第82話 調査
文字数 2,687文字
しばらくすると、いくつかのパトカーたちが到着した。
「どういう状況ですか、園田警部!」
隼人の名前を呼んだのは薫だった。
「お、畠山が来たのか」
「そうですよ。皆で来るなら私も誘ってくださいよ~」
「はいはい、今はそれどころじゃないんだ。とりあえず状況を説明するから、その間に検死を行ってくれ」
隼人は事件発生までの流れを説明した。
「なるほど、となると急に被害者は口元を抑えて倒れ、そのまま息を引き取ったというわけですね」
「ああ。検死してみないと原因はわからんが、何か苦しそうにしていたな」
「俊哉さんって、何か病気とか持っていたんですか?」
春崎が留美たちに尋ねる。
「いや、そんな話は聞いたことないな。美紀はどうだ?」
「私は長い付き合いだから知っているけど、彼はそんな病気を患わっていなかったわ。健康そのものよ」
「となると死因は別のものか」
しばらくして検死結果が出る。
「えーと、どうやら死因は体内に毒が回ったことによるものらしいです。脇腹に刺された跡があり、そこから毒が注入されたとのことです」
「毒だって? そんなものいつ脇腹から接種してしまったんだ?」
「もしかして、海にいるクラゲに刺されたとか……」
留美が呟く。
「クラゲか。畠山、至急海にいる人たちに海に入らないように注意喚起した方がいい」
「わかりました!」
薫と複数の刑事は急いで海にいる人たちに注意して回った。
「クラゲの毒、ですか……」
榊が神妙な面持ちをしている。
どうやら腑に落ちないことがあるようだ。
「どうしたの、榊さん」
「いえ、少し気になることがあって……」
そう言って榊は留美たちの元に向かった。
「すみません、皆さんが海に来たのは何時頃ですか?」
「え、えーと午前十時くらいかな」
「十時ぐらいですね、ありがとうございます」
聞き終えた後、再び式の元に戻ってくる。
「やはり、クラゲに刺されたというのはあり得ないと思います」
「その根拠は?」
「あの四人は午前十時頃にこの海に来たと言っていました。そして現在の時刻は十二時前。つまりこの海に来てから二時間しか経っていないということです」
「それがどうしたの?」
「この辺りの海に生息しているクラゲは、毒を持っているものでも刺されてから最低数時間は経たないと死に至るようなことにはなりません。少なくとも経った二時間で死ぬことなどあり得ないでしょう。それに加え、俊哉さんは初期症状すら出ていません。刺されてからしばらく経ったら刺傷部から痛みを感じたり、吐き気や手足の痺れを訴えるものですが、彼の場合はそういった症状が出ることもなく、いきなり死亡しているのです。これはクラゲの毒がもたらす効能ではありません」
詳しくは調べてみないとわからないことだが、榊の話には納得できる部分もあった。
彼女の言う通り、初期症状として吐き気や痺れなどが出ず、いきなり死亡するというのは確かに考えづらい。
「つまり、榊さんは」
「ええ。これは殺人事件だと思います」
殺人事件となると、誰が何の目的で俊哉を殺害したのか。
「私は一応このことを警察に話してみますね」
「わかった。その間俺はいろいろと調べてみるよ」
式は現場に向かいながら推理を始める。
(殺人事件だとすると、犯人は脇腹から毒を注入したことになる。だがそんなことができる人などどれくらいいるのか……)
すぐに思い当たるのは、やはりあの三人だ。
彼らなら友人という立場を利用していくらでも俊哉に近づくことはできた。
問題はどうやって脇腹から毒を注入したということだが……。
(いや、三人とも脇腹から毒を注入する機会はあったかもしれない)
式はこれまでの出来事を思い返してみた。
まず留美だが、彼女はビーチバレーをしていたときに、一度俊哉と衝突して砂浜に倒れこんでいる。あの時は砂煙が舞っていたことで視界も遮られていたため、その隙をついて脇腹から毒を注入することはできたかもしれない。
次にタカだが、彼はビーチバレーで足をくじいてしまった俊哉を担いで医務室に向かった。その間誰の目も向いていないため、隙をついて毒を注入した可能性がある。
そして最後に美紀だが、彼女は食事中に醤油を俊哉に取ってもらい、それを受け取ろうとした時に落としてしまった。その結果醤油が俊哉の体にこぼれてしまい、彼女がその汚れを拭き取っていた。醤油は脇腹にも少々かかっていたので、その時に毒を注入することもできただろう。
つまり、三人ともが毒を注入する機会があったのだ。
(だが、こんなのはあくまでも三人の中に犯人がいると仮定した場合だ。何か証拠でもなければただの妄想に過ぎない。けど証拠なんて残っているものなのか……)
何か証拠になるものはないのか考えていた式の頭に、ある光景が思い浮かんだ。
(あれ、そういえばあの人……)
それは一見大したことではなく、日常の仕草だったので気にもせず見逃していたが、そこに確かな違和感があった。
(そうか、もしかしたら……)
式はあることを思い立つ。
それを確かめるには、警察の協力も必要になるだろう。
現場に到着した式は、早速そこにいた薫に協力を仰いだ。
「すみません、畠山さん。頼みがあるんですけど……」
「頼みって何ですか?」
「それは……」
式は耳打ちする。
「わかりました。三人に言ってみましょう」
「それともう一つ。榊さんに言われたんですが、俊哉さんが接種した毒ってクラゲのものではなかったかもしれないんです」
「あ、それについては先ほど検死官から聞きました。あれはクラゲの毒ではありえない症状だって」
「やっぱりそうでしたか」
これで残るはあと一つだ。
式は急いで三人に集まってもらった。
「皆さんにお願いがあるんですが、一度このシャワーを浴びてもらえませんか?」
「え、なんでそんなことを」
「お願いします」
式に懇願されたため、仕方なく三人はシャワーを浴び始めた。
数分後、三人がシャワールームから出てくる。
「ふうー。こんなときに不謹慎だけど、シャワーを浴びるのは気持ちいいわね」
「でも、こんなことして何の意味があるの?」
「そうだ。理由を聞きたい」
三人は髪を乾かしたり、体を拭きながら式に行動の理由を尋ねた。
「それは、この中に俊哉さんを殺害した犯人がいるからです」
と、式ははっきりと発言した。
「どういう状況ですか、園田警部!」
隼人の名前を呼んだのは薫だった。
「お、畠山が来たのか」
「そうですよ。皆で来るなら私も誘ってくださいよ~」
「はいはい、今はそれどころじゃないんだ。とりあえず状況を説明するから、その間に検死を行ってくれ」
隼人は事件発生までの流れを説明した。
「なるほど、となると急に被害者は口元を抑えて倒れ、そのまま息を引き取ったというわけですね」
「ああ。検死してみないと原因はわからんが、何か苦しそうにしていたな」
「俊哉さんって、何か病気とか持っていたんですか?」
春崎が留美たちに尋ねる。
「いや、そんな話は聞いたことないな。美紀はどうだ?」
「私は長い付き合いだから知っているけど、彼はそんな病気を患わっていなかったわ。健康そのものよ」
「となると死因は別のものか」
しばらくして検死結果が出る。
「えーと、どうやら死因は体内に毒が回ったことによるものらしいです。脇腹に刺された跡があり、そこから毒が注入されたとのことです」
「毒だって? そんなものいつ脇腹から接種してしまったんだ?」
「もしかして、海にいるクラゲに刺されたとか……」
留美が呟く。
「クラゲか。畠山、至急海にいる人たちに海に入らないように注意喚起した方がいい」
「わかりました!」
薫と複数の刑事は急いで海にいる人たちに注意して回った。
「クラゲの毒、ですか……」
榊が神妙な面持ちをしている。
どうやら腑に落ちないことがあるようだ。
「どうしたの、榊さん」
「いえ、少し気になることがあって……」
そう言って榊は留美たちの元に向かった。
「すみません、皆さんが海に来たのは何時頃ですか?」
「え、えーと午前十時くらいかな」
「十時ぐらいですね、ありがとうございます」
聞き終えた後、再び式の元に戻ってくる。
「やはり、クラゲに刺されたというのはあり得ないと思います」
「その根拠は?」
「あの四人は午前十時頃にこの海に来たと言っていました。そして現在の時刻は十二時前。つまりこの海に来てから二時間しか経っていないということです」
「それがどうしたの?」
「この辺りの海に生息しているクラゲは、毒を持っているものでも刺されてから最低数時間は経たないと死に至るようなことにはなりません。少なくとも経った二時間で死ぬことなどあり得ないでしょう。それに加え、俊哉さんは初期症状すら出ていません。刺されてからしばらく経ったら刺傷部から痛みを感じたり、吐き気や手足の痺れを訴えるものですが、彼の場合はそういった症状が出ることもなく、いきなり死亡しているのです。これはクラゲの毒がもたらす効能ではありません」
詳しくは調べてみないとわからないことだが、榊の話には納得できる部分もあった。
彼女の言う通り、初期症状として吐き気や痺れなどが出ず、いきなり死亡するというのは確かに考えづらい。
「つまり、榊さんは」
「ええ。これは殺人事件だと思います」
殺人事件となると、誰が何の目的で俊哉を殺害したのか。
「私は一応このことを警察に話してみますね」
「わかった。その間俺はいろいろと調べてみるよ」
式は現場に向かいながら推理を始める。
(殺人事件だとすると、犯人は脇腹から毒を注入したことになる。だがそんなことができる人などどれくらいいるのか……)
すぐに思い当たるのは、やはりあの三人だ。
彼らなら友人という立場を利用していくらでも俊哉に近づくことはできた。
問題はどうやって脇腹から毒を注入したということだが……。
(いや、三人とも脇腹から毒を注入する機会はあったかもしれない)
式はこれまでの出来事を思い返してみた。
まず留美だが、彼女はビーチバレーをしていたときに、一度俊哉と衝突して砂浜に倒れこんでいる。あの時は砂煙が舞っていたことで視界も遮られていたため、その隙をついて脇腹から毒を注入することはできたかもしれない。
次にタカだが、彼はビーチバレーで足をくじいてしまった俊哉を担いで医務室に向かった。その間誰の目も向いていないため、隙をついて毒を注入した可能性がある。
そして最後に美紀だが、彼女は食事中に醤油を俊哉に取ってもらい、それを受け取ろうとした時に落としてしまった。その結果醤油が俊哉の体にこぼれてしまい、彼女がその汚れを拭き取っていた。醤油は脇腹にも少々かかっていたので、その時に毒を注入することもできただろう。
つまり、三人ともが毒を注入する機会があったのだ。
(だが、こんなのはあくまでも三人の中に犯人がいると仮定した場合だ。何か証拠でもなければただの妄想に過ぎない。けど証拠なんて残っているものなのか……)
何か証拠になるものはないのか考えていた式の頭に、ある光景が思い浮かんだ。
(あれ、そういえばあの人……)
それは一見大したことではなく、日常の仕草だったので気にもせず見逃していたが、そこに確かな違和感があった。
(そうか、もしかしたら……)
式はあることを思い立つ。
それを確かめるには、警察の協力も必要になるだろう。
現場に到着した式は、早速そこにいた薫に協力を仰いだ。
「すみません、畠山さん。頼みがあるんですけど……」
「頼みって何ですか?」
「それは……」
式は耳打ちする。
「わかりました。三人に言ってみましょう」
「それともう一つ。榊さんに言われたんですが、俊哉さんが接種した毒ってクラゲのものではなかったかもしれないんです」
「あ、それについては先ほど検死官から聞きました。あれはクラゲの毒ではありえない症状だって」
「やっぱりそうでしたか」
これで残るはあと一つだ。
式は急いで三人に集まってもらった。
「皆さんにお願いがあるんですが、一度このシャワーを浴びてもらえませんか?」
「え、なんでそんなことを」
「お願いします」
式に懇願されたため、仕方なく三人はシャワーを浴び始めた。
数分後、三人がシャワールームから出てくる。
「ふうー。こんなときに不謹慎だけど、シャワーを浴びるのは気持ちいいわね」
「でも、こんなことして何の意味があるの?」
「そうだ。理由を聞きたい」
三人は髪を乾かしたり、体を拭きながら式に行動の理由を尋ねた。
「それは、この中に俊哉さんを殺害した犯人がいるからです」
と、式ははっきりと発言した。