賑わい

文字数 1,001文字

 辺りは暗いが、どこからか祭囃子が聞こえてくる。
 ──そうか、もうそんな時期だったのかと我ながら驚く。

 社会人として毎日毎日、夜遅くまでくたくたになるほど働いて、もう眠いと怠けそうになる体にまだ寝るなよと鞭を打ち、気力だけで動いては何とか食事を摂り、終わると風呂へと入る。そしてその後は真っ直ぐに寝室へ行き眠るだけ。
 実のところ、風呂へ入れた日はまだましで、食事を摂ったあとはそのまま眠ってしまう日の方が多かったりする。
 多少端折りはすれど、これが自分のいつもの日常で、ルーティン。
 朝起きて、昼間から夜遅くまで働いて帰宅したら寝るだけの毎日では、季節感覚が狂うのも無理はないだろう。
 今日が祭りだったことも、祭囃子を聞くまですっかり頭の中からは抜け落ちていた。
 たまたま休みだったため、普段よりのんびりと眠ることができたからか、体は少しだけ軽い。
 いつもなら休みの日は、とにかく家にこもって寝ているか、ごろごろと怠惰に過ごしている。

 ──でも今日くらいは、ちょっとだけ外へ出てみようかと好奇心をくすぐられた。
 たまには祭りの賑わいに混ざってみるのも一興かといそいそと身支度を整え外へ出る。
 常ならば、人がほとんど通ることが少ない商店街は、祭りの今日だけは人でごった返していた。
 いったいどこからこんなに人が集まったんだと首を傾げたくなる。
 さらに進んで踊りの会場へと辿り着くと、そこには皆で輪を作り、楽しげに踊る街の人々の姿があった。
 あまりの人の熱気に汗がじんわりと滲んでくる。
 囃子に合わせた太鼓の奏でる音色が響くたび、心の中が昔のように昂ってくるようだ。
 自分が子どもの頃は、こうして踊りに参加して無邪気に楽しんだ。
 夏場だし、暑くてしんどいけれど、友達のみんなとの一体感が楽しかったし、その後に配られるアイスはなんの変哲もないただのアイスなのだが、踊り終わったあとに食べるのはとりわけ絶品で、これが食べられるなら参加した甲斐があったと毎年密かに楽しみにしていたくらいで。

 さすがにあの頃のように無邪気に踊るほどの体力も気力も昔に比べたらないかもしれないが、いつもより睡眠を取ったこの体なら多少は踊れるはずだ。
 懸命に楽しむ若者の活気に背中を押されてか、自分も知らず知らずのうちに足取り軽く皆の輪に加わり、彼らの踊りが終わるまでのつかの間、童心に返ったかのように踊りに夢中になっていたのだった。
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