第15話 事件の真相

文字数 2,741文字

「冬彦さん、あなたは取り調べの時喉が渇いたといって食堂に行ったと発言していた」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「その時に木戸さんから正さんに睡眠薬を届けてほしいと頼まれたんですよね」
「はい。私が確かに頼みました」

 木戸の発言を聞き、話を進める。

「その時にあなたは今回の犯行を思い付いた。これはチャンスだとね」
「何を馬鹿なことを……」
「冬彦さんは食堂を出る時に水と一緒にこっそりと缶のお茶を持ち出し、睡眠薬を持って現場を訪れた。そして正さんに水と薬を渡し、一旦倉庫に行く。頃合いを見て現場に戻り、正さんが眠っているのを確認したら、用意しておいた湯呑みハンマーで殴り、湯呑みについた血をお茶で洗い流してお茶をこぼし、その上に置いた……」
「待ってくれ!」

 黙っていた冬彦が大声で式の言葉を止める。

「そもそも、何故君は僕を疑っているんだ?」
「冬彦さん、あなたはおかしな発言や行動をし過ぎているんですよ」
「おかしな発言や行動?」
「ええ。じゃあ一つずつ言っていきましょうか」

 式は冬彦の様子を見ながら話しを進める。

「まず俺が現場に着いたときです。あの時他の四人は部屋の入口に集まっていて、俺が到着してその後俺が現場に入り、正さんの死体をチェックしましたよね」
「ああ。それがどうしたんだ」
「なんであの時俺を止めなかったんですか?」

 式から言われた質問に対し、固まる冬彦。

「ど、どういうことだ」
「正さんが頭から血を流して椅子に座っていたのを、俺が間近まで行って調べていたんですよ。なんでその時俺を止めなかったんですか? 俺が犯人で証拠を隠滅する可能性だってあったのに」
「そんなの、他の皆も一緒じゃないか。皆も君を止めなかっただろ」
「他の皆さんには止めなかった理由がありますよ」

 その理由を、式は言っていく。

「まず莉奈さんと木戸さんは、俺がこの館に送られた脅迫状の調査のためにこの館に来たことを知っている。だから俺に正さんを殺害する動機がないことはわかっているんです。次に夏海さんですが、彼女は事件発生当時一階のホールにいて、一階の浴槽にいた俺が正さんを殺害するのが不可能なことを知っているんです」
「だから、それは僕も一緒なんだよ。僕も倉庫で掃除をしていて、あの道を誰も通っていないことを見ている。だから君が犯人じゃないことはわかっているんだよ」
「どうして? 俺があの道を通らず他の方法で現場に行き、殺害したかもしれないのに」
「そんなの不可能だろう!」
「なるほど、冬彦さんはそう思っているんですね。皆さん、今の言葉を覚えておいてください」

 式は言質をとった。

「次にあなたは取り調べの時に言っていましたよね。『ご主人様の遺体を発見した』と」
「確かに言ったな」
「なんで遺体だとわかったんですか? あの時あなたはまだ部屋に入っていなかったんですよね。なのに調べることもしないで正さんが亡くなっていることを知っていた」
「いや、そんなの頭から血を流しているのを見たら死んだと思うだろう」
「でも他の三人は正さんの状況を見て『頭から血を流して座っている』といった発言をしていて、誰も正さんが死んでいたとは言っていないんですよ」
「そうなのか。それは僕と他の三人の受け取り方が違ったんだろうな。僕はあの状況を見てもうご主人様が亡くなっていると思った。それだけだ」

 式の発言に食い下がる冬彦。
 だが筋は通っている。

「それに冬彦さん、あなたは俺に対して警戒心がなさすぎる」
「どういうことだ?」
「あなたから見たら、俺はつい最近入ってきたばかりの高校生バイトだ。それなのにもかかわらず、あなたは普段男性の従業員を雇わないことを知っていながら俺が雇われたというのに、その理由に対する疑問が無かった」
「そんなの、別に疑問に思うことじゃないだろう」
「それだけじゃなく、あなたは俺と莉奈さんが恋愛関係に発展することがないと言い切っていた。その理由が高校生だからというものだった。これはどうしてですか。恋愛に年齢差なんて関係ないでしょう?」
「それだって、お嬢様が君を好きになることはないと思ったからだよ」
「そっちじゃありませんよ。俺が莉奈さんを好きになってアプローチをする可能性を全く考えていなかったでしょう」
「ああ言えばこう言うな、君は。何が言いたいんだ」
「もしかして冬彦さんは俺が脅迫状の調査のためにこの館に来たことを知っているんじゃないかって言いたいんですよ」

 その式の言葉に、冬彦が目を見開く。

「以前夏海さんは俺が正さんや莉奈さんのプライベートルームを掃除することに疑問を持っていた。それは無理もありません。いきなり入ってきたバイトにそんなことを頼むのは考えられないからだ」
「……」
「でもあなたはそういった疑問は一切持っていなかった」
「そんなの、特に考えてなかっただけだよ。それに君と一緒に仕事をして悪い奴じゃないってのはわかったから、警戒する必要なんてなかったんだ」
「じゃあ、俺が正さんと莉奈さんの部屋を掃除したことについてはどう思っていますか?」
「別にどうも思ってない!」

 声を荒げる冬彦。

「なあ、もういいだろう。君の言っている事は全て言いがかりだ。そんなに僕を疑うなら、確固たる証拠を見せてくれ」
「証拠ですか。じゃあ最後に聞きたいことがあります」
「なんだ」

 苛立ちながら冬彦は尋ねた。

「冬彦さんは、誰を犯人だと思っていますか?」

 それは、先ほども聞いた質問だった。

「それはさっき答えただろう。僕は……」
「木戸さんと答えましたよね」
「私が犯人?」

 冬彦の答えに木戸が驚く。

「冬彦さん、木戸さんが犯人だとしてどうやって殺害したんですか?」
「どうやってって……」
「あなたは言いましたよね。あの道を通った人物は一人もいなかったと。なら当然木戸さんも通っていないことになる」
「それなら、別の方法で」
「それもないですよ」

 式は首を振った。

「だってさっき言いましたよね。俺があの道を通らず他の方法で正さんを殺害した可能性があるって問いに対し、そんなのは不可能だと」
「あ……」
「さあ答えてください。あなたはあの道を通った人を誰一人目撃していない。あなた以外であの道を通らず正さんを殺害する方法を教えて下さい」
「くっ……」

 冬彦の表情が曇る。

「あなたは取り調べの時に言ってしまったんですよ。あの道は誰も通らなかった、つまり犯人は自分しかいないと」
「……」

 冬彦はその場に崩れ落ちた。それは自分が犯人であると肯定したも同義だった。
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