第106話 それぞれの会話

文字数 1,084文字

「おっと」

 突然、池上の携帯に着信が入る。

「すまない、少し席を外すよ」
「わかったわ」

 携帯を片手に退出する池上。

「そういえば、ここって山奥なのに携帯の電波が通じるんですね」
「ああ、それはこの館に電波の受信器があるからよ。これを見て」

 阿弥はどこからかタブレットを取り出し、地図を開いた。

「この山の向かい側にもう一つ山があるんだけど、そこに基地局があって、そこから飛ばしている電波を受信しているの。だからこんな山奥でも十分に携帯がつながるのよ」
「へえー、すごいんですね」
「でも、この電波受信器がどこにあるのかは秘密よ。変にいじられたら壊れちゃうからね」

 この別荘には阿弥や愛の他にも様々な人々が出入りするが、その中でも電波受信器がある部屋に入れるのは阿弥と愛のみらしい。

「そんなことより、君もいろんな人と話して来たら? 各分野で活躍している人たちばかりだから、為になる話が聞けるかもよ」
「そうですね。では失礼します」



「岡田さんは阿弥さんとはどのような繋がりがあるのですか?」

 一方、榊は女優の岡田と話していた。

「私が主演となったドラマのスポンサーが阿弥さんなの。初めて会った日から気に入られたみたいで、その後もいろんなドラマの斡旋してくれたりでお世話になりっぱなしなのよ」
「すごいですね。そのドラマとは、もしかして一躍有名になったあの……」
「そう。だから私は彼女には頭が上がらないのよね。今ではプライベートでもちょくちょく会う仲になって、今日もこの宴に誘われたのよ」

 どうやら、岡田にとって阿弥は恩人のような存在のようだ。

「今日来ている他の人たちとは交流ないけど、もしかしたら皆同じような感じじゃないのかな」
「気になりますね……」

 榊は他の参加者に視線を向けた。

 そして春崎もグラビアアイドルの武藤と会話をしていた。

「武藤さんって、やっぱりすごいプロポーションですよねー。私なんか背も胸も小さいから、羨ましいなー」
「あら、私も桃子ちゃんくらいの歳の頃はそんな感じだったわよー」
「えー、ほんとですか!? だって私くらいっていったら四年前ですよね」
「そうよ。他の同級生の子たちと比べて何もかもが小さかったから、悔しくていろんな努力をしたの。だから、桃子ちゃんも今が小さいからってあきらめないでね」
「ち、ちなみにどんなことをしたんですか?」
「それはねー……」

 春崎は武藤と秘密の話をしているようだ。

「……皆楽しんでいるみたいだな」

 その様子を見ていた式がポツリと呟いた。
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