第44話

文字数 4,683文字

「は、初めてだったんだよね.....」

 なんだか聞くのがドキドキする。

「うん。なんかとっても、恥ずかしくて、怖くて。でも、とっても優しくしてくれた」

 ゆきが頬を染めて、照れながら話す。

「あ、あのさ。小泉君は?小泉君も初めてだったのかな?」

 理子は気になって訊いてみた。

「そうだって言ってた。だから、最初、なかなか上手くいかなくて.....」

 上手くいかない.....って、どういう事だろう?

「やっぱり、痛かった?」

「うん。とっても。でも、あっという間に終わっちゃった感じ」

「あっという間?」

 あっと言う間に終わるものなのか?

「彼が入ってきた時、凄く痛かったんだけど、なんかすぐに終わったの」

「そ、それで、その後は?」

「その後って?」

「だから、その、終わった後。それで終わり?」

「終わった後は、暫く抱きしめられた」

「エッチは一回だったの?その後は無し?」

「やだ、理子ちゃん。一回で終わりだよ。そんなに何度もできないよ」

 そうなのか。やっぱり、普通は一度で終わりなんだ.....。

「あの、変な事を訊くようだけど、時間、どのくらいだった?」

「ええー?時間?.....小泉君の部屋だったんだけど、下に家族がいたから。なんか、成り行きで慌ただしい感じだったかなぁ.....」

「成り行きぃー?」

 理子の場合だって、同じようなものだろう。
 セックスの始まりは成り行きみたいなものなのかもしれない。

 ゆきの話しをまとめてみると、小泉の部屋で、ギターで一緒に歌を歌ったりしているうちにキスされて、そのまま押し倒されたらしい。
 
 それから、胸に手がゆき、服の中に手が入ってきて、服を捲くられて生で触られ、そのまま下へ。抵抗したが、小泉は見た目によらず強引だったらしい。
 そのまま最後まで流されてしまったようだ。

 服は着たままで、外されたのはショーツだけ。小泉はしっかりゴムを装着したそうなので、そう聞くと確信犯と言う気がする。
 あんな可愛い顔してて、やる事は大胆なんだな、と思った。

「セックスって、もっと怖いものかと思ってたんだけど、経験してみると、そうでもないんだね」

「ゆきちゃん、その後は?さっき、小泉君が、冬休み中はどこへも行かなかったって言ってたけど、デートしてないの?」

「うん。初詣だけ。だって、暮れは何かと忙しいでしょ?小泉君も、冬休みの間は勉強したいって言ってたし」

 そう言えば、そんな事を言っていた。
 小泉は国立の理工系を目指しているので、既に臨戦態勢に入っているのだろう。
 それを考えると、ゆきの今後の交際は厳しい状況になってくるかもしれない。

 須田先輩みたいに、勉強最優先でデート無し状態になる恐れもある。
 そうなった時、ゆきは大丈夫だろうか。

「でも、初詣の後で、小泉君の家に誘われて、またしちゃったの.....」

 ゆきは恥ずかしそうに身を細めた。

「ええっ?」

 理子は再び驚く。

「家族もみんな、あちこちへ出かけてていなかったの。それで.....」

「そうなんだ。.....それで、二度目はどうだった?まだ痛かった?」

「ちょっとだけね。でも、前みたいく痛かったわけじゃないから、最初の時とは違った感じした」

「違った感じ?」

「何ていうか、上手く言えないんだけど、.....気持ち良かった」

 それを聞いて理子の方が赤くなった。
 ゆきは女の顔をしていた。
 前より綺麗になったと思ったのは、きっと、このせいなのだろう。

 理子はつい、色々と根掘り葉掘りと聞いてしまった。
 二度目も矢張り、あっという間に終わったらしい。
 キスをして、胸を揉んで、下半身を触って挿入する。最初の時のように、なかなか入らなくて苦労したらしい。

 高校生同士のセックスって、そんなものなんだろうか?
 いや、二人が初めて同士だからなのだろう。
 お互いに手探りな感じだ。初々しい感じもする。

 理子の相手がもし枝本だったとしたら、矢張り、ゆき達と同じような感じになるのだろうか。
 だがふと、思い出した。
 確か枝本は理子の前の彼女の黒田萌子と、かなり際どいところまで進んでいた筈だ。

 キスは既に彼女と経験済みだ。そして、その先も.....。
 理子はその話を、現場にいた人間から聞いていた。聞いた時にはショックだった。
 まだ中1の初夏だったと思う。つい数カ月前までは小学生だったのだ。

 黒田は男好きするタイプで、本人もませていて、小学生の時から男子と付き合っていたので、性に対する抵抗は低かったようだ。
 それよりも、どちらかと言えば早く体験したいと思っていた節が感じられた。

 だから、好きな相手から求められれば、簡単に応じたろう。
 そう考えると、枝本君はもう童貞じゃないのかも.....。
 なんて思っていたら、ゆきから言われた。

「ところで、理子ちゃんの彼はどんな人?教えて」

 ドキっとして赤くなる。

「前は聞かないでって言ったけど、両思いになったんだから、いいよね?」

 ゆきは親友だ。大事な事を理子に詳しく話してくれた。
 だから、理子もゆきには話したい。
 だが矢張り、彼の正体だけは明かせない。

「彼は、大人なの。社会人で.....」

 理子はそう言った。嘘ではない。

「ええーっ?」

 ゆきはとても驚いた。

「幾つの人?」

「二十二、三歳かなぁ.....」

「凄い大人じゃない」

 目を丸くしていた。

「じゃぁ、そのペンダントって、もしかして、本物?」

「うん。ダイヤなの。あと、緑の宝石はツァボライトって言う、ちょっと珍しい石だって」

「すごーい。そんな凄いプレゼントを貰ったんだ」

 ゆきは感嘆した。
 
「ねぇ、いつから付き合ってるの?」

「うーん.....、秋ごろかな。でも、お互いに忙しくて時間が合わないから、デートとかできないの」

「えっ、そうなの?」

「うん」

「ねぇ、それって寂しくない?平気なの?」

 ゆきが切なげに聞いてくる。

「まぁ、平気。私も勉強で忙しいしね」

 ゆきが溜息をつく。

「理子ちゃんって、こう言ったらなんだけど、淡泊だよね。前の須田先輩の時もそうだったでしょ」

「あの時は、そんなに好きじゃなかったから。だけど今は、とっても好きだよ」

 理子は顔が少し赤くなっているのを感じた。恥ずかしくなってくる。

「だけど、どうして大人の男性なの?どうやって知り合ったの?」

「うん。まぁ、ちょっとした縁で。今はまだ詳しく話せないんだ」

「そうなんだ。残念。でも、話せるようになったら教えてね」

 そう言ってゆきが笑った。ゆきの、こういう優しい所が好きだ。

「何をしてる人?」

「公務員なの」

 本当の事だ。

「へぇー。お堅い仕事してるんだね」

 お堅い、のかな?やっぱり。

「真面目な人?」

「真面目、と言えば真面目なのかな。変わった人だけど、なんか情熱的なのよね」

「えー、いいじゃん。素敵じゃん。優しいんでしょ?」

「うん。優しい・・・」

 理子は話してて熱くなってきた。思い出してしまう。
 それに、彼の事を友達に話せるのが、なんか嬉しい。幸せな気分だった。

「それで理子ちゃんは、その人とエッチした?」

「ええーっ?」

 思いきり驚く。あのウブなゆきちゃんの口からそんな事を聞かれるとは。
 やっぱり、経験すると変わるものなのか。
 理子は赤くなって、俯いた。言っていいのだろうか?
 嘘をついた方がいいのだろうか?迷う。

「どっちだと、思う?」

 まずはちょっと逃げてみた。

「えー?うーん、どっちだろう?」

 ゆきは理子の顔を見て様子を窺っている。

「見た目からは、わからないかな」

 理子がポーカーフェイスだからだろうか?
 理子から見たゆきは、明らかに見た目が変わったと思う。
 同じ質問をされたら、きっとしたに違いないと思う筈だ。女になった感じがする。

「相手は大人の男性だから、求められて当然と思うんだけど、逆に大人だから、女子高生には手を出さないんじゃないか、とも考えられるし.....」

 なるほど。蒔田の場合は前者だったわけか。

「ゆきちゃんは、凄く綺麗になったよ。終業式で会った時と雰囲気が変わってるから、驚いてたの。小泉君との事を聞いて、なる程って思った」

「えっ、本当?あたし、変わってる?」

 ゆきが赤く染まった頬に手を当てた。

「今日なんかすっごく可愛い。歴研のメンバーも、みんな熱い目で見てたよ」

「えー?」

 更に赤くなった。

「私は、変わってないでしょ?」

 あれから毎日鏡を見て、自分は変化が無いように思っている。

「うん。変わったって感じはしない。いつもの理子ちゃんって感じ。今日はカッコ良かったけど」

「カッコ良かった?」

 意外な事を言われて驚いた。

「ボウリング、すっごい上手なんだね。颯爽として。それに、カラオケ。B‘zを歌うとは思ってなかったから驚いたけど、それがまた凄く上手だったから余計。男性ボーカルをあんな風に歌えるなんて、理子ちゃん、凄いよー」

「もしかして、それって男の子みたいだったって事になるのかな?」

「やだやだ、違うって。そうじゃなくて、いるじゃん、カッコイイ女の人って。そういう感じ」

 カッコイイ女の人かぁ。自分ではよくわからない。

「ねぇ。その後、小泉君と会うと、どんな感じがする?照れたりする?」

「うん。ちょっとね。なんか恥ずかしい感じ。みんなの前だと、余計にね」

 そう言えば、ゆきと小泉は何度も視線を絡ませ合っていた事を思い出した。
 ゆきの方の視線は熱かったように思う。

「心境の変化とか、感じる?」

「うん。感じる。前よりも好きって思うし、大学卒業したら結婚したいな、とかも思うし」

「結婚?今から考えてるの?」

 理子は驚く。

「だって、このまま付き合っていけたら、そうなるのが自然じゃない?」

「そうだろうけど、小泉君と結婚したいんだ」

「うん。したい。小泉君のそばに、ずっといたい」

 ゆきは照れながらそう言った。
 素直だな、と理子は思う。やっぱり自分とは大違いだ。

「理子ちゃんは、あたしにそうやって色々聞くってことは、やっぱりまだなのかな」

「えっ?何が?」

「エッチだよ.....」

「ああ.....」

 矢張り、わからないのか。
 どうしよう。
 そんな事を言われると、言ってしまいたくなる。
 天邪鬼が首をもたげてきた。

「ゆきちゃんは、イブの日に初体験だったんだよね?私はその翌日のクリスマスの日に.....」

 理子の言葉に、ゆきは目を丸くして驚いた。

「ええー?本当にー?」

「してないのに、した、なんて嘘はつかないよ。その逆ならあるかもしれないけど」

「えー、そうなんだ。だって理子ちゃん、そんな雰囲気じゃないから.....」

「自分でもそう思う。あれから家で鏡を見るたび、全然雰囲気変わってないなーって」

「そうかー。しちゃったんだ.....。大人の男性って、どんな感じ?」

「うーん、そう言われても初めてだから、比較するものがないし」

 理子は赤くなった。

「優しかったんでしょ?」

「多分.....」

「多分って?」

「頭真っ白だったから、よくわからないの」

「やっぱり、怖かった?」

「うん。まだ先だと思ってたから」

「理子ちゃんは、前に付き合った人たちと、そういう事は全然無かったの?その、エッチまではしなくても、その途中とか.....」

「全然無し。もしかして、ゆきちゃんは有ったの?」

「小泉君とちょっとだけね」

「あらまっ.....」

 そうだったんだ。イブの日が全て初めてだったわけではなかったのか。
 じゃぁ、有る程度の覚悟は出来ていたのかもしれない。
 別に競争しているわけではないが、先を越されちゃったなと思った。

 二人は暫くそんな話をしてから、帰宅の途についたのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み