推し文化

文字数 1,007文字

 会話する中で、「推し」というワードをよく耳にするようになった。
 それまでオタク内で使われていたこの言葉は、今や書店でもタイトルに付けられるほど認知度が上がっている。

 しかしこの推し文化、突き詰めて行けばいくほどなかなかに厄介なのだ。
 SNSの急速な発達で、同じ趣味を持つ人間と容易くボタンひとつで繋がれる。
 最初は同じ話題で盛り上がることに満足するが、そのうち満足出来なくなった者が出始める。
 ほかの人よりも自分はすごいんだ! と承認欲求を満たすためだけの見栄を張る投稿が増えていく。
 その最たる手段がこの「推し文化」だ。

 推しだから、ソシャゲのランキング上位に入るために課金にこれだけお金をかけました! このくらい使うのは普通だよね? まさか、お金かけない無課金勢なら原作ゲームする価値ないから引退してくれないかな。

 推しだから、CDを大量に買いました! 推しだからこのくらい貢献できないのはおかしいよね? 借金してても貢ぐのが当然でしょうが。

 原作から派生したメディアミックス展開は全て把握し、そして追ってます! 追えない人はファンじゃないよね? 追えないならやめてしまえ。

 作品が好き、その中のこのキャラが好き! という形が、いつしか推しの形を借りた自分自身への承認欲求として高まっていく。
 誰よりも自分が勝っているのだからと、マウント取り合戦が日夜繰り広げられているのが現在のSNS。

 もちろん、周りに合わせて仕方なくオタク(仮)を演じている人も多くいるのかもしれない。
 好きでも無いけど、周りで流行っているから流れに乗らないとと興味もないのに推しを無理やり作る。
 そしてついていけずに疲弊していく人もSNSでかなり見てきた。

 私もこのオタクの渦の中にいた側で、SNSでそんなやり取りを見続け、疲れてしまい、SNSから離れる一因になった。
 人によって見たくないものだってあるだろうに、それを無理やり他人に強要するのはいかがなものか。

 人の意見を聞かず、盲目的なまでの思い込みが激しい者だけが生き残る。
 そして迎合できない者を容赦なく叩き、精神を追い詰め、その人自身の命を絶たせてしまう。なんと怖いことか。

 画面上の簡単な文字だけで人の命を奪ってしまうSNSは、今や私にとっての認識は、殺戮者のはびこる戦場と変わらない。
 再びそんな殺伐としたSNSに戻りたいかと聞かれたら、戻りたくないと私は答えるだろう。
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