第18話
文字数 2,275文字
茶道部では、少しでも多くの人に来てもらおうと、部員全員で在校生向けに前売り券を作って売っていたのだが、誰から買ったのだろう?
「私の順番は、午前は十時半で午後は二時から」
「じゃぁ、午前中に行こうかな。それと、明日良かったら一緒に回らない?」
「えっ?」
ドキっとした。
「いやかな?」
「でも、ゆきちゃんと.....」
急に恥ずかしくなって俯いた。
「最上さんなら小泉と一緒に回るんじゃないかな?」
その言葉に更に驚いた。
「えっ?聞いてないけど」
「多分、今頃誘ってると思うよ。小泉がそう言ってたから」
「ええー?あの、小泉君がぁ?」
理子は驚く。あの口数の少ない大人しい小泉が。
パソコン部の村田が、肝心な事ほど言わないと言っていた、あの彼が。
「何でそんなに驚いてるの?察してると思ってた」
「あっ、まぁ、察してはいたけど、彼、大人しいじゃない?焦れったいくらい、行動に移さない人なのかと思ってたから」
「そっか。そういう意味で驚いたんだ。なるほどね.....。でもまぁ、そういうわけだから、理子は一人になっちゃうわけだよ」
「理子?」
理子は聞き返した。さっきまで「吉住さん」だったのが、いきなり「理子」だ。
「あっ、ごめん。でも、いいでしょ?みんなそう呼んでるし」
結構、気安い。こんな気安い人だったのか。
「理子は知らないだろうけどさ。誘いたがってる奴、結構いるみたいだぜ」
「えっ?そうなの?ウソでしょう?」
ちょっと信じられなかった。
今まで誘われたことなんて、須田先輩くらいしかいないのに。
「彼氏がいると思ってるから遠慮してるんだよ。今回なんか、耕介と一緒だろうと、多分みんな思ってる。でも耕介は物凄い恥ずかしがり屋だから、無理やりカップルにさせられても行動を共にしないだろうな。だから、ある意味、いいチャンスなんだよ」
「いいチャンス?」
一体、何がチャンスなんだ。
ドキドキしてくる。
第一そんな事を言われてもピンとこない。自分で無い他の女子の事を言われているように思える。
「明日、楽しみだなぁ。みんなの反応が」
そう言ってにやけている。
「ちょっと、ちょっと。一緒するって返事してないけどー」
「えっ?そうだった?まぁ、いいでしょう、決まりで」
さっさと勝手に決めてしまった。
昔からこういう強引な所は変わっていないみたいだ。
当時は、こういう強引さが好きだった。
理子は少々強引な男に惹かれる傾向にあった。
自分に自信が無く、少々優柔不断な所があるからかもしれない。
好まない相手なら困るばかりだが、好む相手だった場合、好意が増す傾向にある。
中1の時に、そもそも最初に好きになったのは、枝本のこの積極性だ。
おまけに眼鏡をかけている。あの時は黒縁だったが、今は銀縁だ。
どちらもよく似合っているが、銀縁の方があたりが優しい感じがした。
二人で揃って教室へ入ったら、一斉に皆の注目を浴びた。
「耕介―、奥さん浮気してるぞー」
と冷やかす声が上がった。
理子はそう言った男子を睨みつけて、自分の席に座った。
隣のゆきの席は空いていた。まだ戻ってきていない。
「お前なんで、ひ、否定しないでいなくなっちゃうんだよー」
前の席の耕介が振り返って、まだ赤い顔で話しかけてきた。
「ごめん、ごめん。まぁ、いいじゃん。言いたい奴には言わせておけば」
理子は笑った。
「ちょっ、お前、ほんとにいいのかよ」
「そのうち、飽きるんじゃない?」
そう言えば、枝本と理子が急接近して、互いの気持ちを知らずに一喜一憂していた時、当人たちの知らない所で、二人の仲が噂になっていた事を思い出した。
ある日、枝本の友人が黒板に二人の相合傘を書いて冷やかしてきた事で初めて知ったのだった。だがその時は、それきりだった。
枝本がクラスの男子の人気者で、学級委員じゃなくなっても、クラスの中心者である事には
変わらなかったので、みんな枝本に遠慮していたのだと思う。
あの時理子は、枝本との相合傘を書かれた事そのものが、理解できないでいた。
傍 からは随分と仲良く見えたようだったが、当人は、ちっともそんな風に感じていなかったからだ。
だから噂になっているらしい事を知って、酷く驚いたのだった。
そういう点で、今回は似ている。
あの時は、理子は枝本が好きだったから、益々疑心暗鬼になったものだったが、今回は驚くだけである。
仲の良い男女の場合、みんなカップルみたいに思われるのも可笑しな話だ。
間もなく、ゆきが戻ってきた。
小泉は少し間を置いてから戻ってきた。
ゆきの顔が少し赤い。
理子がそっと窺っていたら、ゆきが気づいて目が合った。
「理子ちゃん.....」
どことなく声が切なく甘い。
「明日のことでしょ」
「えっ?なんで知ってるの?」
「察したの。二人していないから。もしかして明日一緒に回らないかって誘われたんじゃないかと」
「凄い、理子ちゃん。わかるんだ」
「えへへ.....」
本当は枝本に聞いたのだが、それは内緒にしておこう。
小泉が他人に話したと言う事は知らない方がいいような気がした。
「ごめんね、理子ちゃん。そういう事だから明日は一緒に回れない.....」
矢張り、友情より恋が優先なのか、とちょっとだけ思う。
とは言え、こういう時こそ、好きな男子がいれば一緒に回りたいものだろう。
仕方がない。
「うん、いいよ。折角のチャンスじゃん。良かったね」
「ありがとう、理子ちゃん」
ゆきの表情が、あまりにも嬉しそうで溶けそうなほどだ。
可愛い子だ。
幸せそうで羨ましい。
そして、全力で応援したくなるのだった。
「私の順番は、午前は十時半で午後は二時から」
「じゃぁ、午前中に行こうかな。それと、明日良かったら一緒に回らない?」
「えっ?」
ドキっとした。
「いやかな?」
「でも、ゆきちゃんと.....」
急に恥ずかしくなって俯いた。
「最上さんなら小泉と一緒に回るんじゃないかな?」
その言葉に更に驚いた。
「えっ?聞いてないけど」
「多分、今頃誘ってると思うよ。小泉がそう言ってたから」
「ええー?あの、小泉君がぁ?」
理子は驚く。あの口数の少ない大人しい小泉が。
パソコン部の村田が、肝心な事ほど言わないと言っていた、あの彼が。
「何でそんなに驚いてるの?察してると思ってた」
「あっ、まぁ、察してはいたけど、彼、大人しいじゃない?焦れったいくらい、行動に移さない人なのかと思ってたから」
「そっか。そういう意味で驚いたんだ。なるほどね.....。でもまぁ、そういうわけだから、理子は一人になっちゃうわけだよ」
「理子?」
理子は聞き返した。さっきまで「吉住さん」だったのが、いきなり「理子」だ。
「あっ、ごめん。でも、いいでしょ?みんなそう呼んでるし」
結構、気安い。こんな気安い人だったのか。
「理子は知らないだろうけどさ。誘いたがってる奴、結構いるみたいだぜ」
「えっ?そうなの?ウソでしょう?」
ちょっと信じられなかった。
今まで誘われたことなんて、須田先輩くらいしかいないのに。
「彼氏がいると思ってるから遠慮してるんだよ。今回なんか、耕介と一緒だろうと、多分みんな思ってる。でも耕介は物凄い恥ずかしがり屋だから、無理やりカップルにさせられても行動を共にしないだろうな。だから、ある意味、いいチャンスなんだよ」
「いいチャンス?」
一体、何がチャンスなんだ。
ドキドキしてくる。
第一そんな事を言われてもピンとこない。自分で無い他の女子の事を言われているように思える。
「明日、楽しみだなぁ。みんなの反応が」
そう言ってにやけている。
「ちょっと、ちょっと。一緒するって返事してないけどー」
「えっ?そうだった?まぁ、いいでしょう、決まりで」
さっさと勝手に決めてしまった。
昔からこういう強引な所は変わっていないみたいだ。
当時は、こういう強引さが好きだった。
理子は少々強引な男に惹かれる傾向にあった。
自分に自信が無く、少々優柔不断な所があるからかもしれない。
好まない相手なら困るばかりだが、好む相手だった場合、好意が増す傾向にある。
中1の時に、そもそも最初に好きになったのは、枝本のこの積極性だ。
おまけに眼鏡をかけている。あの時は黒縁だったが、今は銀縁だ。
どちらもよく似合っているが、銀縁の方があたりが優しい感じがした。
二人で揃って教室へ入ったら、一斉に皆の注目を浴びた。
「耕介―、奥さん浮気してるぞー」
と冷やかす声が上がった。
理子はそう言った男子を睨みつけて、自分の席に座った。
隣のゆきの席は空いていた。まだ戻ってきていない。
「お前なんで、ひ、否定しないでいなくなっちゃうんだよー」
前の席の耕介が振り返って、まだ赤い顔で話しかけてきた。
「ごめん、ごめん。まぁ、いいじゃん。言いたい奴には言わせておけば」
理子は笑った。
「ちょっ、お前、ほんとにいいのかよ」
「そのうち、飽きるんじゃない?」
そう言えば、枝本と理子が急接近して、互いの気持ちを知らずに一喜一憂していた時、当人たちの知らない所で、二人の仲が噂になっていた事を思い出した。
ある日、枝本の友人が黒板に二人の相合傘を書いて冷やかしてきた事で初めて知ったのだった。だがその時は、それきりだった。
枝本がクラスの男子の人気者で、学級委員じゃなくなっても、クラスの中心者である事には
変わらなかったので、みんな枝本に遠慮していたのだと思う。
あの時理子は、枝本との相合傘を書かれた事そのものが、理解できないでいた。
だから噂になっているらしい事を知って、酷く驚いたのだった。
そういう点で、今回は似ている。
あの時は、理子は枝本が好きだったから、益々疑心暗鬼になったものだったが、今回は驚くだけである。
仲の良い男女の場合、みんなカップルみたいに思われるのも可笑しな話だ。
間もなく、ゆきが戻ってきた。
小泉は少し間を置いてから戻ってきた。
ゆきの顔が少し赤い。
理子がそっと窺っていたら、ゆきが気づいて目が合った。
「理子ちゃん.....」
どことなく声が切なく甘い。
「明日のことでしょ」
「えっ?なんで知ってるの?」
「察したの。二人していないから。もしかして明日一緒に回らないかって誘われたんじゃないかと」
「凄い、理子ちゃん。わかるんだ」
「えへへ.....」
本当は枝本に聞いたのだが、それは内緒にしておこう。
小泉が他人に話したと言う事は知らない方がいいような気がした。
「ごめんね、理子ちゃん。そういう事だから明日は一緒に回れない.....」
矢張り、友情より恋が優先なのか、とちょっとだけ思う。
とは言え、こういう時こそ、好きな男子がいれば一緒に回りたいものだろう。
仕方がない。
「うん、いいよ。折角のチャンスじゃん。良かったね」
「ありがとう、理子ちゃん」
ゆきの表情が、あまりにも嬉しそうで溶けそうなほどだ。
可愛い子だ。
幸せそうで羨ましい。
そして、全力で応援したくなるのだった。