第１１３話　タイムスケジュール

「それは池上さんが知っているんじゃないかな」

　全員の視線が池上に向かう。

「式くん、一体どういうことだ」
「池上さん、確かこの館に来たのは最近この辺りで女性が行方不明になることがあるから、それが心配で阿弥さんの様子を見に来たって言ってましたよね」
「……そうか、君はもしかして」
「ええ。その女性が行方不明になることと、今回の事件は何らかの関係性があると思うんですよ。仮に犯人が睡眠薬で眠らせたとすると、その目的も単純明快だ。俺を除いて皆若い女性だから、その犯人が榊さんたちを狙っているのかもしれない」
「でも、それなら山中さんが亡くなったのは納得できるけど、榊さんと春崎さんが無事なのは何でなの？」

　岡田の問いに、式は少し考えた後答える。

「……一応俺の頭の中にその答えは浮かんでいますが、まだ確信を得ていないので言えません。もう少し調べる必要がありますね」
「じゃあ話を戻して、山中さんの次に部屋に戻った人だよね。次は私だったかな」

　少し脱線した話を戻しつつ、水島が答えた。

「山中さんが部屋に戻った後も私たちは話をしていたんだけど、夜9時ごろになったらお酒を飲み過ぎたのか、酔いが回ってきたから部屋に戻って横になったの。そのまま眠りについちゃって、起きたのは今日の朝、ってところかな」
「なるほど。その次は誰が部屋に戻りましたか？」
「その次は私たちかな」

　岡田と武藤の二人が手を上げる。

「夜10時前くらいになったら、二人で部屋に入って少し駄弁ってたの。まあ1時間もしたら眠くなってきたし、そのまま雑魚寝しちゃったけど。朝起きたときは体中が痛くて仕方なかったわね」
「私も岡田さんと同じよ」
「ということは、昨日の夜はずっと二人でいたってことですよね」
「そうね」

　一応ではあるが、お互いにアリバイが成立していることになる。

「最後は池上さんですが、あなたは何時ごろまでいたんですか？」
「実は、その二人が部屋に戻ってから、お開きにしようということで阿弥さんや愛ちゃんと一緒に片づけをしていたんだ。それが終わったのが大体夜10時半くらいかな。その後部屋に戻って、酒も飲んでいたことだから風呂も朝に入ろうと思って、そのまま眠りについたってわけだ」
「阿弥さんや愛さんは、その後も残っていたんですか？」
「さあ、そこまではわからない。多分二人とも僕と同じように部屋に戻って休んだと思うんだが」
「なるほど、わかりました。後は榊さんと愛さんが戻ったら聞いてみましょう」

　そういった直後、タイミングを計ったように榊たちが戻ってきた。

「ただいま戻りました。早速今から直しに行きます」
「おかえり、榊さん。早速頼むよ」
「はい。それと頼まれていた件ですが、後程話しますよ」
「ありがとう。春崎さんも一緒に行ってあげて」
「うん」

　榊たちは電波受信器を直しに向かった。

「さて、愛さんに聞きたいことがあるんですが、昨日夜11時から12時頃何をしていましたか？」

　式はあえて死亡推定時刻のことは言わずに聞いた。

「……その時間は、既に部屋に戻って眠りについていたと思います。夜10時頃から宴をお開きにして、片づけを行いまして、10時半頃には終わったので、細かいところは明日やろうと思って、阿弥様に一言言って部屋に戻って眠りました」
「阿弥さんがその後何をしていたのかはわからないですか？」
「ええ。ただ阿弥様も『少ししたら部屋に戻る』と言っていたので、すぐに部屋に戻って眠りについたと思いますが」

　愛の話を聞いて、とりあえず昨日の全員がどの時間に就寝したのかはわかった。

「後もう一つ聞きたいんですが、阿弥さんって電波受信器がある部屋の鍵って持ち歩いていなかったんですか？」
「ええ。阿弥様は必要な時以外は持ち歩かない主義の人なので。部屋のどこかに置いてあると思いますが、私は存じ上げません」
「部屋の鍵もですか？」
「それは、私にはわかりかねます」
「わかりました。一応池上さんが簡易的な検死をしたんですが、その結果が……」

　式は検死結果について話した。

「……そうですか。山中様は昨日の11時頃に、そして阿弥様は12時頃に」
「愛さんに一つ聞きたいんですが、もしこの中に犯人がいるとしたら、誰だと思いますか？」
「そんなことを言われても、わかりません」
「わかりました。ありがとうございます」

　式は礼を述べた後、池上に

「池上さん、しばらく愛さんについてあげてください」

　と言った。

「わかった。愛ちゃん心配ない、この事件の犯人は必ず僕が捕まえる。僕が君を守って見せるから」
「池上様……。ありがとうございます」
「……」

　式はその光景を尻目に、榊たちの元へと向かった。