一期一会

文字数 765文字

 一期一会と言うと、人同士の出会いのことを指す場合が多いが、様々な物事に出会うこともまた、一期一会と言えるのではないだろうかと考える。

 たまたま地元の書店へ行き、ぶらぶらと店内を回っていたところ、自分が長年のファンである、とある作家さんの小説が本棚に並んでいるのを見つけた。
 見かけた瞬間に即買いしたのだが、全く後悔はない。そのくらいには気に入っているほどだ。

 ──この作家さんとの本の出会いは学生時代に遡る。
 自身の誕生日プレゼントに、なんでもいいから一冊だけ本を買ってあげよう、さあ選んでご覧と言う家族の言葉に、広い書店で悩みに悩んで家族に買ってもらった本は、短編集だった。
 長編ほど長くないため、あっという間に読み上げてしまう。
 ずっと好んで読んでいた傾向とは対極的なもの。
 他にも候補はいくつかあったが、軽く内容を読んだ上で決めたものだったので満足していた。
 私はその本を何度も何度も読み返し、そして手垢がつくほど読んだ。おかげですっかりボロボロになっているが、大事な大事な宝物のひとつ。

 当時は特に長編が好きで、シリーズ物ばかり集めていた自分。短編集など眼中に無いどころか勝手に短い話は面白くないなどと勝手に決めつけ卑下していたものだ。
 今の自分がもしその場にいたら、話の長さで優劣をつけるな、長編も短編もそれぞれの良さがあるのに決めつけるな、書く人の努力をなんだと思っているんだ! と書く側として叱っていてもおかしくはない。

 今にして思えば、あの時買ってもらった一冊の本が、大人になってこうして掌編を書くきっかけになったのかもしれない。
 あの時その本を選ばなかったなら、のちにこうして掌編のような短くても話を書こうとは思わないまま、ただの読者止まりだっただろう。
 これからも、色んな一期一会を大事にしていきたいものだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み