第60話 龍吾が犯人ではない理由

文字数 1,879文字

 式たちは集まる予定だった部屋へと訪れた。

「式くん、一体どこに行っていたのですか!」

 先ほどの電話から式の安否を心配していた榊が近づく。

「いや、心配させてごめん」
「無事だったらいいのです。それよりも……」

 榊は式の隣をちらりと見た。

「なぜ朝霞くんも一緒にいるのですか?」

この部屋には榊の他にも隼人を始めとする刑事や鑑識たちが何人か集まっていた。
その誰もが、突然現れた朝霞龍吾に驚いていた。

「ちょっとね、途中で会ったんだ」
「どこでですか?」
「いや、街中でね。だよね、龍吾!」

 式は馴れ馴れしく朝霞龍吾の名前を呼び、肩に手を置く。

「……なんだそのノリは」
「ほら、俺の友人ってことにすれば、皆も協力してくれるかなって」

 ボソボソと会話を交わす。

「そんなわけだから、龍吾も事件に協力してくれるってさ」
「……後で詳しく聞かせてくださいよ」
「それで、さっきの電話って何だったの?」
「それなのですが、先ほど赤城智也から隼人兄さんに電話が来たのです」

 榊が録音した音声を式たちに聞かせた。

『刑事さん、助けてくれ!』
『どうしました?』
『今奴に追われてるんだ! このままじゃ殺される!!』
『落ち着いてください。奴とは誰ですか?』

 隼人がそう尋ねると、突然電話越しに拳銃が発砲される音がする。

『や、やべえ。あいつ銃打ってきた! このままじゃマジで殺される』
『あいつとは一体誰なんですか!』
『決まってんだろ! あ……さ……か』

 そこで通話は途切れていた。

「この通話の後、赤城智也とは連絡が取れていない。もしかしたら既にその追ってきた奴に殺されてしまっているかもしれん」
「龍吾、これって……」
「ああ……」

 式と龍吾は、この通話を聴いてあることに気づいた。

「最後に赤城智也が言っていた『あさか』という言葉、これは君を指しているんじゃないのか?」

 隼人が龍吾に視線を向ける。

「隼人さんは、龍吾が犯人だと思っているってことですか?」
「正直、これまでの状況を見るとそう思わざるを得ない」
「わかりました。じゃあ俺が彼が犯人ではないことを証明しますよ」
「何?」

 式は机に散らばっていた資料の内、里中の事件に関するものを手に取った。

「彼が犯人ではないことは、この里中先生の事件が証明しています」
「どういうことだ?」
「以前俺が推理した、里中先生を殺害した犯人は彼女の顔見知りの人物であると言いましたね。その理由は殺害に使われた凶器が里中先生の自宅にあった包丁で、それは一度里中先生の家に入らないと手に入れることができないから。そして里中先生の家に入ることができるのは、彼女の顔見知りの人物であると」
「ああ、僕もその推理には納得している」
「これにもう一つ付け足すことがあります」

 式はホワイトボードに文字を書き込む。

「顔見知りの人物と言っても、誰でもいいわけではありません。家に入ることができたのは、里中先生の信頼を得ている人物のみです。つまり里中先生がこの人物は家に入れてもいいと判断した人のみだ」
「それがどうしたんだ?」
「そう仮定するなら、龍吾が犯人だとは考えられませんよ。なぜなら彼は里中先生から警戒されていた。赤城智也と何かしらの話をしていたときに、『またよからぬことを企んでいるんじゃ……』と言われるくらいにはね。そう思っている人物を、夜遅くに家に入れるとは考えられないんです」

 式の発言に、その場にいた全員がどよめく。

「確かに、式くんの言う通りですね」
「だが、それなら何故彼は死亡推定時刻付近に彼女の家の周りをうろついていたんだ?」
「それについては理由があります」

 式は先ほど龍吾に言われたことを説明した。

「その証拠に、龍吾は当時の通話を録音している。隼人さんたちにも聞かせよう」
「ああ」

 龍吾は音声データを再生した。

「……確かに、里中先生と朝霞くんの声ですね」
「ということは、つまり……」
「ええ。龍吾は犯人にスケープゴートとして利用されていたんです。よって彼は犯人ではない。それなら、事件の協力者としてかかわってもいいですよね。彼の持つ情報は俺たちの知らないこともありますから」

 式が龍吾に目配せをする。それを見て龍吾は静かに笑った。

「だから、彼にも警察が得た情報を見せてあげてほしいんです」
「そういうことなら、僕は構わないが……」
「待ってください」

 それを静止したのは、意外にも榊だった。
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