第98話 探偵会視点:現場捜索

文字数 1,752文字

 式たち探偵会は、隼人の呼び出しによって事件が起きた町外れの廃ビルに訪れていた。

「隼人兄さん、状況はどうなっていますか?」

 到着してすぐに榊が尋ねる。

「まだ身元ははっきりと確認できてないけど、被害者は40代の女性だ。全身を鈍器で何度も叩かれていて、手足が拘束されている状態で発見された」
「第一発見者は?」
「それが、警察に女性から一件の通報があってね。『とある男に襲われているから助けてくれ』と。その通報で『どこかの廃ビルで窓から赤い鉄塔が見える』という情報を話していたんだ。だがそのすぐ後に鈍い音が聞こえて通話が途切れてしまった。僕たちはその情報を頼りに捜索した結果、このビルを見つけて調べたらここに遺体があったというわけだ」
「なるほど」

 式は遺体のすぐそばにあった窓に目を向ける。
 そこからは確かに赤い鉄塔が見えた。

「……」

 次に式は、遺体と同じように寝そべった状態で窓に視線を向けた。

「その通報、少し不自然ですね」
「というと?」
「確かにこの窓から赤い鉄塔が見える。確か隼人さんの話では、電話で話している最中に鈍い音がしたといっていた。ということは、窓の景色を見ている最中に殴られたということですよね」
「そうなるかな」
「そして遺体がここに置かれているということは、犯人は遺体を動かしていないというわけだ。それなら、やはりおかしい」
「おかしいとは……」

 榊は式と同じように窓の景色を見てみた。
 そしてあることに気付く。

「……なるほど、そういうことですか」
「榊さんもわかったみたいだね」
「ええ。仮に被害者が通報通りに窓を眺めながら電話で話していたとすると、窓の高さからして立っていた状態になります。ですが手足が拘束されているということは、犯人は自力で立つことができなかったはず。そして寝そべった状態で窓の景色を見てみると、壁が邪魔をして窓から赤い鉄塔が見えません。つまり犯人が窓を見た状態と、実際の遺体の様子が違うということですね」
「なるほど、そういうことか」
「もう一つ、不自然な状況があります」

 式は二つ目の疑問について話した。

「それは被害者が携帯で警察に通報できたという状況です。遺体の様子を見ると、犯人は被害者を拘束していた。ということは犯人は被害者に逃げられたくなかったわけだ。にも拘らず、何故か犯人は被害者の携帯を回収していない。真っ先に思いつくはずの連絡手段である携帯を回収しないなんて、普通はありえない。携帯を回収しなかったからこそ、こうやって警察に通報されて捜索が始まってしまったんだから」
「確かに、不自然ですね」
「その携帯の中身って、もう調べたんですか?」
「今調べてる最中だ。……っと、丁度終わったようだな」

 調査結果がまとめられた資料を受け取る。
 それを式たちにも見せた。

「最後に連絡を取っていたのは斎藤義一という男だ。この男の名前は通報を受けた際に女性が口にしていた名前らしい」
「男と女性の関係は?」
「どうやら浮気関係にあったみたいだな。最後のメッセージを見てみると、浮気のことがバレたみたいだから話がしたい、ということでこのビルに呼び出したようだ」
「なるほど、そして呼び出した浮気相手の男に襲われて、被害者の女性は持っていた携帯で警察に男の名を通報した、というわけですか」
「本当にこの齊藤という男が犯人だとすると、あまりにも不自然な状況が多いですし、計画が杜撰過ぎます。まず呼び出された時点で鈍器を持ってきたのが意味不明ですし、仮にこの廃ビルで調達したにしても被害者と会った後どうやって被害者の手足を拘束したのかがわからない。そして手足だけを拘束して口は拘束せず、明らかに持っていることがわかる携帯も回収していない。多分ですが、この状況は作られたものだと思います」

 式は自分の推理を話した。

「作られたものということは……」
「多分、犯人は別にいるんじゃないかな。もちろん、犯人がただ杜撰なだけで、その齊藤という男である可能性もあるので、そちらの調査も進めた方がいいと思いますけど」
「そうだな。とりあえず齊藤義一という男を調査しつつ、式くんの言う通り別人の可能性も追って行こう」
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