第25話 ファミレスでの会話

文字数 2,282文字

 ファミレスに着いた式たちは、柿本隼也が来るまでの間、ファミレスの店長に奥田陽子について話を聞くことにした。

「ああ、奥田さんね。確かに昨日は夜九時までここで働いていたよ」

 ファミレスの店長が言う。

「働いている間、途中で抜け出したりしている可能性はありませんか?」
「いや、昨日は結構忙しかったから抜け出す暇なんてなかったはずだ。彼女はホール担当で絶え間なく料理を運んだり注文をとっていたのを他のスタッフも見ていた」

 店長がスタッフに確認をとると、皆頷いていた。

「それなら、彼女が働いていたのは確定か」
「しかし、あの子が殺人ねえ。真面目に働いていたし、彼氏との仲も良好そうだったのに、こんなことになるなんてな」
「奥田さんの恋人について知っているんですか?」

 式が尋ねると、店長は大きく頷いた。

「そりゃもちろん。ここに連れてきたこともあるし」
「二人はどんな感じでした?」
「とても仲が悪そうには見えなかったけどなあ。惚気話ばかりで、聞いてるこっちの方が参っちゃうくらいだよ」
「彼氏さんは定期的にこのファミレスに来ていましたか?」
「いや、一人で来ることはないな。いつも奥田さんと待ち合わせるか、二人で一緒にくるかのどっちかだ」

 ファミレスの店長や同僚からしても、二人は仲良さそうに見えていたようだ。
 その後もしばらく話を聞いていたが、数十分後に池田が呼び出した柿本隼也が到着した。

「すみません、連れが来ていると思うんですが……」
「はい、こちらです」

 店員に案内され、柿本が式たちの席に来る。

「君たちだよね、雄太の話が聞きたいってのは」
「はい。明戸高校の式と言います。よろしくお願いします」
「よろしく。早速聞きたい事があったら何でも聞いてくれ」
「まず、柿本さんと河本さんはどれくらいの付き合いなんですか?」
「中学の頃からだよ。同じクラスになったのがきっかけで仲良くなったんだ」

 柿本は中学生時の河本について語り始めた。

「あいつは中学時代はバレー部に所属していて、試合でもスタメンに選ばれるくらいの実力はあった。けどうちの中学のバレー部はそこまで強いわけじゃなくて、よくて地区大会ベスト4くらいだったんだ。だから高校ではもっと強くなれるようにってことで、この学校に来たわけ。この学校男子も女子もバレーが強いからな」
「河本くん、この学校でもバレーやってたんだ。陽子からは聞いたことなかったな」
「性格とか、学校の成績とかはどんな感じでした?」
「性格はおとなしくて、何と言うか純な奴って感じだな。学校の成績は良くもなく悪くも無くで、特に目立っている印象はないかな。だけど優しくて話も面白い奴だから、自然とあいつの周りには人が集まっていたんだ」

 柿本は自分のことのように話す。よほど河本と仲が良かったのだろう。

「その河本さんが奥田さんと付き合った経緯とか知ってますか?」
「馴れ初めっていうか、最初は奥田の友人が自殺しちゃったってことで、落ち込んでいた彼女を雄太が励ましたのがきっかけかな。そこから同じバレーをやっているという点で意気投合して、次第に奥田と雄太の仲が深まってきたんだ。そして奥田の方から告白して、二人は付き合った」
「河本さんは奥田さんのことをどう思っていたか知ってます?」
「実は、あいつは結構最初から奥田に好意を寄せていたんだ。だから落ち込んでいる彼女を見てつい声をかけたらしい。奥田と付き合ったって報告をしにきたあいつの喜んでいる姿は今でも忘れられないな」

 話を聞いている限りだと、両想いで付き合ったように見える。
 ならばなぜ、今回の様な事件が起きてしまったのだろうか。

「二人が付き合い始めてからはあいつら毎日のように一緒に居るようになってな、親友の俺とも碌に遊ばなくなっちまった。まあさすがに彼女を優先した方がいいとは思うけど、少し寂しさもあったな」
「……柿本さんは、今回の事件をどのように思っていますか?」
「……俺は正直、奥田が雄太を殺したっていうのが信じられない。たぶん池田も同じ意見だと思う。かといって、じゃあ犯人は誰なのかと言われるとそれもわからない。なんでこんな事件が起きたのがが不思議なんだよ」
「河本さんって、誰かに恨まれるようなことをしていたとかありますか?」
「俺の知る限りではないはずだ」

 はっきりと断言する柿本。

「わかりました。最後にひとつ聞きたいんですが、河本さんって料理とかしますか?」
「ああ、あいつ自分の昼食は自分で作っているんだ。料理が得意ってわけじゃないけど、自炊した方が食費が浮くからってことで、毎日自分で料理を作っていた。けど奥田と付き合うようになってからは、夕食は奥田が雄太のアパートに行って作ってたみたいだけどな」
「ちなみに、昼食はどんなものを食べていたのか、覚えている限りでいいので話してください」
「えーと、野菜炒めとか、唐揚げとか煮物とか、普通の弁当って感じだけどな。あ、でもたまにキャベツの千切りとかを弁当箱いっぱいに詰めて持ってきたこともあったな。修行飯とかいってたから、部活の体作りのために食べてたみたいだけどな。キャベツ丸ごと買って全部千切りにしてたから、結局食費がかかって意味ないんじゃねって思ってたけどな」

 柿本は笑いながら話す。

「こんなもんでいいか?」
「ありがとうございます。店長さんもご協力ありがとうございました」

 式たちは深々と礼をした。
 これで聞き込みは終了だ。
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