第23話 春崎からの情報

文字数 2,276文字

「それで式くん、聞き込みとは一体どこでするのですか?」

 警察署から出たところで、榊が尋ねる。

「まずは被害者である河本雄太さんと、容疑者である奥田陽子さんについて知っておきたい。彼らはどういう人たちなのか、二人の評判はどうなっているのかなどね」
「なるほど。聞いたところによると二人とも同じ高校に通っているらしいので、まずはその高校に行って聞き込みですね」
「春崎さん、二人が通っている高校ってどこ?」
「明快高校だよ。ここからそう遠くないから、今からでもいけるよ」

 春崎は気合が入っている。

「よし、じゃあ今から行ってみよう。もう下校時刻だし、あんまり人はいないかもしれないけど」
「では春崎さん。移動中にあなたが知っている二人について教えてもらえないでしょうか」
「うん、いいよ」

 春崎はにこやかに答えた。

「陽子にはさっき会ったからわかると思うけど、河本くんも陽子も美男美女でさ。周りからこれ以上お似合いのカップルはいないって言われてたんだ」
「なるほど。仲の良さはどうでした?」
「ラブラブカップルってわけじゃないけど、特に仲が悪い様子も見られなかったかな。私も陽子と話す時に、あんまり彼の愚痴とかは聞かなかったし」

 少なくとも、表面上は問題がなかったようだ。

「では次に個人個人について聞かせてください」
「まず陽子だけど、彼女は中学自体はとにかくモテてた印象だったなー。今でこそ長髪で榊さんみたいな雰囲気だけど、中学時代は髪も短くて部活に集中してたんだ」
「部活は何をやっていたんですか?」
「バレー部だったよ。陽子が三年生の代は全国大会も目指せるほど強かったし、実際にあと一歩のところまで行ってたんだよ」
「運動能力はかなり高そうですね。勉強の方はどうでしたか」
「特別悪いってわけじゃないと思う。今通っている明快高校も偏差値低くないし」
「中学時代の普段の様子は? たとえば授業態度とか、交友関係とか」
「授業も真面目に受けてたし、友人も多かったよ。特に授業は赤点になると部活に出られなくなるっていう決まりがあったから、必死にノートをとってたのを覚えてるよ」

 当時の様子を思い出して春崎はくすっと笑う。
 中学時代の彼女を知っているからこそ、あれほど必死に彼女が犯人であることを否定できるのだろう。

「では今の高校での彼女はどうですか?」
「正直普段から一緒に過ごしているわけじゃないから、聞いた話も混ざるけど、概ね中学時代と大差ないと思う。たまに遊ぶときも前と変わった印象はないし」
「なるほど」
「でも、決定的な違いと言えば、やっぱり彼氏を作ったことかな。中学時代の陽子は部活に集中していたこともあったんだけど、それ以前に恋人とかにまるっきり興味がなかったんだよね。それが高校に入ったら彼氏を作ったから、私驚いちゃった」
「ほう、高校に入ったら恋人を。まあ高校デビューとも言いますし、さほど珍しいことではありませんが……」

 式も基本的には同感だが、もしかしたらそこに糸口があるかもしれない。

「高校でもバレー部に入っているのですか?」
「いや、バレー部には入っていないみたい。部活は特にやってないみたいで、アルバイトを週三日くらいやってるって。バレー結構強かったのに勿体ないなあって思ってるよ」

 高校でもバレーを続けているわけではなく、アルバイトに精を出しているという奥田陽子。
 だがこれも高校生ならさほど珍しい話でもない。

「アルバイト先はどこなの?」
「明快高校の近くにあるファミレスって言ってたっけな」
「じゃあそこにも行ってみよう」

 奥田陽子についてはひとまずわかった。

「では次に河本雄太さんについて知っていることを教えてください」
「うーん、正直河本くんについては私もほとんど知らないんだよね。中学が一緒だったわけじゃないから、陽子から聞いた話くらいしか知らなくて」
「二人の馴れ初めとか知ってる?」
「それは確か、河本くんも中学にバレーをやっていて、そこで意気投合をしたって陽子が言ってたような。河本くんのチームは特別強かったわけじゃないらしいけど」
「告白はどっちから言ったの?」
「陽子からだって。好きですって言ったら、二つ返事でOKしてくれたらしいよ」

 二人が恋人になるのにはそれほど時間はかからなかったようだ。

「とりあえず、春崎さんが知っている中での河本雄太さんの印象を教えてほしいな」
「直接話したことはないから本当に印象だけになるけど、やっぱりイケメンだとは思ったなー。陽子もすごいかわいいから、本当にお似合いのカップルだと思う。河本くんは性格も良いって聞いてるし、一緒に居て退屈しないって惚気話をよく聞かされてたなー」

 友人のことを嬉しそうに話す春崎。
 その様子を見ているだけで春崎が奥田陽子を友人として好いているのがわかる。

「いろいろ話してくれてありがとう。それじゃあまずは学校で聞き込みを始めようか」

 丁度良いところで明快高校に着いた式たち。

「まずは奥田陽子さんの一番の友人である池田千歳さんを探そう。まだ学校に残っているといいけど」
「そうですね。そこの生徒さんに聞いてみましょうか」

 榊は近くにいた女子生徒に話しかけ、池田千歳について尋ねた。
 しばらく話しこんだ後、式たちの元に戻ってくる。

「彼女は今体育館でバレー部の活動をやっているようです」
「じゃあ体育館に行ってみようか」

 式たちは体育館に向かった。
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