕まえた。
「オッケー」
ウォーカーは、まさに黒豹のような速度で下に消えていった。
さて、と。
俺は目的のT字路まで下がってきた。ここでエリザベータと違う道に進む。つまり、ゲラルハと三人でジャックを囲う形だ。
ここでは武器は出さない。武器を出すと、ジャックも武器を出してしまうからだ。
ただ、エリザベータが狙われることが一番危険なので、ジャックが誰を狙えばいいか迷わせるために、俺はゲラルハと共に、ジャックにちょっかいを出し続けた。
一撃喰らえば体が吹きとぶ。
一回のミスも許されない。
だが俺は、モスクワで再会したあの日から、マルコ・ファミリアの幹部、長腕のビンゴの手を避ける訓練をし続けていた。それに比べれば、ジャックのスピードなんて大したことはない。
ジャックは基本的に、攻撃してくる相手に向かってくる。つまり、ジャックは徐々に、俺の方の通路にやってきた。
俺は下がりながらちょっかいをかける。
ジャックのコートの裾を見る。裂けたままだ。
まだか。
まだなのか。
たった三分間が、まるで一時間のように感じる。
ドン。
俺の踵(かかと)が壁にぶつかる。
いつの間にか袋小路に追い込まれていたようだ。
ゲラルハが必死で距離を作ってくれようとするが、避ける技術が高いわけではない。自慢の腕力と耐久力はジャックの方が数段上だ。近寄りすぎると一瞬で殺される。
ジャックとの距離は五メートル。
まだか。
その時、黒い神獣が一陣の風のように戦場に飛び込んできた。ジャックの後頭部を蹴り飛ばし、ゲラルハの前方に降り立つ。
ジャックが完全にウォーカーの方を向く。
今だ。
この機会を待っていた。
俺は、全力でジャックに向かって走っていった。
ジャックが右腕を振る。
その瞬間に身体をくの字に曲げ、ジャックの脇の三十センチほどしかない隙間をスリ抜けた。
これで袋小路からは脱出した。俺は、ウォーカーから送られてきているデータを見ているエリザベータに聞いた。
「どうなってた ?」
「7階が地図とは違ってたわ。こんな感じ」
エリザベータは、今作ったばかりの新しい地図を見せてくれた。
やはりそうだ。
「みんな。ジャックを十二階に近づけないでくれ ! テオのいる位置がわかった !」
誰も俺のことを疑わない。
「待ってるわ」
「おう」
「行け ! 相棒 !!」
「みんな、死ぬなよ !」
俺は愛する仲間のために、急いで十二階へと降りていった。
ジャリ。
ジャリ。
来た。
短めの髪の毛。
表情のない顔。
無敵の強さを誇る神の使徒が徐々にその姿を現す。
「おい ! 作戦はどうしたんだ ?」
ジャックの背後から、俺たちの姿に気づいたゲラルハが叫ぶ。
「失敗だ。地図とは違い、十三階は行き止まりしかない」
「そんなバカな !」
「いや、だが、俺はひとつの可能性を見つけたぞ ! パンテー(豹)。メモしてくれ」
「ああ」
ウォーカーはメモを取り出す。
「11、9、7、6、4、3、2。それらの階で、地図と違うところの映像を送ってくれ ! ル・ポーン(孔雀)。カメラを」
俺はジャックから目を離さず、ジリジリと後ろに下がりながら手を出した。エリザベータはカメラを手渡す。いくつかのフェイントを混ぜた後、ジャックの右脇の隙間から素早くカメラを放り投げる。
ジャックはフェイントに引っかかったが、相棒のウォーカーはうまく片手でカメラを捕まえた。
「オッケー」
ウォーカーは、まさに黒豹のような速度で下に消えていった。
さて、と。
俺は目的のT字路まで下がってきた。ここでエリザベータと違う道に進む。つまり、ゲラルハと三人でジャックを囲う形だ。
ここでは武器は出さない。武器を出すと、ジャックも武器を出してしまうからだ。
ただ、エリザベータが狙われることが一番危険なので、ジャックが誰を狙えばいいか迷わせるために、俺はゲラルハと共に、ジャックにちょっかいを出し続けた。
一撃喰らえば体が吹きとぶ。
一回のミスも許されない。
だが俺は、モスクワで再会したあの日から、マルコ・ファミリアの幹部、長腕のビンゴの手を避ける訓練をし続けていた。それに比べれば、ジャックのスピードなんて大したことはない。
ジャックは基本的に、攻撃してくる相手に向かってくる。つまり、ジャックは徐々に、俺の方の通路にやってきた。
俺は下がりながらちょっかいをかける。
ジャックのコートの裾を見る。裂けたままだ。
まだか。
まだなのか。
たった三分間が、まるで一時間のように感じる。
ドン。
俺の踵(かかと)が壁にぶつかる。
いつの間にか袋小路に追い込まれていたようだ。
ゲラルハが必死で距離を作ってくれようとするが、避ける技術が高いわけではない。自慢の腕力と耐久力はジャックの方が数段上だ。近寄りすぎると一瞬で殺される。
ジャックとの距離は五メートル。
まだか。
その時、黒い神獣が一陣の風のように戦場に飛び込んできた。ジャックの後頭部を蹴り飛ばし、ゲラルハの前方に降り立つ。
ジャックが完全にウォーカーの方を向く。
今だ。
この機会を待っていた。
俺は、全力でジャックに向かって走っていった。
ジャックが右腕を振る。
その瞬間に身体をくの字に曲げ、ジャックの脇の三十センチほどしかない隙間をスリ抜けた。
これで袋小路からは脱出した。俺は、ウォーカーから送られてきているデータを見ているエリザベータに聞いた。
「どうなってた ?」
「7階が地図とは違ってたわ。こんな感じ」
エリザベータは、今作ったばかりの新しい地図を見せてくれた。
やはりそうだ。
「みんな。ジャックを十二階に近づけないでくれ ! テオのいる位置がわかった !」
誰も俺のことを疑わない。
「待ってるわ」
「おう」
「行け ! 相棒 !!」
「みんな、死ぬなよ !」
俺は愛する仲間のために、急いで十二階へと降りていった。