第29話

文字数 7,662文字

 車は思っていたよりも早く、上野に到着した。
 蒔田は関係者用の駐車場に車を停めた。

「大丈夫なんですか?」

「心配しなくても大丈夫。ちゃんと許可は取ってあるから」

 蒔田の笑顔は爽やかで、理子の胸はキュンとした。
 既にサングラスから普段の眼鏡に変わっている。

「ちょっとそのまま待っててくれ」

 蒔田はそう言うと車を降りた。
 理子が素直に従ってそのまま座っていると、蒔田は長いボンネットの前を通り、助手席の方へやってきてドアを開けた。

「頭、気を付けて」

 と優しく微笑む。
 
(えええー!?)

 私の為にドアを開けてくれたの?
 まるで私、お姫様みたい.....。

 カーッと顔が熱くなる。

 スポーツカーは車高が低いので、シートから降りる時がちょっと辛い。
 そんな理子の前に蒔田の大きな手が差し出された。

(えっ?いいのかな、手を取っても)

 ドキドキしながら恐る恐る蒔田の手を取ると、そっと引き上げてくれた。
 全身に血液が回って、ドクドクしているのがわかる。
 足腰に力が入らなくて、あやうくヘニャリとしそうになったのを耐えた。

 これって、やっぱり教師と生徒って感じじゃないよね?

 そう思わずにはいられない。

 そして、そう思えば 思うほど、戸惑いが心の中に広がっていく。
 一体これをどう理解したら良いのか。

 ドキドキしたまま、蒔田の後を付いて美術館へと入った。
 日曜だけに、人は多かった。

 理子はなるべく付かず離れずの距離で見てまわるようにしていた。
 周囲の女性が、何気なく蒔田に視線を送っているようだ。気になるのだろう。

 理子の胸は高鳴りっぱなしだったが、次第に展示物に引き込まれてゆき、いつの間にか自分の
ペースになっていた。
 展示物はどれも素晴らしかった。さすがに王朝文化の賜物だ。
 お姫様達の日常の品などもあり、豪華絢爛だった。

 特に牛車(ぎっしゃ)には興味を惹かれた。
 文学の中でよく出てくるが、身分や用途によって幾つも種類があり、副教材にある絵を見ていても、なんだかピンと来なかったからだ。
 また、時代によって様式も違う。
 興味深い内容ばかりだった。

 熱心に見ている理子に、蒔田は時々解説してくれた。
 蒔田の低い声が耳に心地良い。

 牛車を見ながら平安時代の冠位の話を二人でしていた時、蒔田に声がかけられた。

 今回、展示会の招待をしてくれた大学時代の友人の古川だった。

「よぉ~、蒔田!」

 豊かな髪を七三に分け、黒ぶちの眼鏡をかけた中肉中背の男だった。
 蒔田と同級生だが、古川の方が老けて見える。

「来てくれたんだな。さっき受付から連絡があったんで、顔を見にきた。久し振りだな」

「久し振りって言っても、卒業以来だから、まだ半年くらいだぞ」

「半年も会わなきゃ久し振りだよ。女だったら逃げちまう」

 そう言って古川は豪快に笑った。

「こちらは?」

 古川は理子に視線を向けて問いかけてきた。

「今度うちの学校に新しくできた歴史研究会の子だよ」

 蒔田は何でもないことのように、さらっと答えた。

「女子高生?」

 古川は眼を丸くした。

「女子大生には見えないだろ」

「そうだけど、お前、大丈夫なのか?」

 古川は心配そうな顔をした。

「大丈夫、と言えば大丈夫だし、大丈夫じゃないと言えば大丈夫じゃない」

「なんだ、そりゃあ」

 二人は顔を見合すと、苦笑した。
 理子は何と言ったら良いのかわからない。
 そもそも、このシチュエーションからして信じられないわけだし、蒔田の発言に至っては、全く理解できない。

「どうですか、今日の展示物は?」

 古川が理子に問いかけてきた。

「とても興味深いです。書物の中では、実際にどんな物なのかよく掴めなかったんですけど、実物を拝見させて頂いて、凄く勉強になりました。絢爛豪華で、当時の王朝生活の一端が垣間見れて嬉しいです」

「そうですか。それは良かった」

 古川は嬉しそうに笑った。

「やっぱり、平安ものは女性受けするよなあ」

「こいつは歴史そのものが好きなんで、どの時代にも詳しいぞ」
 
「へぇー。それじゃぁ、お前と一緒だな。もしかして師弟関係か?」
 
「はははっ!そうだな。俺の一番弟子かな」

 蒔田が大笑いしたので理子は少々面食らった。
 こんな風に笑った先生を見たことが無かったからだ。
 大きな口を開けて笑う増山の口元から八重歯が覗いた。それをキュートだな、と理子は思った。

「まぁ、弟子ではなくても、師弟であることには変わりはないな。教師と生徒なんだから」

 古川は、何か意味を含めるような言い方をした。

 古川はひとしきり話すと、「じゃぁまたな」と言って去って行った。

「面白いヤツだろう。あいつくらいお喋りなヤツは学者にはそうそういない」

 蒔田は楽しそうだった。この顔も学校では見ない表情だった。

 全てを見終わった後、理子は蒔田に誘われて近くの上野公園へ行った。
 上野公園は歴史的なゆかりの多い場所だ。見どころも多いし、何より綺麗だった。

 まだ紅葉には若干早かったが、色づき始めたもみじは美しい。
 空気が澄んでいて気持ちが良かった。

 こんな風に二人で公園を歩いていると、まるで恋人同士みたいだ。
 ドキドキしながらも、自分じゃ先生の相手には役不足だと思う。

 二年の中では一番の歴史好きだと言っても良いと思う。
 蒔田の作った試験でいつも満点を取るのは理子だけだった。
 
 さっき先生は古川さんに一番弟子だって言ってたけど、今日誘ってくれたのも、そういう理由だったからに違いないと理子は思った。

 噴水の前まで歩いてきた時、蒔田が立ち止ったので理子も少しだけ離れて立ち止まった。
 噴水のしぶきが気持ち良い。清涼感があって心が洗われる思いがする。

「ここで、彰義隊が散っていったんですよね.....」

 理子が辺りを見回しながら、しみじみと言った。

 幕末の上野戦争に思いが馳せる。悲惨な戦いだった。
 時代の変革の為に必要な流血だったのだろうか。あまり納得がいかないのだった。

「理子は佐幕派なんだな」

「別に佐幕派と言うわけでは。尊王派でもないですけどね。新しい政治システムの必要性は高かったとは思います。今までのような幕藩体制ではもう無理だったでしょうし。でも、やることがなんか極端ですよね。過激で。その渦中にいたら、そうなってしまうものなのでしょうか?」

「時代の波の中にいると、その波がどこへ向かっているのかを読むのは難しい。今の俺達だって、世界が混沌としているように見えるだろう?」

 理子は頷いた。

 蒔田が理子の方を振り返った。

「理子.....、今日は楽しかったか?」

「はい」

 蒔田が近すぎてまともに顔が見れない。
 今日の蒔田はラフな格好だったが、どこかお洒落な感じがした。
 髪が風に揺れていて、その姿はとても高校教師には見えない。

 こうしてここに二人で向き合って立っているのが信じられないくらいだ。
 手の届かない人の筈なのに。

「今日の展示会。古川から送られてきた券を見た時、瞬間的にお前と行きたいと思ったんだ」

 突然の蒔田の言葉に理子は驚いた。

「こんな事を自分で言うのもなんだが、俺は今まで、誰も本気で女性を好きになったことがない」

「えっ?」

 理子は蒔田の言動が理解できないでいた。何だか話しがよく見えない。

「嘘だと思ってるだろう」

 蒔田は苦笑いのようなものを浮かべた。

「あの、だって、彼女が.....」

「見たんだってな。枝本と一緒に」

「はい.....」

「一つ、教えてくれないか?」

「何ですか?」

「あの時、お前はどうして枝本と?」

「映画に誘われて、一緒に。お城の映画です」

「ああ、あの映画か」

 何故か蒔田ははほっとした顔をした。

「あの時に一緒にいた女は彼女じゃないんだ」
 
「でも、腕を組んでたじゃないですか」

「組んでない。向こうが勝手に絡ませてきただけだ」

「それなら、何故拒まないんですか?どうして振り払わないの?」

 蒔田は苦い顔をして横を向いた。
 
「理子に言ったら、軽蔑されるかな」

「軽蔑って.....」

「先に言っておくが、あの女とはもう会っていない。あれきりだ」

 先生は、何故こんな事を言うのだろう。
 どう受け止めて良いのか測りがたくて戸惑う理子に、構う事なく蒔田は話を続けた。

「お前を意識しだしたのはいつごろだったかな。女子なのに歴史にとても詳しくて、その洞察力や思考の傾向も高校生とは思えないくらい深くて。こんな女子が今時いるとは思ってなかった。
だから、お前に興味を持ったんだ」

(えっ?)

 一体、何を言っているのか。何を言おうとしているのか。

「だけど、そういう女子は少ないが、いないわけでは無い。だから、注目はしていたが、別にそれ以上の気持ちは無かったんだ。多分、最初に異性として意識したのは、音楽準備室で初めて会った時かな。変わった奴だと思った。これまで出会った女達とはかなり違っていたし。そもそも、お前は最初から他の女子みたいに俺に熱を上げて無かったし」

 それは確かにそうではあるけど、好意を寄せていなかったわけでは無い。

「先生は、自分を好いてくれる女の子達に何故冷たいんですか?」

 最初から気になっていたことだ。
 そうやって軽薄に騒ぐ女子を好まないのは理解できたが、仮にも教え子だし、自分に好意を
寄せる相手に、あそこまで冷たくできる神経が理解できなかった。

「好きでもない人間に、しつこく付きまとわれて優しくできる人間じゃないんだ、俺は」

「好意を寄せてくれるのを嬉しく思わないってことなんですか?」

「じゃぁお前はどうなんだ?好きでもない男に好意を寄せられ、しつこく根掘り葉掘りあれこれ聞かれ、しょっちゅう付きまとわれて、それでも嬉しいか?」

「いいえ.....」

「そうだろう。俺は、子供の時から、ずっとそうだった。あまり突っぱねるのも悪いと思って優しくした事もある。そうすると、勘違いする。つけあがってくる。だから、その気が無いなら最初から突っぱねるのが、逆に相手の為になると途中から悟ったんだ」

 蒔田は自分の事を語った。
 元々、静かに自分の好きなことに没頭する方が好きなタイプだった。周囲からちやほやされるのが好きではない。

 だが、そのルックスのせいで、幼少の頃から周囲にもてはやされた。
 幼稚園の先生はみんな蒔田に必要以上に親切で、何かと構われたし、女の子達も同じだった。その熱狂ぶりは年齢が上がる程に激しくなった。

 向こうが勝手に好きになって、勝手に騒いでいる。
 好きだと言ったって、好きなのは蒔田の顔だけだ。
 蒔田は見た目とは違って変わり者だった。

 読書が好きで歴史が好きで、一風変わった感性の持ち主だ。
 大学に入ってから、自然の流れで多くの女性と付き合うようになったが、どの女性とも合わなかった。一緒にいて楽しいと感じたことが無い。

「いつも俺はつまらなそうにしていたと思う。実際、つまらなかったからな。高校生のお前にこんな事を言うのもなんだが、セックスにしても同じだ。男だから一応、性欲はある。そんなに強い方だとは思わないが。俺にとってのセックスは、スポーツと同じ感覚だ。それを女達は不満に思う。それで結局、自分の方から去って行く。自分の方から付き合いたくて寄って来たのにな」

「だから先生は、これまで一度も本気になった事が無いって.....」

「そうだ。これまではな」

 蒔田の言い方に含みを感じて、理子の胸がドキンとした。

「ほんとに、お前には振り回されっぱなしだ。個人面談の時にも驚いた」

 振り回されっぱなし、ってそれは私の台詞なのに、と理子は思った。

「お前って、ほんと面白いヤツだよな。溌剌(はつらつ)としていて、周囲によく気を配っていて頭がいい。物怖じもせず、堂々としていて度胸がいいかと思えば、妙に大人しくて内向的で臆病だったりする。天の邪鬼でひねくれてると思うと、素直だったりするし、子供っぽいかと思えば、大人びた時もある」

「人間って複雑なものじゃないですか?」

「まぁな。でもお前は、他の女と違って不思議な魅力を持っている」

「不思議な魅力?」

「そうだ。多分、その魅力に、枝本も茂木も、他の連中もやられたんだな」

「やられたって.....」

「俺もその一人だ」

 理子は胸が締め付けられた。

「個人面談の時にジョブを喰らったんだろうなぁ。音楽準備室でお前の弾き語りを聞いて、お前への興味が深まった。セッションした時は、もっとお前と一緒にいたいと思った。最上(もがみ)に待ちぼうけを喰らって泣いてるお前を、抱きしめたいと思った」

 そう言って、蒔田は理子を真っすぐ見つめた。

「せ、先生、何言ってるの.....?」

 理子はうろたえた。
 こんな事ってあるのだろうか?
 夢の中にいるのでは?

「文化祭の時には、普段とは違うお前を見たいと思った。修学旅行の時には、枝本と茂木から逃げて来たお前に会って、俺はあの二人に煮えたぎるような怒りを感じた。俺自身も、自分の気持ちに怖じけずいていたのさ。日々、お前を意識している自分を自覚するようになって、戸惑った。俺は教師で、お前は教え子だからな。しかも六つも年下だ。これまで本気で人を好きになったことが無かったから、自分の気持ちになかなか気づけなかった」

 理子は戸惑う。顔も体も熱い。

「お前と会って、色々語り合いたい。その欲求が日々高まる。だがそれは、久々に出会った手ごたえのある人間だからなんだろう、と思ってた。女としてじゃない、そう思っていたんだ。でも、そうじゃなかった。自分でそうやって否定していただけだ。認めるのが怖かっただけだった。新幹線で、お前が『理子姫』と呼ばれていた時や、枝本や茂木達と写真を撮ってる時、それから石坂先生と楽しそうに話している時。俺は嫉妬した。そして、枝本と茂木達から逃げてきて、俺の後に隠れた時、とても嬉しかった。だがその直後、他に好きな人がいるって言ったお前の言葉にショックを受けた」

 それは.....。
 先生の事なのに。

「京都国際ホテルの庭園でお前の事を考えていたら、お前がやってきた。俺は自分の気持ちをはっきり確かめたくなったんだが、枝本がやってきたから隠れたのさ。そして、お前達の会話を心ならずも聞いてしまった。お前が彼女のいる大人の男に片思いをしていると聞いてショックを受けたが、それでも、とにかくまずは自分の気持ちを確認しようと思って、お前を近くへ呼んだんだ」

 そうだったのか。だけど、蒔田は理子の顔を見つめるだけだった。
 その後で、やっとわかったと言っていたが、何がどうしてわかったと言うのだろう。

「お前は本当に、一筋縄ではいかないな。俺が顔を見たいって言ってるのに、あんなに頑なに拒んでくるとは思ってなかった」

「だ、だって.....。あんな人気(ひとけ)のない暗い場所で、男性と二人きりなんですよ。普通警戒しますよ」

「なんだ。俺は警戒されてたのか」

 蒔田は笑った。

「お前の顔を見て、お前の目を見て、自分の気持ちを確かめたかったんだ。この想いは、単にお前と話したくてもなかなか話せないが為に気になってしょうがないだけなのか、それとも、女として好きなのか」

 蒔田は理子から目を逸らすと、ゆっくりと辺りを見渡した。
 その表情は涼やかだった。
 理子の方は胸の動悸が激しくて、息苦しく感じている。

 風が頬を撫でる。
 夕方の秋風はヒンヤリしていた。
 沈黙が暫く続いた。自分の鼓動音だけが響いていた。

 やがて蒔田は意を決したような顔をした。

「お前の顔を間近で見て、俺は自分の気持ちをはっきり悟ったんだ。あの時俺は、お前を愛しいと感じた。どうやら俺は、お前が好きみたいだ。お前に他に好きな男がいてもな」

 もう限界だった。体が震えてきた。

「ごめんな。お前にとっては迷惑な話だろう。枝本と違って、俺は担任教師だからな」

 蒔田はすまなそうな顔をして、目を伏せた。

「俺も随分、躊躇(ためら)ったんだ。言ったところでお前には迷惑なだけだろうし。自分の教師としての立場を考えても、好ましい行動とは思えない。だが、古川から今回のチケットを送られてきた時、お前と行きたいと思って、殆ど無意識のうちに、お前にメールを送ってた。俺って、馬鹿だよな」

 蒔田は自嘲するような笑みを浮かべた。

「先生、私.....」

 と理子が話そうとしたら、それを遮るように蒔田が言った。

「今日の事。まさかOKの返事が来るとは思ってなかったんだ。まぁ、枝本と映画を観に行った時と同じ感覚だろう。平安王朝展を見たかったから来たんだろう?」

「先生.....」

 理子は何をどう言ったら良いのかわからなかった。
 どうやら蒔田は、理子が好きなのが自分だとは思っていないらしい。完全な誤解だ。

「せ、先生は、京都でのあの夜、私の目を見て何も感じなかったんですか?」

「えっ?どういう意味だ?」

 蒔田が不思議そうな顔をした。

「先生が私の目を見てご自分の気持ちを確認されたのはわかりました。でも、それ以外に、例えば私の気持ちとかは、何も感じなかったんでしょうか」

 理子は、自分の思いを込めて蒔田を見つめた。
 そんな理子を蒔田はじっと見つめた。
 視線が絡み合う。

「あの時お前は、驚いた顔をしていたように思うが.....」

 蒔田は眉間にしわを寄せ、何かを探るように瞳を動かしていた。
 理子は軽く溜息を吐く。

「先生は、大人の男の人です。私、横浜で先生が綺麗な女の人と一緒なのを見てしまいました」

 理子のその言葉に、蒔田の表情が驚きの様子を示した。

「まさか、理子.....」

「先生は、私の好きな人が自分だとは、思わなかったんですね。でも私は、先生から諦めろって言われて悲しくなりました。」

 理子は呟くように言った。
 顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

「理子.....」

 蒔田は目を見開いて理子を見つめた。その瞳が揺れていた。
 
 静かに一歩、距離を詰めて、手を伸ばして理子の肩を抱き寄せた。
 理子の体が蒔田の腕の中にすっぽりと納まり、抱きしめられた。

(先生の、匂いがする.....)

 理子は震えた。なんだか信じられない。

「先生は、鈍感なんですね。いくら王朝展を見たくても、誘ってきたのが他の先生だったら、断ってました。だって、大人の男性と二人きりで出掛けるなんて考えられません。同級生と映画に行くのとはわけが違います」

 蒔田の腕の中は暖かかった。

「そう言われれば、そうだな。だがお前って、どこか無防備と言うか無頓着な所があるから。そういうのは気にしない女だと思ってたんだ。じゃぁ、俺と一緒にここへ来てくれたのは、理子も俺を好きだからなんだと思っていいんだな?」

 その言葉に、理子は頷いた。
 体が熱かった。中から火照ってくるようだ。
 心も体も熱く震えている。

 思ってもいなかった事だ。
 何度も絡み合った視線は、それを意味していたんだ。

 でも、いいの?私で。
 別に美人でもないし、可愛いわけでもない、平凡な女なのに。

 先生ほどの素敵な大人の男性から好かれる理由がわからない。
 きっと、より取り見取りなんだろうに.....。
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