第2話
文字数 1,992文字
その日から校内の女生徒の殆どが浮き足だった。
毎日通学するのが楽しそうで、蒔田雅臣はいつも女生徒達に取り囲まれていた。
あれだけのルックスだ。おまけに若い。大学を卒業したばかりだから、自分らとは年齢が近い。女生徒が騒ぐのも当然だろう。
そんな蒔田を、理子は遠くから見ているだけだ。
担任だから毎日、朝と帰りのホームルームで顔を見るし、日本史の授業でも見れる。
その時間だけは、何となくホンワカしたような花が咲く時間であったが、それだけで十分だった。
相手は所詮教師だし、自分には彼氏がいる。
美しい姿は観賞用としては申し分無い。
ただ、日本史の授業で指されて発表する際、どうしても目を合わせるので、その時は胸がドキドキするのだった。
何と言っても、目が合うだけでもドキドキするような見た目だ。それなりに格好良い男子はいるにはいるが、芸能人ばりの男子はいないし、これまでもお目にかかった事がない。
テレビや雑誌から抜け出てきたような男と目が合えば、胸が高鳴るのもやむを得まい。
理子は教科の中では特に日本史が大好きで得意だった。親の影響で、小さい時からテレビで歴史関係のドラマや番組を否が応でも見てきた事で自然と好きになった。
中学に入ってから読書家になり、ジャンルを問わず興味を持った本を手当たり次第に読んできたが、そんな中でも歴史小説は特に好きだった。
勿論、小説だけでなく研究本も読む。特に好きなのは日本史だが、世界史も好きだ。
クラス最初のホームルームで各人の自己紹介をさせられた時、理子は好きな科目は現代国語だと言った。
日本史と言ったら周囲の女子から敵視されそうな気がしたからだ。現国が好きである事は嘘では無い。
蒔田の日本史の授業は面白かった。
年表に沿った、通り一遍の教え方ではなく、あらゆる角度から検証していくようなやり方だった。そして必ず前後の出来事や背景との関連性を示唆する。
理子にとってはとても興味の湧く内容だったが、他の女子は蒔田の声にうっとりと聞き入る者
ばかりだった。
蒔田は授業中に何度も生徒に問題提起をして問いかけてくる。
それに反応するのは、矢張り歴史好きな生徒が多かった。
2年6組には歴史好きが多いと理子は感じた。総じて男子ばかりで、女子は自分くらいしか
いなかったが、歴史好きが多いことは歓迎だ。
この、歴史好きな連中と、理子は自然に親しくなった。
そんな一人が、自分の前の席に座っている高田耕介だった。
中肉中背で、特徴的な風貌をしている。目がクリっとしていて大きいが、まるで驚いて見開いた時のような大きな目で、鼻梁が少し太く、骨太で奇怪な印象を受ける。
あけすけで気さくで少し変わり者だが、なかなか面白い人物だった。
ある日、その耕介の方から話しかけてきた。
「吉住さんは、いつも本を読んでるよなー」
理子は隣のゆきや、その前の席の美輝とよく話すが、どちらかと言えば、本を読んでいる方が多い。
読み出すと止まらないので、休み時間の度に続きを読む。
ゆきや美輝も去年からそんな理子を知っているので、特に気にしない。理子は本を読んでいても話しに参加できたりするからだ。
「な、何の本を読んでるんだ?」
問いかけてきたので、本の表紙を見せた。
「おーっ!『真田太平記』かー」
耕介が嬉しそうな声を上げたので、理子は興味を覚えた。
「知ってるの?」
70年代半ばから80年代にかけて書かれた、池波正太郎の長編小説で、かなり古い作品だ。
「おう!勿論だぜ。これって、昔NHKでドラマになったんだぜ」
かなり自慢げな口調だ。
「知ってるよー。私見たよ、DVDで」
理子も自慢げな顔をして見せた。
「ええーっ?俺もー」
そこからすっかり話に花が咲いた。
以来、耕介とはよく喋る。
どういう訳だか音楽の趣味も合って、70年代~80年代ハードロックの話題で矢張り花が咲くのだった。
耕介の周りに集まってきた、他の歴史好きな男子とも親しくなった。理子は昔から女子よりも男子の友人の方が多かった。
興味の対象が男子の好きそうなものばかりと言うのもあるかもしれない。
歴史は勿論の事、社会科全般、科学、ロック、メカ、乗り物、プラモデル、そんなものが好きなのである。性格が少し男っぽいと自分で思う時もある。
一方で、女性らしいものも好きで、ピアノを弾き、歌を歌い、ハーブやアロマテラピーが好きで、手芸が得意で料理も得意だった。
苦手な話題は、美容やコスメ、アイドルや芸能人、ドラマの話、それに人の噂話だった。
だからなのか、年齢を経るに従って女子の話題についていけなくなっていった。
話が合わない。感覚が合わないので、一緒にいても楽しくない。
好きな歌手と言っても、J-POPの一部と洋楽しか聴かない理子は女子とは合わない。
男に生まれてくれば良かったなぁ、と思う事度々だった。
毎日通学するのが楽しそうで、蒔田雅臣はいつも女生徒達に取り囲まれていた。
あれだけのルックスだ。おまけに若い。大学を卒業したばかりだから、自分らとは年齢が近い。女生徒が騒ぐのも当然だろう。
そんな蒔田を、理子は遠くから見ているだけだ。
担任だから毎日、朝と帰りのホームルームで顔を見るし、日本史の授業でも見れる。
その時間だけは、何となくホンワカしたような花が咲く時間であったが、それだけで十分だった。
相手は所詮教師だし、自分には彼氏がいる。
美しい姿は観賞用としては申し分無い。
ただ、日本史の授業で指されて発表する際、どうしても目を合わせるので、その時は胸がドキドキするのだった。
何と言っても、目が合うだけでもドキドキするような見た目だ。それなりに格好良い男子はいるにはいるが、芸能人ばりの男子はいないし、これまでもお目にかかった事がない。
テレビや雑誌から抜け出てきたような男と目が合えば、胸が高鳴るのもやむを得まい。
理子は教科の中では特に日本史が大好きで得意だった。親の影響で、小さい時からテレビで歴史関係のドラマや番組を否が応でも見てきた事で自然と好きになった。
中学に入ってから読書家になり、ジャンルを問わず興味を持った本を手当たり次第に読んできたが、そんな中でも歴史小説は特に好きだった。
勿論、小説だけでなく研究本も読む。特に好きなのは日本史だが、世界史も好きだ。
クラス最初のホームルームで各人の自己紹介をさせられた時、理子は好きな科目は現代国語だと言った。
日本史と言ったら周囲の女子から敵視されそうな気がしたからだ。現国が好きである事は嘘では無い。
蒔田の日本史の授業は面白かった。
年表に沿った、通り一遍の教え方ではなく、あらゆる角度から検証していくようなやり方だった。そして必ず前後の出来事や背景との関連性を示唆する。
理子にとってはとても興味の湧く内容だったが、他の女子は蒔田の声にうっとりと聞き入る者
ばかりだった。
蒔田は授業中に何度も生徒に問題提起をして問いかけてくる。
それに反応するのは、矢張り歴史好きな生徒が多かった。
2年6組には歴史好きが多いと理子は感じた。総じて男子ばかりで、女子は自分くらいしか
いなかったが、歴史好きが多いことは歓迎だ。
この、歴史好きな連中と、理子は自然に親しくなった。
そんな一人が、自分の前の席に座っている高田耕介だった。
中肉中背で、特徴的な風貌をしている。目がクリっとしていて大きいが、まるで驚いて見開いた時のような大きな目で、鼻梁が少し太く、骨太で奇怪な印象を受ける。
あけすけで気さくで少し変わり者だが、なかなか面白い人物だった。
ある日、その耕介の方から話しかけてきた。
「吉住さんは、いつも本を読んでるよなー」
理子は隣のゆきや、その前の席の美輝とよく話すが、どちらかと言えば、本を読んでいる方が多い。
読み出すと止まらないので、休み時間の度に続きを読む。
ゆきや美輝も去年からそんな理子を知っているので、特に気にしない。理子は本を読んでいても話しに参加できたりするからだ。
「な、何の本を読んでるんだ?」
問いかけてきたので、本の表紙を見せた。
「おーっ!『真田太平記』かー」
耕介が嬉しそうな声を上げたので、理子は興味を覚えた。
「知ってるの?」
70年代半ばから80年代にかけて書かれた、池波正太郎の長編小説で、かなり古い作品だ。
「おう!勿論だぜ。これって、昔NHKでドラマになったんだぜ」
かなり自慢げな口調だ。
「知ってるよー。私見たよ、DVDで」
理子も自慢げな顔をして見せた。
「ええーっ?俺もー」
そこからすっかり話に花が咲いた。
以来、耕介とはよく喋る。
どういう訳だか音楽の趣味も合って、70年代~80年代ハードロックの話題で矢張り花が咲くのだった。
耕介の周りに集まってきた、他の歴史好きな男子とも親しくなった。理子は昔から女子よりも男子の友人の方が多かった。
興味の対象が男子の好きそうなものばかりと言うのもあるかもしれない。
歴史は勿論の事、社会科全般、科学、ロック、メカ、乗り物、プラモデル、そんなものが好きなのである。性格が少し男っぽいと自分で思う時もある。
一方で、女性らしいものも好きで、ピアノを弾き、歌を歌い、ハーブやアロマテラピーが好きで、手芸が得意で料理も得意だった。
苦手な話題は、美容やコスメ、アイドルや芸能人、ドラマの話、それに人の噂話だった。
だからなのか、年齢を経るに従って女子の話題についていけなくなっていった。
話が合わない。感覚が合わないので、一緒にいても楽しくない。
好きな歌手と言っても、J-POPの一部と洋楽しか聴かない理子は女子とは合わない。
男に生まれてくれば良かったなぁ、と思う事度々だった。