第93話 計画:第二段階

文字数 2,376文字

 計画の第二段階では、例の浮気男を呼び出す必要がある。
 その前に、まずは拘束した母親をどうにかしなくてはならない。
 このまま車の中で連れまわすのはリスクが高い。
 だから別の場所に移す必要があるのだ。
 もちろんその場所も用意してある。
 私は町はずれの廃ビルまで車を走らせた。
 この廃ビル付近は人通りも少なく、目につきにくい。
 そのためここを殺害場所に選んだのだ。
 だが、まだ殺さない。
 とりあえず母をこのビルに監禁するために訪れただけだ。

「この部屋でいいかな」

 適当な空き部屋に入り、母を置いた。
 目が覚めた時に逃げ出さないように、足に鎖を取り付けておく。

「よし、じゃあ次は……」

 母の鞄からスマホを取り出した。
 母のスマホは指紋認証かパスコードを入力することでロックが外れるのだが、私はパスコードを知らない。
 だが母親の体がすぐそこにあるので、指紋認証で容易に解除することができる。
 母の指を使ってロックを解除した。
 このスマホが、計画を成功させる鍵となる。
 まずはこのスマホを自由に使えるようにする必要がある。
 常に電源を入れっぱなしにするわけにはいかないので、私でもロックを解除できるようにするのだ。
 その方法は簡単、私の指紋を登録すればいい。
 これで母の他にも私の指紋を使うことでロックを解除することができるようになった。

「次はSNSだね」

 そしてお待ちかねの浮気男を呼び出すことにした。
 母と浮気相手はSNSで繋がっている。スマホのロックを解除してしまえば当然SNSにアクセスするのも容易だ。
 SNSでのやりとりを見てみると、明らかに浮気しているのがわかる。
 事前に探偵から調査してもらったからわかってはいたものの、このログがあればもはや言い訳のしようもないだろう。
 ここからは私が母に成りすまし、この男を呼び出す。
 私は男を呼び出すための文章を打った。

『ねえ、ちょっと話があるんだけど、ここのビルに来れない?』
『なんでこんなところに?』
『人目につきたくないのよ。浮気しているのがバレたみたいなの、今後のことについて話したいから』
『う、まじか。わかったすぐに行く』

 これで男を呼び出すことに成功した。
 こういう意味ありげな文を送れば、勝手に向こうが察して言う通りにしてくる。
 まさかそれが罠だとも知らずに。

「さて、奴が来る前にやることやっておかなくちゃね」

 まずは胸に挟んでおいた酸素ボンベを取り外し、用意しておいた服に着替えた。
 パーカーに短パンという、動きやすく目立たないような服装だ。
 そして髪の毛をまとめて帽子の中に入れておく。
 これでぱっと見私であることはわからないはずだ。

 次に男を拘束するための道具を用意する。
 拘束する道具自体は母に使用したものと同じものだ。
 問題はどうやって相手を拘束するか、だ。
 考えたのが相手を眠らせる方法だ。つまりこれも母親と同じだ。
 殴って気絶させる方法も思いついていたが、殴った痕があると犯人なのに誰かに殴られている、という不自然な状況が生まれてしまい、そこから調査されてあの男が犯人ではないということになりかねない。
 それを回避するために、あの男には外傷を残さない方が良いだろう。
 浮気相手を呼び出して、催眠ガスが充満した部屋に閉じ込めておけばいい。

 そして男がここに来るまでの間に、自分の車を別の場所に移さなければならない。
 このビルには一度離れたらもう二度と訪れる予定はないので、別の場所に移しておく必要がある。
 最悪家まで乗って帰るのも考えたが、さすがに間に合わなそうか。
 一応この車を置く場所についても考えてある。
 幸いこのビルから車で5分ほどの場所に運動公園があるので、そこの駐車場に置くことにした。
 運動公園に車を止め、後ろに積んであった折りたたみ自転車を取り出す。
 これで廃ビルまで戻れば、あの男が到着する前に辿り着けるだろう。
 必要な荷物はあらかた廃ビルに置いてきた。
 私は急いで自転車で廃ビルに戻った。

 廃ビルに戻ると、特に誰かが来た形跡はなかった
 どうやらまだあの男は来ていないようだ。
 息を整え、あいつが来るのを待つ。

 しばらくすると、一台の車がこの廃ビルに到着した。
 探偵からもらった写真と照らし合わせてみると、浮気相手の車と一致した。
 ようやく来たか。
 男が一人、車から降りてくる。
 そしてすぐさまスマホを取り出して電話を掛けた。相手はもちろん母だろう。
 私はスマホを取り出し、その電話に出た。

「もしもし」
「俺だ。もう着いたぞ」
「わかったわ。入口から入ってすぐの部屋にいるから来て」
「わかった」

 これで男を部屋に入れ、ドアの鍵を閉めてしまえば終わりだ。

「ここか」

 男が部屋のドアを開けた。
 当然中には誰もいない。

「え、いないじゃん」

 戸惑っているその隙に、私はドアを閉めて外側から封鎖した。

「何だ!?」

 いきなりの状況に戸惑っているのか、必死にドアを開けようとする。
 しかし私がしっかりとドアを塞いでいるので開くことはない。

「おい、何なんだ一体……」

 しばらく暴れていたが、ようやく催眠ガスが聞き始めたのか、声が聞こえなくなり、やがてドサッという音が聞こえた。

「よし、眠ったかな……」

 ドアを開けて確認すると、そこには地面に倒れて意識を失っている男の姿があった。
 眠っているのを確認したら、すぐにこの男も母と同じように手足と口、目を拘束して寝袋に詰めておく。
 その後、自分の車の後部座席に乗せた。

「これで第二段階完了……!」

 次は第三段階だ。
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