忘年会とは……?

文字数 984文字

 会社で毎年十一月頃に行われる、午後から旅館に泊まりがけで行われる忘年会は、コロナ禍で四年近く延期されていた。
 しかし、今回四年ぶりに行われることになり、私も幹事のひとりとして招集された。
 幹事と言っても、ただの連絡係で、当日も点呼をしたり雑用に回ったりと裏方で動くことが多い。
 先に幹事の人達に予定表を配られたが、今回も集まる時間帯と大まかな流れは変わらなかった。
 ただ一点、今までと違うのは、「宴会」が無くなったということだ。
 酒を浴びるように飲める宴会を楽しみに参加する人は少なくなかった。
 旅館ではこの四年の間に深刻な人手不足が進み、宴会場で働いてくれるだけの人数が集まらないので宴会はできませんよと先方から連絡があったそうだ。
 交流を通して仲を深める目的でもあった宴会がなくなったことで、ただのお泊まり会へと変貌したのだから、これならばわざわざ忘年会と言わなくてもいいのでは……? と首を傾げたのは言うまでもない。
 とにかく、酒が飲めないわ、さらに今まであった社内の人による余興も行われないのだから、今回は参加人数がさらに少なくなりそうだ。
 会社の人の何名かは、酒を飲んでは問題ばかり起こすから、むしろ静かになっていいだろうとほかの幹事の人の言葉に苦笑した。

 集まりを解散し、自分の部署へ戻ってきて概要を説明すると、酒が飲めないなら泊まらない! で意見が一致していた。
 ただ旅館に泊まってのんびりと部屋で過ごすのが苦手な人が多いのは理解していたが、ここまで酒があるか、ないかだけで泊まらないに意見が傾くといっそ清々しい。

 ──私だって本音を言えば、泊まらなくてもいい意見の方だ。
 酒は酔いやすいたちなので飲まないし、少食なのでご馳走が並んでいてもたくさん食べられなくて大半を人に譲るのはいつものこと。
 何より大勢の人が集まるところが苦手で人酔いしやすかった。
 とても宴会に向いている体質ではないのである。
 しかし今回は幹事。どうしても泊まらないわけにはいかなかった。
 それでもどうにか泊まる理由をこじつけるとしたら、執筆環境を変えて旅館で執筆するくらいしかない。
 本来の趣旨に反するが、ほかの交流を強制されていない以上、周りがどう思おうが、部屋で大人しく自分の創作に時間を使えばいいと考えたら、どんな話が書けるだろう。創作が趣味でよかったと心の底から思った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み