第75話 榊さんの問題
文字数 1,809文字
夏休みも残すところあとわずかとなった頃。
式たちメイド探偵会は今日も部室に集まっていた。
しかし事件ではなく、単に部活動の一環として集まっているだけである。
幽霊部員になりつつある春崎も、本日はボランティア部の活動がないため、探偵会の方に顔を出していた。
ちなみに一応メンバーである龍吾は当然のように部室には来ておらず、この度めでたく顧問になった佐倉は職員室で仕事中だ。
「今日は思考力トレーニングをしましょう」
昼食をとりながら榊が言う。
榊の昼食は赤・緑・黄色がバランスよく整った彩のある弁当で、見ているだけでも美味しそうに感じる。
「思考トレーニングって?」
サラダパスタを頬張りながら春崎が尋ねた。
「私たち探偵に必要なもの、それは思考能力です。誰が犯人なのか、殺害方法は何なのか、暗号を解くにはどうすればいいのかなど、考える場面が多く出てきます。しかし式くんを除いて、私たちはまだ十分な思考能力を持っているとは言えません。そこで今回は部活動として思考能力を鍛えようと思うのです」
「それは立派な心がけだけど、具体的に何をするの?」
学食の弁当を食べながら式が尋ねる。
「これから私が例題を出します。その問題に関して、どういう状況なのかを推測してもらいます。あくまでも推測なので、私が思い描いた答え通りにならなくても大丈夫です」
「なるほど、それは面白そうだね!」
普段あまり思考能力を巡らせる機会がない春崎は楽しそうだ。
「では早速例題を出します」
榊は咳払いを一つした後、問題を出す。
「コンビニの前でお弁当を食べている人がいます。さて、その人は何故コンビニの前でお弁当を食べているのでしょうか」
「え、それだけ?」
「ええ。これだけの情報を元に、状況を考えてみてください」
問題自体はひどく簡潔だが、情報が少なすぎる。
思考力というよりは想像力が必要な気もするが。
「うーん」
式と春崎の二人はその情報を元に考え出した。
「制限時間は五分としましょう」
そして五分後。
「では、春崎さんから回答をお願いします」
「ふふふ、ばっちりだよ!」
どうやら春崎は自分なりの答えを思いついたようだ。
「まず、その日の天気は晴れだったんだよ。天気がいいから、お外でごはんを食べたいと思ってコンビニの前でお弁当を食べてるんだよ!」
「それでしたら、別にコンビニの前で食べる必要はないのでは?」
「それは、ほら、あまりにも晴天だったから、今すぐにでも食べたくなってつい食べちゃったんだよ」
あまりにも無理やりすぎる論理だ。
「まあ春崎さんの答えはわかりました。では次は式くんお願いします」
「うん。まあ自信ないけど答えるよ……」
榊から突っ込みが来るとは思っておらず、少し緊張している式。
「その人は多分時間がなかったんじゃないかな」
「時間がないとは?」
「たとえば、朝会社に行く時間で、かつまだ朝食を食べていなかった。だからどこかで朝食を食べようと思っているが、飲食店では料理が出来上がるのに時間がかかってしまうから、選択肢には入らない。となると真っ先に思い浮かぶのがコンビニの弁当になる」
「ですが、それならわざわざコンビニの前で食べる必要はないのでは?」
早速榊の突っ込みが入る。
「その理由は二つある。まず一つ目は、食べる場所がなかったから。最近のコンビニにはイートインスペースという場所があるけど、その時はたまたま席が全て埋まっていた。だから食べる場所がなくて外で食べていたんじゃないかな」
「もう一つの理由は何なの?」
「もう一つはゴミだよ。お弁当を食べるということは、容器や箸などのゴミが出てくる。食べる場所がないというだけなら近くの公園かどこかで食べればいいんだけど、最近の公園はゴミ箱が撤去されているところが多くて、食べ終わった容器や箸などを捨てることができない。食べ終わった後にコンビニに戻って捨てるのはタイムロスになるし、何より面倒だ。だから食べ終わった後すぐに捨てられるように、コンビニの前で食べているんだと思う」
「ほー、なるほど」
式の考えを聴いた春崎は感心している。
「どうかな、榊さん」
榊に尋ねてみると、彼女は満足そうに頷いた。
「ええ、いい推理だと思います」
にこやかに答えた。
式たちメイド探偵会は今日も部室に集まっていた。
しかし事件ではなく、単に部活動の一環として集まっているだけである。
幽霊部員になりつつある春崎も、本日はボランティア部の活動がないため、探偵会の方に顔を出していた。
ちなみに一応メンバーである龍吾は当然のように部室には来ておらず、この度めでたく顧問になった佐倉は職員室で仕事中だ。
「今日は思考力トレーニングをしましょう」
昼食をとりながら榊が言う。
榊の昼食は赤・緑・黄色がバランスよく整った彩のある弁当で、見ているだけでも美味しそうに感じる。
「思考トレーニングって?」
サラダパスタを頬張りながら春崎が尋ねた。
「私たち探偵に必要なもの、それは思考能力です。誰が犯人なのか、殺害方法は何なのか、暗号を解くにはどうすればいいのかなど、考える場面が多く出てきます。しかし式くんを除いて、私たちはまだ十分な思考能力を持っているとは言えません。そこで今回は部活動として思考能力を鍛えようと思うのです」
「それは立派な心がけだけど、具体的に何をするの?」
学食の弁当を食べながら式が尋ねる。
「これから私が例題を出します。その問題に関して、どういう状況なのかを推測してもらいます。あくまでも推測なので、私が思い描いた答え通りにならなくても大丈夫です」
「なるほど、それは面白そうだね!」
普段あまり思考能力を巡らせる機会がない春崎は楽しそうだ。
「では早速例題を出します」
榊は咳払いを一つした後、問題を出す。
「コンビニの前でお弁当を食べている人がいます。さて、その人は何故コンビニの前でお弁当を食べているのでしょうか」
「え、それだけ?」
「ええ。これだけの情報を元に、状況を考えてみてください」
問題自体はひどく簡潔だが、情報が少なすぎる。
思考力というよりは想像力が必要な気もするが。
「うーん」
式と春崎の二人はその情報を元に考え出した。
「制限時間は五分としましょう」
そして五分後。
「では、春崎さんから回答をお願いします」
「ふふふ、ばっちりだよ!」
どうやら春崎は自分なりの答えを思いついたようだ。
「まず、その日の天気は晴れだったんだよ。天気がいいから、お外でごはんを食べたいと思ってコンビニの前でお弁当を食べてるんだよ!」
「それでしたら、別にコンビニの前で食べる必要はないのでは?」
「それは、ほら、あまりにも晴天だったから、今すぐにでも食べたくなってつい食べちゃったんだよ」
あまりにも無理やりすぎる論理だ。
「まあ春崎さんの答えはわかりました。では次は式くんお願いします」
「うん。まあ自信ないけど答えるよ……」
榊から突っ込みが来るとは思っておらず、少し緊張している式。
「その人は多分時間がなかったんじゃないかな」
「時間がないとは?」
「たとえば、朝会社に行く時間で、かつまだ朝食を食べていなかった。だからどこかで朝食を食べようと思っているが、飲食店では料理が出来上がるのに時間がかかってしまうから、選択肢には入らない。となると真っ先に思い浮かぶのがコンビニの弁当になる」
「ですが、それならわざわざコンビニの前で食べる必要はないのでは?」
早速榊の突っ込みが入る。
「その理由は二つある。まず一つ目は、食べる場所がなかったから。最近のコンビニにはイートインスペースという場所があるけど、その時はたまたま席が全て埋まっていた。だから食べる場所がなくて外で食べていたんじゃないかな」
「もう一つの理由は何なの?」
「もう一つはゴミだよ。お弁当を食べるということは、容器や箸などのゴミが出てくる。食べる場所がないというだけなら近くの公園かどこかで食べればいいんだけど、最近の公園はゴミ箱が撤去されているところが多くて、食べ終わった容器や箸などを捨てることができない。食べ終わった後にコンビニに戻って捨てるのはタイムロスになるし、何より面倒だ。だから食べ終わった後すぐに捨てられるように、コンビニの前で食べているんだと思う」
「ほー、なるほど」
式の考えを聴いた春崎は感心している。
「どうかな、榊さん」
榊に尋ねてみると、彼女は満足そうに頷いた。
「ええ、いい推理だと思います」
にこやかに答えた。