Ep.49 羽を休める (Perche)
文字数 1,239文字
俺は『ル・ゾォ(動物園)』を解雇されたのかどうかよくわからないまま、何日間か、キングダムタワー内にあるフォーシーズンズホテルに滞在していた。モスクワで待っているニタルトの元に帰るという選択肢もあったが、煮え切らないまま帰っても心配をかけてしまうだけだ。
たった一度だけ言うことを聞かなかっただけで、何でこんな目にあうんだよ。
俺は、どうしても納得がいかなかった。リンゼイを含めた俺の部下は再編成され、すでに仕事をこなしている。
そして俺には、この悩みをぶつける相手が、どこにもいなかった。リンゼイは部下なので、そこまで弱いところは見せられない。ウォーカーもライバルなので恥ずかしい。ニタルトには、そもそも仕事の話をしない。そう。俺はいつも、こういう相談はパジェスにしていたのだ。
無い脳みそで考えた末、行き着いた場所はイギリス。ロンドンにあるハーレーストリートだった。世界の名医が集う道。そこにある、一軒のプライベートホスピタルだった。つまり俺は、ウンバロールの元に行くことにしたのだ。
入院先の情報は幹部しか見ることができないが、俺の権限は全て残されていた。プライベートジェットも使える。警備からも咎(とが)められずに入れる。
こうして俺は、病院に住み着くようになった。技術が落ちないように訓練だけは欠かさなかったが、後の時間はウンバロールの世話をした。落ち着くと、ウンバロールの枕元に座り、『ル・ゾォ』の幹部用サイトの情報を見たり、パジェスがどう思っているのかを考えたりしながら日々を過ごした。
リンゼイやウォーカーやニタルトからは毎日電話がかかってきたが、無視し続けると、やがて、徐々に減っていった。
窓の外は、街路樹が茶色く色づく季節だ。
この病室の時間だけが止まっている。
「こんなに穏やかな日々、久しぶりですよ、ウンバロール。いつまでも側にいて、あなたの世話をする。こんな生活も悪くはありません。ニタルトもロンドンに呼びましょうか ? きっと喜ぶことでしょう。けれども、これでいいのでしょうか ? あなたは、仇をとってほしいとは思っていないのでしょうか ? パジェスの考えていることも、今の俺には分かりません。こんな大事な時期に、たった一度だけ命令を破っただけで信頼を失うような、そんな仲なのだとは思いたくはありません。現にパジェスは、いまだに俺に幹部としての全権限を与えてくれたままにしてくれています。これは、俺を信用してくれている証ですよね ? だけどこんな時に、俺は、あなたやパジェスの役には全く立てていない。悔しいです。どうしたらいいのでしょう。そしてあなたは、なぜ私に、『ザ・ファースト・エッグ』を返されたのですか ? ねぇ。ウンバロール。前までのようにニッコリ笑って、俺を空高くまで導いてくださいよ」
俺は饒舌(じょうぜつ)になってウンバロールに話しかけるのだが、ウンバロールは虚(うつろ)な目で、いつも真面目な顔をして、何も答えを返してはくれなかった。
たった一度だけ言うことを聞かなかっただけで、何でこんな目にあうんだよ。
俺は、どうしても納得がいかなかった。リンゼイを含めた俺の部下は再編成され、すでに仕事をこなしている。
そして俺には、この悩みをぶつける相手が、どこにもいなかった。リンゼイは部下なので、そこまで弱いところは見せられない。ウォーカーもライバルなので恥ずかしい。ニタルトには、そもそも仕事の話をしない。そう。俺はいつも、こういう相談はパジェスにしていたのだ。
無い脳みそで考えた末、行き着いた場所はイギリス。ロンドンにあるハーレーストリートだった。世界の名医が集う道。そこにある、一軒のプライベートホスピタルだった。つまり俺は、ウンバロールの元に行くことにしたのだ。
入院先の情報は幹部しか見ることができないが、俺の権限は全て残されていた。プライベートジェットも使える。警備からも咎(とが)められずに入れる。
こうして俺は、病院に住み着くようになった。技術が落ちないように訓練だけは欠かさなかったが、後の時間はウンバロールの世話をした。落ち着くと、ウンバロールの枕元に座り、『ル・ゾォ』の幹部用サイトの情報を見たり、パジェスがどう思っているのかを考えたりしながら日々を過ごした。
リンゼイやウォーカーやニタルトからは毎日電話がかかってきたが、無視し続けると、やがて、徐々に減っていった。
窓の外は、街路樹が茶色く色づく季節だ。
この病室の時間だけが止まっている。
「こんなに穏やかな日々、久しぶりですよ、ウンバロール。いつまでも側にいて、あなたの世話をする。こんな生活も悪くはありません。ニタルトもロンドンに呼びましょうか ? きっと喜ぶことでしょう。けれども、これでいいのでしょうか ? あなたは、仇をとってほしいとは思っていないのでしょうか ? パジェスの考えていることも、今の俺には分かりません。こんな大事な時期に、たった一度だけ命令を破っただけで信頼を失うような、そんな仲なのだとは思いたくはありません。現にパジェスは、いまだに俺に幹部としての全権限を与えてくれたままにしてくれています。これは、俺を信用してくれている証ですよね ? だけどこんな時に、俺は、あなたやパジェスの役には全く立てていない。悔しいです。どうしたらいいのでしょう。そしてあなたは、なぜ私に、『ザ・ファースト・エッグ』を返されたのですか ? ねぇ。ウンバロール。前までのようにニッコリ笑って、俺を空高くまで導いてくださいよ」
俺は饒舌(じょうぜつ)になってウンバロールに話しかけるのだが、ウンバロールは虚(うつろ)な目で、いつも真面目な顔をして、何も答えを返してはくれなかった。