第72話 暗号解読

文字数 2,205文字

 翌日、式たち三人は駅に集合し、北條の地元へ電車で向かった。
 ちなみに交通費は北條は自腹だが、式と佐倉は部活動の費用として扱われる。

「あんたそれずるくない? まだ顧問じゃないのに」
「いいのよ、細かいことは。百年前の宝も見つかって、私の交通費も抑えられて一石二鳥でしょ」
「式くん、こんなケチケチした器の狭い女に引っかかっちゃダメよ」
「はは……」

 苦笑いをする式。
 電車に乗ること約二時間で、北條の地元についた。

「さて、迎えが来てるはずなんだけど」

 きょろきょろと辺りを見渡すと、式たちを迎えてきた車が近づいてくる。

「ここにいたのか」
「来たわね。こいつは私の弟の康太。目的地まで運転してくれるのよ」
「こんにちは」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」

 式たちは互いに挨拶を交わした。

「それで、昨日頼んでおいたものは用意した?」
「ああ。これだよな。家の倉庫に置いてあったぞ」

 北條は後ろに積まれている荷物を確認する。

「そうそう、それよ」
「これ本当に役に立つのか?」
「それは実際に現場に行ってみないとわからないかな」

 何はともあれ、まずは林檎のなる木がある林に向かった。

 駅から数十分車で走らせると、目的地である林檎のなる木がある林に着いた。
 周りを見渡してみると、確かに所々の木に林檎がなっている。

「ちなみにここって、誰かの私有地ではないんですか?」
「さあ」
「さあって……」

 ズボラな北條に呆れる佐倉。
 仮にここが私有地だったら、何の許可もなく入り込んでいる式たちはいろいろと問題な立場になってしまう。

「一応確認したけど、今は自由に入っていいみたいだよ」

 そんな姉の性格を知ってか、予め調べておいた康太が説明する。

「よし、じゃあ問題なしね」
「問題ありだったら大変なところだったわよ」

 式は暗号が書かれた紙を取り出した。

「北條さん、ここが林檎の木がある林というのはわかりましたが、次の文に書かれている『白馬が通る道筋』に覚えはありませんか?」
「うーん、白馬というか、馬が通れそうな道はあるけど」

 北條が指さした先には、確かに馬一頭なら通れそうな幅の道があった。

「まあ、馬は林檎を食べるし、白馬じゃなくてもいいんじゃないかしら」
「とりあえず、先に進んでみましょうか」

 しばらく道なりに歩いていると、ぽつんと一つの犬の像が建っていた。

「何これ?」
「多分、この3文目にに書かれている『陶犬瓦鶏(とうけんがけい)の犬』でしょう」
「というか、それどういう意味なの?」
「見た目は立派だけど、実際には役に立たないものという意味です。たとえば犬は番をするという役割があるけど、このように像の犬だとその役目を果たすことができないから、そういう意味がつけられたんです」
「へえー、流石に詳しいわね」
「それより、ここに何があるのかしら」

 式たちは辺りを見渡した。

「この暗号によれば、『陶犬瓦鶏の犬がいる』としか書かれていませんね」

 式は暗号文を繰り返し見続ける。

(ん? この暗号文もしかして…)

 暗号文を眺めて、式はあることに気づいた。

「ねえ、とりあえず次の文章を解読してみない?」

 北條が切り出す。

「『瑠璃水晶のようにまた、宝の行方を示したまえ』って書いてあるけど、この瑠璃水晶が何かのメッセージなんじゃないかな」

 北條は鞄から瑠璃水晶を取り出した。

「一応昨日こいつに頼んで用意してもらったのよ。家の倉庫にあったって言ってたから、昔から家の宝として扱われていたんじゃないかな」

 宝として扱われていた割には、倉庫に入れられていたのは少し不自然でもあるが。

「あ、これじゃないかしら」

 辺りを探していた佐倉があるものを見つけた。
 それは犬の像の下にある丸い窪みだった。

「ここにその瑠璃水晶をはめ込むんじゃない?」
「試しにやってみましょう」

 式に促され、北條は水晶を窪みにはめた。
 すると犬の像から四つの四角い窪みとパネルが出てきた。
 パネルにはひらがなが五十一字が書かれていた。
 どうやらひらがな一つ一つを取り外すことができそうだ。

「多分、このひらがな五十一字の内、四つを選択してここにはめ込むみたいですね」
「でも、何の文字をはめ込むの?」
「それはこの文に書かれているんじゃないかしら」

 全員の視線が暗号文に向かう。

「おそらく、この暗号文を解読するとその四文字の暗号が出てくるんじゃないの?」
「そうか!」
「式くん、あなたはどの四文字をはめ込めばいいのかわかった?」

 佐倉が尋ねる。

「……一応頭に浮かんでいる答えはあります」
「本当!? それって一体……」
「この暗号文を徹頭徹尾読めばわかります。それにこのひらがな五十一字には濁点と半濁点が使われていない。ということは、少なくともその二つは使わない答えになっているということですよ」
「ちょっと、それだけじゃわからないわよ。もうちょっとヒント頂戴よ」
「そんなに難しい答えじゃないんです。誰も解けないようなら意味がないので。それに、この暗号文は文章が少しおかしい。そこに気づければ、自ずとわかってくると思います」

 式のヒントを元に、佐倉と北條は考え始めた。
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