第91話
文字数 3,934文字
「ところで、勉強の方はどうなの?進んでる?」
「はい。それなりに。自分では集中できてると思います」
「土曜日は図書館で?」
「はい。図書館はいいですね。家より集中できるかも」
「そうか。まぁ、あのお母さんの何時来るかわからないドッキリの心配がないもんな」
「そうなんです。あとは、図書館の何とも言えない、あの静謐な感じ。たまりません」
「ちゃんと、暗くなる前に帰ってるんだろうな」
「勿論です。でもこれからはどんどん日が暮れるのが早くなるから、長くいられないですよね」
蒔田は、悩ましげな顔をして言った。
「俺、凄く心配なんだ。暗い夜道を歩かせたくない。今はまだ、学校も真っすぐ帰宅すれば暗くなる事は無いからいいが、大学へ入った時の事を考えると、今から心配になっちゃうんだよ」
そんな蒔田に、理子は思わず笑ってしまった。
「先生、ちょっと心配性過ぎませんか?」
「君はちょっと無防備過ぎる。だから今から心配なんだ。なんだか俺、君のお母さんの気持ちがわかるような気がしてきたよ。門限とか厳しいのも、親とすれば当たり前だよな」
「親の心配も、先生の心配もわかりますけど、そんな事を言っていたら生きていけないですよ」
「理子、そんな顔をしないでくれよ。俺はただ、心配なだけなんだ」
「こういう時、男っていいなって思いますね。行動の制限が少ないんだもの。女性の方が危険な目に遭う確率は高いから仕方ないですけど、そもそも、そう言う点からして、女ってつまらないって思うし。肉体的にも社会的にも弱いのが気に入らないです」
理子は喋っているうちに興奮してきて、口調が激しくなった。
「俺、怒られてるんだろうか.....」
蒔田の言葉に、理子はハッとした。
「ごめんなさい。全然、怒って無いですから」
「君は、女に生れてきたくなかった?」
理子を見つめる蒔田の目に、ドキリとした。
寂しさと恋しさの両方をない交ぜにしたような、何とも言えない感情を湛えていた。
「女が弱い立場であることを気に入らないのは確かです。正直言って、あの家庭で育って、男だったら良かったのにと思った事は何度もあります。でも先生と出会ってからは違います。女で良かったです。だって、先生はゲイじゃないし」
その言葉に、蒔田は笑った。
「ごめん。なんか俺、情けないな。君が珍しく憤って興奮してるものだから、つい。でも、君の憤りも尤もだ。尤もなんだが、現実はまだまだ女性には厳しい。だから君も余計に憤るんだろうが、俺が望むのは、まずは自分の安全を第一に考えて欲しいと言う事だ。君に何かあったら、俺は自分を保てる自信が無い。君は、君のものだが、俺のものでもあるんだ。わかるだろう?俺の言いたい事.....」
理子は頬を染めて、コクリと頷いた。
「やっぱり新居は絶対に駅の近くだな。それとセキュリティがしっかりしている所。これだけは譲れない」
「先生。その事はもう少し先の事なんだから、今は早く治す事に専念して下さい。でないと、寂しくて仕方ありません」
「何故?確かに学校では毎日顔を見れるけど、お預けのような状況じゃないか。毎週うちへ来いと言っても、君は来てくれないし。俺にとっては、今の方がずっと満ち足りてるけどな」
蒔田の言い分もわかる。
毎週こうして二人で親密な時間を過ごせるのは、理子にとっても凄く嬉しくて幸せだ。
蒔田の体が不自由な分、肉体の交わりに溺れる事も無い。穏やかだが、熱い時間が流れてゆく。
それがとても心地良い。
「でも、その足じゃ、退院してもすぐに学校へは来れそうもないじゃないですか。このままずっと、私は毎週日曜日に先生の許に通わないといけないの?勿論、通うのが嫌なわけじゃないですよ。通えるものなら通いたいですけど.....」
「わかってる。俺達にとってのXデーが、刻々と迫ってるんだ。いつまでも君に心配かけられないし、早く良くなって、全力でサポートしたい。ただ、退院するまでの、この日曜日のひとときは、俺にとっては至福の時なんだ。君が来てくれなかったら、寂しくてたまらなかったと思う。
だから、感謝してるよ」
「なら、頑張って早く良くなって下さいね。やっぱり元気な姿が一番好きですから」
蒔田との親密な時は、理子にとっては甘い蜜であり、誘惑でもあった。
できることなら、ずっとそこにいたい。満喫していたい。
だが現実はそれが許されない。
だからその反動で辛くなる。
来春になったら、本当にこの日々から解放されるのだろうか。
不安でたまらない。
普通の大学ではないのだ。模試の結果は上々ではあるが、それでも不安は募るばかりだ。
「先生。ちょっと、見てもらいたい所があるんですけど.....」
理子はそう言いながら、鞄から勉強道具を出した。
普段、蒔田から直接受験勉強を教わる事は無いので、いい機会だった。
本当なら、それこそ毎週蒔田の許へ通って直接指導してもらいたいところなのだが、どうしても二人きりになると怪しい雰囲気になって流されてしまいかねない。
改めて教わってみると、蒔田の教え方は上手かった。とても要領を得ていてわかりやすい。
日本史以外は教わった事が無いわけだが、他の教科を教わっていると、蒔田の頭の良さをつくづく実感する。
以前『俺が教えてやる』と力強く言われたが、それも頷ける。
元東大受験生だけに、押さえるべきポイントを丁寧に指導された。
これまで頑なに蒔田から教わる事を拒否してきたが、ここへ来てそれは失敗だったんじゃないかとの思いが生まれて来た。
勉強がひと段落した時に蒔田が言った。
「なぁ、理子。良かったら俺が退院してからも、毎週ウチヘ来ないか?」
理子はその言葉に驚いて、蒔田の顔を見つめた。
「別に、君の今の勉強状況が心配だから言ってるわけじゃない。だけど、日に日に迫ってくる事に、不安が増してるんじゃないか?一人でやるより、俺が見てやった方が少しは自信がつくんじゃないかと思うんだが、どうだろう」
理子は蒔田の問いかけに即答できずにいた。喜ばしい提案ではあるが、本当にいいのだろうか。
「心配しなくても、変な事はしないから。俺も勉強を見る事に集中するよ。だから最後の山を二人で乗り越えよう」
「そうまで言われたら、行くしかないのかな?おやつ持参で」
理子はあえて軽い調子で了承した。
「おおっ!ラッキー。楽しみが増えた」
蒔田はそう言って嬉しそうに笑ったが、理子は嬉しい反面、一抹の不安が湧く。そんな理子の心を敏感に感じ取ったのか、蒔田が言った。
「大丈夫だよ。もし駄目そうなら、止めればいいんだから」
その言葉に理子は頷いた。
その通りだ。やる前に不安に思っても仕方が無い。一緒に勉強する事がマイナスのようなら、
その時は止めれば済む事だ。
「昼食ですよ~」
ノックと共に佐野が昼食を持って入って来た。
「あっ、先輩。すみません」
理子は慌てて立ちあがると、トレイを佐野から受け取った。
「蒔田さん、もしかして食べさせて貰うんですか?」
佐野がからかうような笑顔で蒔田を見ている。
その言葉に蒔田は照れたように横を向いた。
(あら、照れてる)
古川も言っていたが、普段恥じらう事なんて滅多に無い人だから珍しい。
先週だって、平気で友人の前で食べさせて貰って嬉しそうな顔をしていたのに。
「蒔田さん、最近は左手を使って一人で食べてるのよ」
そうだったのか。それを知っている看護師に言われたので、恥ずかしくなったのだろう。理子はクスッと笑った。
「理子ちゃんはお昼ご飯、どうするの?」
「先生に食べさせてから、一人で上の食堂へ食べに行きます」
理子は蒔田の方をチラッと見やって、『食べさせて』の言葉を気持ち強調して言った。
「先生?.....ああ、そう言えば蒔田さんって学校の先生でしたね。理子ちゃん、もし良かったら、一緒にご飯食べない?」
「えっ?いいんですか?」
「うん。ナースセンターにいるから、終わったら声かけてくれる?」
「わかりました」
佐野が病室を去った後、理子は笑いながら椅子に座った。
蒔田はまだ恥ずかしそうな顔をしている。
「センセー、最近は一人で食べてるんだ~」
理子はからかうような調子で言った。
「だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいだろう」
照れ隠しなのか、憮然とした顔だ。
「それはそうですよね。先生の気持ち、よくわかります。じゃぁ、どうぞ。召し上がって」
蒔田はそんな理子の顔を暫く見つめてから言った。
「食べさせてくれないの?」
「あら。だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいでしょう?」
「君の前では、恥ずかしくなんか無いよ。君に食べさせて貰いたいんだ。だから、お願い。食べさせて」
理子はからかってもう少し楽しむつもりだったのだが、蒔田に真面目な顔をしてそう言われたので、逆に赤くなってしまった。
「左手で食べるんだから、本当は大変なんだ。でも、いつまでも家族や看護師さんにやって貰うのは恥ずかしいから、我慢して頑張って左で食べてる。だが、君の前でまで、そこまで我慢する必要は無いだろう?日曜日の昼食だけなんだし。弱みを見せてもいいって、この間君は言ったよな。あの言葉を聞いて、俺は君の前では我慢するのを止めようと思ったんだ。だから、お願いします」
蒔田の目は、甘えさせてくれと訴えていた。
甘く切なげで、胸がキュンとする。まるで愛し子のようだ。こんな目で見つめられて頼まれたら、嫌とは言えない。
「わかりました。先生、赤ちゃんみたいですね」
「いいじゃないか。将来の予行演習になるんじゃないか」
その言葉に赤くなる。
先生の赤ちゃん.....。
結婚すれば、いつか授かるんだ。だが、まだまだ遠い先の事だろう。
「はい。それなりに。自分では集中できてると思います」
「土曜日は図書館で?」
「はい。図書館はいいですね。家より集中できるかも」
「そうか。まぁ、あのお母さんの何時来るかわからないドッキリの心配がないもんな」
「そうなんです。あとは、図書館の何とも言えない、あの静謐な感じ。たまりません」
「ちゃんと、暗くなる前に帰ってるんだろうな」
「勿論です。でもこれからはどんどん日が暮れるのが早くなるから、長くいられないですよね」
蒔田は、悩ましげな顔をして言った。
「俺、凄く心配なんだ。暗い夜道を歩かせたくない。今はまだ、学校も真っすぐ帰宅すれば暗くなる事は無いからいいが、大学へ入った時の事を考えると、今から心配になっちゃうんだよ」
そんな蒔田に、理子は思わず笑ってしまった。
「先生、ちょっと心配性過ぎませんか?」
「君はちょっと無防備過ぎる。だから今から心配なんだ。なんだか俺、君のお母さんの気持ちがわかるような気がしてきたよ。門限とか厳しいのも、親とすれば当たり前だよな」
「親の心配も、先生の心配もわかりますけど、そんな事を言っていたら生きていけないですよ」
「理子、そんな顔をしないでくれよ。俺はただ、心配なだけなんだ」
「こういう時、男っていいなって思いますね。行動の制限が少ないんだもの。女性の方が危険な目に遭う確率は高いから仕方ないですけど、そもそも、そう言う点からして、女ってつまらないって思うし。肉体的にも社会的にも弱いのが気に入らないです」
理子は喋っているうちに興奮してきて、口調が激しくなった。
「俺、怒られてるんだろうか.....」
蒔田の言葉に、理子はハッとした。
「ごめんなさい。全然、怒って無いですから」
「君は、女に生れてきたくなかった?」
理子を見つめる蒔田の目に、ドキリとした。
寂しさと恋しさの両方をない交ぜにしたような、何とも言えない感情を湛えていた。
「女が弱い立場であることを気に入らないのは確かです。正直言って、あの家庭で育って、男だったら良かったのにと思った事は何度もあります。でも先生と出会ってからは違います。女で良かったです。だって、先生はゲイじゃないし」
その言葉に、蒔田は笑った。
「ごめん。なんか俺、情けないな。君が珍しく憤って興奮してるものだから、つい。でも、君の憤りも尤もだ。尤もなんだが、現実はまだまだ女性には厳しい。だから君も余計に憤るんだろうが、俺が望むのは、まずは自分の安全を第一に考えて欲しいと言う事だ。君に何かあったら、俺は自分を保てる自信が無い。君は、君のものだが、俺のものでもあるんだ。わかるだろう?俺の言いたい事.....」
理子は頬を染めて、コクリと頷いた。
「やっぱり新居は絶対に駅の近くだな。それとセキュリティがしっかりしている所。これだけは譲れない」
「先生。その事はもう少し先の事なんだから、今は早く治す事に専念して下さい。でないと、寂しくて仕方ありません」
「何故?確かに学校では毎日顔を見れるけど、お預けのような状況じゃないか。毎週うちへ来いと言っても、君は来てくれないし。俺にとっては、今の方がずっと満ち足りてるけどな」
蒔田の言い分もわかる。
毎週こうして二人で親密な時間を過ごせるのは、理子にとっても凄く嬉しくて幸せだ。
蒔田の体が不自由な分、肉体の交わりに溺れる事も無い。穏やかだが、熱い時間が流れてゆく。
それがとても心地良い。
「でも、その足じゃ、退院してもすぐに学校へは来れそうもないじゃないですか。このままずっと、私は毎週日曜日に先生の許に通わないといけないの?勿論、通うのが嫌なわけじゃないですよ。通えるものなら通いたいですけど.....」
「わかってる。俺達にとってのXデーが、刻々と迫ってるんだ。いつまでも君に心配かけられないし、早く良くなって、全力でサポートしたい。ただ、退院するまでの、この日曜日のひとときは、俺にとっては至福の時なんだ。君が来てくれなかったら、寂しくてたまらなかったと思う。
だから、感謝してるよ」
「なら、頑張って早く良くなって下さいね。やっぱり元気な姿が一番好きですから」
蒔田との親密な時は、理子にとっては甘い蜜であり、誘惑でもあった。
できることなら、ずっとそこにいたい。満喫していたい。
だが現実はそれが許されない。
だからその反動で辛くなる。
来春になったら、本当にこの日々から解放されるのだろうか。
不安でたまらない。
普通の大学ではないのだ。模試の結果は上々ではあるが、それでも不安は募るばかりだ。
「先生。ちょっと、見てもらいたい所があるんですけど.....」
理子はそう言いながら、鞄から勉強道具を出した。
普段、蒔田から直接受験勉強を教わる事は無いので、いい機会だった。
本当なら、それこそ毎週蒔田の許へ通って直接指導してもらいたいところなのだが、どうしても二人きりになると怪しい雰囲気になって流されてしまいかねない。
改めて教わってみると、蒔田の教え方は上手かった。とても要領を得ていてわかりやすい。
日本史以外は教わった事が無いわけだが、他の教科を教わっていると、蒔田の頭の良さをつくづく実感する。
以前『俺が教えてやる』と力強く言われたが、それも頷ける。
元東大受験生だけに、押さえるべきポイントを丁寧に指導された。
これまで頑なに蒔田から教わる事を拒否してきたが、ここへ来てそれは失敗だったんじゃないかとの思いが生まれて来た。
勉強がひと段落した時に蒔田が言った。
「なぁ、理子。良かったら俺が退院してからも、毎週ウチヘ来ないか?」
理子はその言葉に驚いて、蒔田の顔を見つめた。
「別に、君の今の勉強状況が心配だから言ってるわけじゃない。だけど、日に日に迫ってくる事に、不安が増してるんじゃないか?一人でやるより、俺が見てやった方が少しは自信がつくんじゃないかと思うんだが、どうだろう」
理子は蒔田の問いかけに即答できずにいた。喜ばしい提案ではあるが、本当にいいのだろうか。
「心配しなくても、変な事はしないから。俺も勉強を見る事に集中するよ。だから最後の山を二人で乗り越えよう」
「そうまで言われたら、行くしかないのかな?おやつ持参で」
理子はあえて軽い調子で了承した。
「おおっ!ラッキー。楽しみが増えた」
蒔田はそう言って嬉しそうに笑ったが、理子は嬉しい反面、一抹の不安が湧く。そんな理子の心を敏感に感じ取ったのか、蒔田が言った。
「大丈夫だよ。もし駄目そうなら、止めればいいんだから」
その言葉に理子は頷いた。
その通りだ。やる前に不安に思っても仕方が無い。一緒に勉強する事がマイナスのようなら、
その時は止めれば済む事だ。
「昼食ですよ~」
ノックと共に佐野が昼食を持って入って来た。
「あっ、先輩。すみません」
理子は慌てて立ちあがると、トレイを佐野から受け取った。
「蒔田さん、もしかして食べさせて貰うんですか?」
佐野がからかうような笑顔で蒔田を見ている。
その言葉に蒔田は照れたように横を向いた。
(あら、照れてる)
古川も言っていたが、普段恥じらう事なんて滅多に無い人だから珍しい。
先週だって、平気で友人の前で食べさせて貰って嬉しそうな顔をしていたのに。
「蒔田さん、最近は左手を使って一人で食べてるのよ」
そうだったのか。それを知っている看護師に言われたので、恥ずかしくなったのだろう。理子はクスッと笑った。
「理子ちゃんはお昼ご飯、どうするの?」
「先生に食べさせてから、一人で上の食堂へ食べに行きます」
理子は蒔田の方をチラッと見やって、『食べさせて』の言葉を気持ち強調して言った。
「先生?.....ああ、そう言えば蒔田さんって学校の先生でしたね。理子ちゃん、もし良かったら、一緒にご飯食べない?」
「えっ?いいんですか?」
「うん。ナースセンターにいるから、終わったら声かけてくれる?」
「わかりました」
佐野が病室を去った後、理子は笑いながら椅子に座った。
蒔田はまだ恥ずかしそうな顔をしている。
「センセー、最近は一人で食べてるんだ~」
理子はからかうような調子で言った。
「だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいだろう」
照れ隠しなのか、憮然とした顔だ。
「それはそうですよね。先生の気持ち、よくわかります。じゃぁ、どうぞ。召し上がって」
蒔田はそんな理子の顔を暫く見つめてから言った。
「食べさせてくれないの?」
「あら。だって、子供じゃあるまいし、いつまでも恥ずかしいでしょう?」
「君の前では、恥ずかしくなんか無いよ。君に食べさせて貰いたいんだ。だから、お願い。食べさせて」
理子はからかってもう少し楽しむつもりだったのだが、蒔田に真面目な顔をしてそう言われたので、逆に赤くなってしまった。
「左手で食べるんだから、本当は大変なんだ。でも、いつまでも家族や看護師さんにやって貰うのは恥ずかしいから、我慢して頑張って左で食べてる。だが、君の前でまで、そこまで我慢する必要は無いだろう?日曜日の昼食だけなんだし。弱みを見せてもいいって、この間君は言ったよな。あの言葉を聞いて、俺は君の前では我慢するのを止めようと思ったんだ。だから、お願いします」
蒔田の目は、甘えさせてくれと訴えていた。
甘く切なげで、胸がキュンとする。まるで愛し子のようだ。こんな目で見つめられて頼まれたら、嫌とは言えない。
「わかりました。先生、赤ちゃんみたいですね」
「いいじゃないか。将来の予行演習になるんじゃないか」
その言葉に赤くなる。
先生の赤ちゃん.....。
結婚すれば、いつか授かるんだ。だが、まだまだ遠い先の事だろう。