第27話 犯人は誰?

文字数 1,837文字

「奥田さん、お待たせしました」
「で、どうだったの。君はどんなことを言うのかしら」

 奥田は冷淡な目で式を見る。
 だがその表情はどこか不安を感じさせた。

「俺たちなりに今回の事件について調査を行いました」
「そう」
「結論は、……あなたは犯人ではありません」

 その言葉に、式以外の人物は驚愕した。

「やっぱり、陽子はそんなことする子じゃないんだって!」
「で、でも式さん。被害者に刺さっていた包丁には奥田陽子さんの指紋が付着していたんですよ!? 彼女が犯人じゃないなら、なんでこの物的証拠が残ってるんですか」
「そもそも、その包丁についている指紋は不自然なんですよ」

 式は根本を覆すようなことを言う。

「え、どうしてですか!?」
「畠山さんの調査の報告書には、指紋からはとある人物の指紋が検出されたけど、それは被害者のものではなかったという記載がありましたよね」
「はい、その通りです」
「ということは、包丁には被害者の指紋は付着してなかったってことですよね」
「そうですよ」
「そうか、それはおかしいよね」

 式の言葉を聞いて、春崎が意見を述べる。

「だって、河本くんは普段から料理をしているって友人の柿本さんが言っていたよね。ということは日常的に使っている包丁に河本くんの指紋が付着しているのが自然だよね」
「それは、犯人が拭き取ったんじゃないですか?」
「何のために?」
「そ、それは……」
「もし奥田さんが犯人だと仮定しましょう」

 式はホワイトボードに図を描きながら説明する。

「凶器の包丁には彼女の指紋が付着していて、かつ被害者の指紋は付着していなかった。河本さんは普段から料理をしていたという証言があるから、包丁に彼の指紋がついていないのは不自然だ。それに奥田さんは普段から河本さんのアパートに来ていて手料理を振る舞っていた。ということは包丁に奥田さんの指紋がついていても不自然じゃない。なのに包丁には奥田さんの指紋しかついていなかったということは、奥田さんは河本さんを包丁で刺した後、わざわざ指紋を拭き取った後に自分の指紋をつけたことになる。奥田さん、これはどういうことですか?」
「それは……、包丁を洗う時に柄の部分を念入りに洗っていたから、昨日私が料理を作るまでは誰の指紋もついていなかった状態だったのよ。それで私が料理をしているときに、喧嘩になってつい手に持っていた包丁で彼を刺しちゃったの。どう、何か矛盾がある?」
「ありますよ。それだとあなたの証言と矛盾する」

 はっきりと式は断言した。

「どの発言よ」
「あなたは被害者を刺した後、多量の血が流れていたときに被害者が包丁を抜こうとしていたと言っていましたよね。それなら、河本さんが包丁を抜こうとしたときに指紋がつかないのは不自然だ」
「あっ……」

 奥田陽子は口元を抑えた。

「あなたが説明した状況と、現場の状況が矛盾している。これではあなたの発言には信憑性がないということになります。それなら、あなたが犯人であるという自白も受け入れられない」
「で、でもそれなら誰が犯人なんです? 確かに彼女は嘘をついているかもしれないですけど、それでもまだ彼女が犯人の可能性もあるのでは」

 まだ奥田犯人説を追っている薫は反論する。

「もう一つ、奥田さんの発言で気になることがある。それは彼女が河本さんを刺したと言った時の『血が噴水のように出てきた』という発言だ」
「確かに、そんなことを言ってましたね」
「血が噴水のように噴き出たなら、当然河本さんを刺した奥田さんにも返り血がついて当然だ。だが先ほど奥田さんのお母さんから話を聞いたときは、家に帰ってきた奥田さんには返り血はついていなかったと言っていた」
「それは、途中で衣服を捨てたから……」
「どこにですか? あなたが捨てた場所を全力で探しますので、教えてください」
「えっと、それは……」

 奥田陽子が言いよどむ。

「パッと答えられないのはおかしいですね。本当に捨てたのなら、捨てた場所くらいすぐに言えるはず。やはり奥田さんは犯人とは考えられない」
「じゃあ、私以外の誰が犯人だと言うの。それを答えてよ」

 少し苛立ちながら奥田が尋ねる。
 それは榊も春崎も薫も聞きたかったことだ。

「正直言って、真犯人については推測の域を出ない。俺なりの結論を話します」
「……」
「犯人は被害者である河本雄太さんだ」
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