七夕でも仕事

文字数 779文字

 天界では、何故かIT事業が大流行していた。
 だから本日の七夕でも、とある天界の片隅で、織姫と彦星はそのうちの一つ、リモート会議の回線を利用してネット上で会っていた。
 少しやつれた顔の彦星が、PCの前に座る。繋いだ先は、恋人の織姫。
「いやあ、思っていた以上に仕事がたくさん舞い込んでね、忙しいったらありゃしない。今年はせっかく貴重な晴れだったのに直接会えなくてごめんよ」
「いいのよ。彦星さんこそお仕事がんばってね。実は私も織物の大量注文が入って、デザインを書き起こさすためにこれからまた仕事なの。ねえ、忙しすぎて会えないなんて今までなかったわ。これが初めてよね」
「うん初めてだよ。むしろ今までが暇すぎたんだよきっと。まあ、逆に天帝様には仕事熱心でいい印象を持ってもらえるから、来年もまた晴れにしてくれるかもしれないよ。それを励みにお互いがんばろうじゃないか」
「寂しくなったらまたこうして連絡するかもしれないけど、いいわよね?」
「さすがの天帝様でも、IT事業関連を廃止にはしないと思う。これだけ天界で浸透してしまったんだから」
「じゃあ、来年こそは直接会えるといいわね。それじゃあまたね」

 天界でIT事業が浸透した結果、あちこちで仕事の受注が発生しまくった。一年待ちどころか何百年単位で待たねばならないほどに。
 天界人は天界で何千年と常にのんびりまったりと過ごしてきたせいか、手は遅いものの丁寧に時間をかけて仕事に取り組むため、出来上がった品々はどこに出しても恥ずかしくない、どれも一級品クラス。
 人間とは違い、寿命が圧倒的に長すぎるのもあっただろう。彼ら天界人はかなり気長な性格。早く作れと催促する者は誰もいなかった。
 こうして天界の経済は潤い、また順調に回っていく。
 これだけがんばっているのだから、きっと天帝様が来年の夏、七夕の頃は晴れにしてくれるだろう。
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