第112話 検死結果と昨日の出来事

文字数 2,196文字

「池上さん、検死はどうでしたか?」

 池上に尋ねると、彼は簡易ながらも検死の結果を語った。
 まず山中の死亡推定時刻だが、昨日の午後11時頃ということがわかった。
 死因は腹部を解剖されたことによる出血死だが、現場や遺体から流れている血の量と想定される出血量が合わないらしい。

「出血量が合わない、というのはどういうことなんでしょうか」
「考えられるのは、ここではない別の場所で殺害されたため、その現場に血が飛び散っているか、あるいは何らかの理由で血を抜き取ったか、だな」
「血を抜き取る!? なんでそんなことを……」

 式と一緒に検死結果を聴いていた春崎が、その光景を想像したのか青ざめた顔になる。

「まああくまでも予想だ。本当のところは犯人しかわからないだろう」
「山中さんの情報、他にはありませんか?」
「今わかるのはこのくらいだな。では次に阿弥さんの検死だが……」

 池上は阿弥の検死結果について話し始めた。
 死亡推定時刻は午前0時頃。死因言わずもがな、首を切断されたことである。
 切り口から見て、鉈のようなもので切られたと推測できる。
 その凶器となったものは現場付近には落ちていなかったため、犯人が持っているか、どこかに隠したと思われる。

「池上さん、首の切り口はどうなっていましたか? 例えばスパッと一気に切り裂いたのか、あるいはのこぎりのようにギザギザになっていたとか」
「特にギザギザしていたというのはなかったな。恐らく一瞬で切ったのだろう」
「そうですか」

 式は少し考え始めた。

「そういえば、阿弥さんの遺体から鍵って見つかりましたか?」
「いや、見つかってないな」
「阿弥さんが殺されたのなら、当然彼女の自室の鍵や電波受信器の鍵を持っていたはず。でも持っていなかったということは、殺された後に奪われたのかな」
「だろうな」
「それなら、今出かけている愛さんと榊さん以外の人たちに話を聞いてみない? もしその中に犯人がいたら、鍵を持っているんじゃないかなー」

 春崎が提案する。

「……そうだね。とりあえず皆に話を聞いてみたいな」
「わかった。適当な部屋に集めておこう」

 数分後、とある部屋の一室にこの館にいる全員が集まった。

「私たちを集めて、何をするんですか?」

 全員を見渡して岡田が尋ねる。

「これから皆さんにお話を聞きたいと思います。検死を行った結果、亡くなった二人の死亡推定時刻は昨日の午後11時から午前0時となりました。この時間何をしていたのかを聞きたいと思います」
「何をしていたかって言われても、そんな夜遅くはもう眠っていたわよ」

 当たり前だ、というように武藤が言った。

「私も夜寝ていたかな」
「私も」
「かくいう私も何だよねー」
「まあ、俺もなんですけど」

 当然のことだが、深夜遅くならば全員眠っていたようだ

「それなら、昨日俺たちが部屋に戻った後、どんな順番で皆さんが部屋から出ていったのかを教えてください。昨日夜8時頃に俺たち三人は部屋に戻りましたが、その次に部屋に戻ったのは誰ですか?」
「次はたぶん山中さんかな。彼女もその数十分後に眠くなったってことで部屋に戻っていったよ」

 昨日のことを思い出すかのように水島が答える。

「夜8時に眠くなるなんて健康的だよね。普段は夜更かしとかしないのかな」
「でも、私あの子と話したけど、友達と夜遅くまでゲームをすることもあるから、夜には強いって言ってたよ。だから8時に寝るなんて珍しいなって思ったけど」

 武藤が昨日の山中との会話を思い出しながら言った。
 式はその言葉を聞いて少し考え、

「池上さん、山中さんから睡眠薬の反応とか出なかったんですか?」

 と尋ねた。

「申し訳ないが、僕がやった検死は簡易的なものだから、そこまで詳しいことはわからないんだ。だがどうしてそのようなことを?」
「実は、昨日俺や春崎さん、榊さんも夜8時頃に急に眠くなったんです。俺は部屋に戻った後、あまりの眠さにベッドに入ってすぐに意識を失いました。いくら山登りをして疲れていたとはいえ、あれほど眠くなるのは少しおかしいと思っていた。けど山中さんも同じように眠くなっていたなら、もしかしたら睡眠薬が食事に入っていたんじゃないかって思ったんです」
「なるほどな」
「他の皆さんは眠くなったりしなかったんですか?」

 式は春崎を除いた四人に尋ねた。
 だが、四人とも特に眠くなったりはしなかったようだ。

「運ばれてきた食事は皆手を付けてたよね。ということは食事に睡眠薬が入っていたわけじゃないのかな」
「食事じゃないとすると、飲み物か? 眠くなった四人に共通するのは、全員未成年であるということ。ということは未成年者が飲むドリンクに睡眠薬が入っていた可能性があるな」

 それを確かめるべく、再び質問する。

「皆さん、昨日お酒以外に何か飲みましたか?」
「お酒以外だと、酔い覚ましの水くらいかしらね」

 水島が答えると、他の三人も同じく頷いた。

「ということは、食事の時に俺たちが飲んだドリンクに入っていた可能性がある。後で警察に調べてもらおう」
「でも、仮にそうだとしてもどうして犯人は私たちの飲み物に睡眠薬を入れたの?」

 春崎が当然の疑問を指摘する。
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