第109話 事件発生

文字数 1,731文字

 翌日、式は頭に痛みを覚えながら目覚めた。

「うーん、なんか頭が重いな……」

 式は寝起きが悪い方ではないため、この目覚めには少し違和感を覚えた。
 もしかしたら体調が悪いのかもしれないが、式の頭には昨日の異様な眠気が思い浮かんでいた。

「昨日からやたらに眠かったからな」

 とりあえず目を覚まそうとして、部屋の中に日差しを入れるためにカーテンを開けた。

「おおー、いい天気だな」

 眩しい日差しが部屋の中に入り込む。
 そしてこの窓から見える紅葉もまた素晴らしいものだ。

「朝見る紅葉もいいものだな」

 しばらく紅葉を見ていて、式は気づいた。
 一つの紅葉の木の幹に、人がもたれかかっているのを。

「ん、あれは……」

 何やら不審な気配を察知した式は、その木のもとに向かった。
 そして式は、その場で凄惨な光景を目にする。
 木にもたれかかっていたのは、腹部を切り裂かれた山中だった。

「や、山中さん……」

 この館に招かれた客の中でも最年少の彼女が、無残な死体となって発見されたのだ。
 式はしばらく呆然としていたが、彼女の腹部から何かが零れ落ちたのを見て我に返った。

「これは……」

 その零れ落ちたものとは紅葉の葉だった。
 元々紅葉していたものが、山中の血液でさらに紅く染まっていた。
 式はその紅く染まった紅葉を見て、不謹慎にも美しいと思ってしまった。
 そしてその時。

「きゃああああああああ!!!」

 館から鋭い悲鳴が聞こえた。

「な、何だ!?」

 式はその悲鳴の元に駆け足で向かった。
 どうやら悲鳴は館の広間から発せられたようだ。
 そこには今朝起きたばかりの水島がいた。
 彼女は青ざめた様子で、何かを見ていた。
 その視線の先には、首を切断された女性の遺体があった。

「うっ……」

 これまでに数々の死体を見てきた式だがやはりこういうものは何度見ても慣れない。

「あ、これって……」

 恐らく死体を初めて見たであろう彼女は、何が起こっているのか頭が理解できていないようだ。
 水島の悲鳴を聞いて、次々に人が居間に集まってきた。

「一体何があったんだ?」

 真っ先に来たのは池上だった。

「池上さん、これを見てください……」

 式が遺体に目線を向けると、池上は血の気が引いた表情を浮かべた。

「な、なんだこれは……」

 信じられないものを見たような口調で呟く。

「池上さん、警察官なら検死の知識もあるでしょう。まずはこの人が誰なのか、死亡推定時刻はいつなのかを確認してもらってもいいですか?」
「あ、ああ。わかった」

 池上はまず死亡者が誰なのかを確認するために、倒れている首を持ち上げた。
 その人物の正体は。

「……阿弥さん」

 この館の持ち主でパーティの主催である更科阿弥だった。

「あ、阿弥様……」

 タイミングがいいのか悪いのか、丁度来た愛が阿弥の死体を見て膝から崩れ落ちた。

「愛ちゃん、しっかりするんだ」

 池上は愛に寄り添うように励ます。

「式くん、僕が検死をしている間に、警察に連絡を頼む」
「わかりました」

 式が携帯で110番をしようとすると、携帯が圏外になっていることに気づいた。

「あれ、圏外になってる……」
「なに、そんなばかな」

 池上も携帯を確認してみたが、やはり圏外だった。

「愛ちゃん、この館は電波が通じるのではなかったか」
「た、確かにそのはずですが……」
「もしかしたら、電波受信器が壊されたのかもしれない。確認しに行ってみよう」
「お、お願いします。私も行きたいのですが、足がすくんで動けなくなってしまって……受信機は三階にあります」
「わかった。だが遺体をこのままにしておくわけには……」
「それなら、私が見張っていますよ」

 いつの間にか来ていた榊が言った。

「榊さん」
「ここは私が見ていますから、式くんと池上さんは受信機の方に行ってください」
「わ、私もここに残るよ」

 恐る恐る阿弥の死体を見ていた春崎が言った。

「では僕たちで行ってみよう」
「わかりました」

 式たちは受信機を確認しに行った。
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