以心伝心

文字数 483文字

 踊りなんてめんどうくさい。
 この若者たちの発言に、これだから昨今の若者はやる気がなくて困ると大人の返答が広場に響く。
 地域で長年に渡り、続いてきた伝統のある踊りを引き継ぎ、後世に残して欲しいと大人達が頼んだ際の、冒頭の言葉である。
 なかなか連帯感もなくまとまることができずに、若者はついポロリと愚痴が出てしまっただけなのだろう。しかし言ってしまった言葉は取り消せない。
 そこに一人の踊り手が若者に語りかけた。

 君たちはまだ伝統がどうとか、引き継いで残していくことの大切さがどんなものか理解できないだけかもしれない。
 例えばだが、君たちの今の常識や文化が全て無くなったとしよう。
 誰とも自分と考えが共有できないことに寂しさを覚えはしないかい? もしかつてのこれを残しておけば、誰かと共有して楽しかったことも苦労も分かち合える。
 素敵な思い出と歴史、どちらも守って誇れる自分になりたくはないかい?

 ──綺麗事だ。ただの綺麗事なのに、この言葉がきっかけになり、皆の心はひとつになった。
 本番では、まるで以心伝心しているかのように、見事な連携の取れた動きを見せたのだった。
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