花火で始まり、花火で終わる

文字数 729文字

 彼と出会ったのは地元の夏祭り。互いの共通の友人の紹介が始まりだった。
 花火を見ながら色々と話していくうちにすっかり意気投合した私たちは、そのまま付き合うことになった。
 それから一年。彼と共にたくさんの思い出を作った。
 もうすぐまた地元の夏祭りが始まるね、なんて話をしていた矢先。彼に大きな病気が見つかり、入院することになった。
 いつものように彼のお見舞いに訪れ、いきなり聞かされた話は衝撃的だった。

 俺、そんなに長く持たないらしい。長く持って、夏祭りの頃くらいまでだろうだってさ。
 あまりの急激な事態の変化に、頭がついていけない。
 彼が、死ぬ? しかも夏祭りの頃?
 固まる私をよそに、穏やかに微笑む彼。
 彼は話を続けた。
 悔しいけど、でもよかったと思ってるんだ。夏祭り頃までこの命が持つなら、また今年も一緒に花火を見て思い出を作れるってことだろ? 一年前に約束したじゃん。来年一緒に、また花火を見に行こうって。花火も見られないままじゃ、死ぬに死にきれないって。

 それから彼は懸命に生きた。もはや意地のように感じられるくらい生に執着していた。
 その甲斐もあってか、お医者さんに頼み込んで一日だけ、花火大会の日に一緒に行けることになった。
 二人で手を繋いで、花火の打ち上がる音を聞きながら、空を明るく照らす花火に感動しつつ、去年出会った頃みたいにたくさんのことを話していく。
 この時間が永遠に続けばいいのに……。

 翌朝、親族の方が来て、ベットの上で彼は亡くなったと聞かされた。
 最後までありがとう。とても穏やかな顔だったわ。あなたのおかげね。
 こうなると事前にわかっていたのに、やはり涙が止まらなかった。
 こうして私の恋は夏の花火に始まり、夏の花火で終わった。
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