第2話 探偵会設立!

文字数 3,513文字

 事の始まりは、一週間前のある日のことだった。
 新学年が始まり、式も高校二年生になった。一年生の時はろくに学校に通うことも少なく、いつもどこかをぶらぶらしていたり、家に引きこもっていたりという生活をしていた式だが、これまでに様々な殺人事件に遭遇し、それを解決してきたという経験から少しはしっかりした人間になろうと思い、二年生からはきちんと学校に通うことにしたのだ。

 学校を休みがちで内申点は大丈夫なのか、という疑問を浮かべる人もいるかもしれない。しかし式の通う明戸高校は、完全学力主義という制度を採用しているため、問題ないのだ。
この制度は、たとえ学校に一日も登校していなかったとしても、定期テストでの成績が良ければ内申点が保証され、留年することもなく進級が可能というものになっている。
 定期テスト自体はネット上で行えるため、中には入学してから一日も学校に登校せずに卒業した人物もいるという噂だ。
 この制度のおかげで、式は定期テストが近くなると学校に通い、テストの範囲分の勉強をしてテストをクリアし、またテストの期間になるまで学校を休む、といった生活を続けていた。
式は学力自体はそこまで高くないものの、記憶力はある方だったため、付け焼き刃の勉強でも定期テストで好成績を収めることができていた。

 だがこんな生活をずっと続けていても、大して取り柄のない式はこのまま卒業したらどうなってしまうのかを考えたときに、ろくに就職もできずにニートになってしまうのではないかという不安を抱いたこともあり、先ほど少し触れた殺人事件の経験もあって毎日学校に通うことを決意したのだ。
 去年の入学式はたまたま病気になっていて出席できなかったのだが、今年の始業式はきちんと出席することができた。
式は外に張り出されているクラス表を確認する。自分がどのクラスに在籍することになったのかを見ておくためだ。

「2-A組か」

 式の名前は2-Aにあった。
 そしてその上には、見覚えのある名前もあった。

「今年も一緒のクラスですね、式くん」

 そう話しかけてきたのは件の名前の主である榊刹那だ。
 彼女は去年も式と同じクラスで、学級委員を務めていた。入学して休みがちの式が友人を作れないでいたときに、何とか友人を作れるようにとあれこれ手を尽くしていたことがあった。
 その中の一つが、ミステリー研究会が開催する合宿に参加することだった。その合宿では式と榊とミステリー研究会の部員たちが参加したのだが、そこで凄惨な殺人事件が起きてしまう。

 式と榊は警察の協力の元無事事件を解決することができた。それ以来、榊は何かと式を気にかけていた。
 彼女のおかげで、あまり友人ができなかった式も少しずつ他人と話せるようになっていた。
 そんな榊とは二年生になってからは関わることも少なくなるのかな、と思っていた式だったが、幸か不幸か今年も同じクラスのようだ。

「そうみたいだね、今年度もよろしく」
「ええ、よろしくお願いします」

 二人は軽く挨拶を交わした。

「ところで式くん、今日の放課後はお時間ありますか?」
「んー、あるけど、なんで?」
「少し話したいことがあるのです」

 榊は何かを含んだような表情をしている。
 その表情をしているときの榊と関わると何かと面倒なことが起きるのは経験から知っていたが、彼女には普段から世話になっているため、無下に断るのも憚られる。

「……まあどうせろくなことじゃないんだろうけど」
「そんなことはありませんよ。式くんのために用意したサプライズです。ぜひ楽しみにしていてください」

 榊はにっこりと返答した。
 そういえば、以前サプライズがあるという言葉を聞いていたような気がする、と式は思い出した。

「それでは教室に行きましょうか」
「そうだね」

 一通り会話した後、二人は教室へと向かった。



 放課後、式は榊に連れられ部室棟にある空き教室の扉の前にいた。
 この明戸高校では、部活動で使われる部室は部室棟と呼ばれる建物に集中している。そこには部活動で使われる備品類や書類、生徒たちの荷物などが置かれている。運動部であれば使用する器具などが置かれていて、それを運動場まで運んでいく、という形になっている。
 文化部の場合は、部室で活動を行うことが多い。しかし一部の部活動、例えば吹奏楽部や合唱部などは音楽室等を使用して活動しているため、部室は運動部と同様で備品類や荷物置き場となっている。

「それで、部室棟に何の用事があるの?」
「式くん、上を見てください」
「上?」

 そう言われてみてみると、そこには『探偵会』と書かれたプレートが下がっていた。

「何これ?」
「なんとですね、……ついに私たちの探偵会が設立されるようになったのです!」

 榊は一人で拍手をしている。
 式は話を理解できておらず、その様子についていけなかった。

「ど、どういうこと?」
「昨年、式くんはいくつもの事件を解決してきました。その功績が称えられてこの度探偵会の設立が許可されたのです」
「称えられるのは嬉しいけど、なんで探偵会なんて設立したの……」

 式はがっくりと項垂れる。

「この一年で、式くんはこの学校の生徒や教員、警察関係者、近隣の人々に結構名前が知られるようになったのです。学校側としてもこれを使わない手はないと考えて、宣伝の意味も兼ねて探偵会の設立を許可してくれたのです」
「その言い分だと、まるで榊さんが探偵会の設立を申し出たように聞こえるけど」
「ええ、間違いではありません」

 やっぱりか、と感想を漏らした。

「何で探偵会を設立しようと思ったの?」
「先の事件で、この学校の評判も少し悪くなってしまいました。一部の入学希望者は別の高校への転入をしたという情報も入っています。このままでは来年、再来年と入学希望者が減ってしまうかもしれません」

 先の事件とは、卒業式間近となった日に起きた殺人事件のことだ。あの事件後は学校側も日々対応に追われていたらしい。今はある程度落ち着いてはいるが、それでも一度ついたイメージは中々拭い去ることは難しいだろう。

「そんな中で、私たち探偵会が次々と事件を解決していけば、悪い評判ばかりではなく良い評判も広がっていくと考えたのです。だから探偵会を設立しました」
「……榊さんの考えはわかったけど、探偵会を作ってもこんなとこに依頼なんてくるの?」
「もちろん、ただ待っているだけでは来ないでしょう。だから様々なところで宣伝は行っています」

 榊は部室にあるパソコンを起動し、ホームページを式に見せた。

「既に探偵会のホームページは作ってあります。しかし今の時代ではホームページを見ることもあまりないとは思いますので、SNSでも宣伝を行っています。何か依頼があれば、ホームページに記載されているメールアドレスかDMに連絡が来ることになっています。もちろんこの学校に直接来ての依頼も受けているので、もしかしたら生徒や先生方からも来るかもしれません」

 どうやら榊なりにあれこれ工夫しているようだ。
 しかし式の言葉はそういった意図は含んでいなかった。

「そういう意味じゃなくて、俺みたいな探偵として起業しているわけでもない、しかも高校生のところに依頼なんか来ないでしょ、ってこと。俺自身悩みがあったとしても、高校生の素人に依頼したいって思わないし」

 式の意見は至極真っ当なものだ。

「確かに、全国的な知名度はまだありません。しかし先ほども言いましたが、少なくともこの町の人たちには式くんの名前は知れ渡っているのです。春休み中にリサーチしたのですが、意外と式くんは人気が高いのですよ」
「そ、そうなんだ……」

 榊の抜かりない行動力に、式は少し驚いていた。
 このようなことは前々からあったことではあるが、それにしてもすごいものだ。

「さて、メールを確認してみましょうか」
「来てるわけないと思うけど」
「あ、一件依頼が入っていますよ」
「嘘!?」

 まさか依頼があるとは思ってなかったので、予想外だった。

「内容は脅迫状の送り主を突き止めて欲しいとのことです」
「脅迫状?」
「詳しい話は直接会って行いたいとのことなので、これから指定の場所まで行ってみましょうか」

 榊は出かける準備を始める。

「今から行くの?」
「もちろんです。さあ行きましょう」

 強引な榊に連れられ、式たちは指定された場所まで向かった。
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