八重桜

文字数 534文字

 巷では淡い色のソメイヨシノが散り、葉桜になる中、それらよりも遅く咲き始める花がある。
 八重桜──別名、牡丹桜とも言われる花だ。花の姿が牡丹と似ていることから「牡丹桜」という別名がつけられたとか。確かに通常の桜よりボリュームがあるので一目でわかりやすい。
 
 日々の通勤途中に見かける八重桜の並木道。
 それぞれの木に花がありすぎて、頼りなさそうなほど細い枝が重たそうにしている。その姿はまるで一人の大人に大勢の子どもが群がっているようにも見える。
 しかしこの有り様は木そのものが肩こりしそうで。
 なぜなら、枝がもう無理ですと言わんばかりにしなっているのだ。
 もう少し何かが乗っていたら折れてしまいそうなほどに。花は図々しくも枝にこれでもかとのしかかる。
 おそらくどちらにも罪はないのだろう。枝も花もそれぞれの本分を果たしているだけなのだから。
 枝に対してもうちょっと花が咲く量を遠慮するか、枝が花に見合うだけの太さがあれば、すぐさま解決しそうだが、しかしどちらも互いに譲らないまま来年もこの光景は繰り返される。
 なにせ自分は昨年もその前も同じ光景を目撃してきたのだ。どうして懲りないのやら。
 本体の八重桜の寿命が尽きるまで、この頑固者同士の意地の張り合いは続くのだろう。
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