第122話 館の異変

文字数 1,317文字

「誰もいないね……」

 部屋を見渡したが、そこには誰もいなかった。
 部屋の異変と言えば、窓が開いていることくらいか。

「ここから誰かしらが逃げだした、のか?」
「さあな……」

 龍吾は部屋から出て中野がいた場所に戻ったが、そこで先ほど倒れていたはずの中野が姿を消していた。

「馬鹿な、消えているだと……?」

 血の跡があることから、確かに先ほどまではいたことが証明できる。
 だが龍吾たちが離れていたのはほんの1分ほどだ。
 そのような短時間で、移動できるものだろうか。

「もしかして、中野さんは生きていたのか……? それで怪我の治療をするために別の部屋に行ったとか」
「まあ可能性としてはあるだろうが、何とも言えんな」

 二人は辺りを探してみるが、見つからなかった。
 しばらく探していた式は、あることに気づいた。

「そういえば、もう悲鳴が聞こえないな」
「……まさか!」

 何かに気づいた龍吾は客室のドアをすべて開けた。
 全ての部屋に誰の姿も確認することができなかった。
 その異常に、式も龍吾も驚きを隠せない。

「悲鳴が聞こえなかったのは、もう既に俺たち以外の人間がここにいないから、だったのか」
「……まだ一階にいるかもしれん」

 大して期待もせずに二人は一階を探すが、案の定誰も見つけることができなかった。

「これまでに見つけた遺体も全て無くなっている。一体どういうことなんだ?」
「考えられるのは二つだ」

 龍吾は自身の考えを述べた。
 一つ目は全員が生存しており、一部の人間が死んだフリをしてその後誰にも見つからないように館を出た、というもの。
 二つ目はまだ発見されていない人物が犯人で、式たちの目をうまくすり抜けて遺体や残りの人間たちを回収した、というもの。

「一つ目に関してはこれを行う意味がわからない。だから二つ目だろうな」
「まあ、盛大なドッキリにしては趣味が悪すぎるもんな。でも誰が犯人なんだ……?」
「……現時点での情報で、怪しい人物がいる」

 龍吾がつぶやくと、式もそれに同調した。

「俺も気になっている人がいる。でもそれ以外のまだ見つかっていない人が犯人である可能性もあるし、断言ができないな」
「……」

 龍吾は無言で本村がいた部屋に入り、中を調べ始めた。
 そして、あるものを見つける。
 そこには、摩の略字と「今」という漢字と羊の模型が二つあった。

「なんだ、これは」
「广にマと書かれた文字と、『今』と羊が二匹……」

 そう呟いた式は、何かを思いついたようだ。

「まさか……」
「どうした?」
「これってさ……」

 式はスマホのペイントツールを起動し、そこにある文字を書いた。

「こういうことなんじゃないの?」
「……まあ、可能性としてはあり得るな。こじつけと言えなくもないが」
「これを補完するダイイングメッセージとして考えると、辻褄が合う。後は犯人を見つけるだけだけど……」

 式がそう言った途端、二人の後ろで足音がする。

「どうやら、向こうから近付いてきたみたいだぞ」
「残っている俺たちを殺すため、か」

 式たちは後ろを振り向いた。
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