第104話 池上の話

文字数 1,224文字

 宴が始まると、広場には豪勢な料理が並べられてきた。
 女性陣は宴にふさわしい服装を阿弥が貸すということで、全員で着替えに退出した。
 というわけで、現在広間にいるのは準備をしているスタッフを除けば式と池上だけだ。

「僕たち二人になっちゃたね」
「そうですね。というか今回の宴って、女性の人たちが多めなんですね。阿弥さんと友人の池上さんはともかく、俺は来てもよかったんでしょうか」
「君たちはどういう経緯でこの宴に?」

 式は阿弥に誘われたことを話した。

「……なるほど、そういうことだったのか」
「はい」
「実はね、僕は誘われたわけじゃなくて、自分からここに来たいと言い出したんだ」
「それはどうして?」
「僕はある目的でここに来た」

 池上は懐から雑誌を取り出した。

「最近この辺り女性が行方不明になることが多くてね。阿弥さんに危険が及ばないよう僕が警護を言い出したんだ」
「なるほど。もしかして池上さんって阿弥さんのことを……」
「いやあ、昔ならともかく、今は付き合いが長い友人ってとこかな。もちろん大切な人ではあるけどね」

 その表情から照れは見られない。どうやら本当にそう思っているようだ。

「そういえば、お二人はいつからの付き合いなんですか?」
「中学生の頃かな。彼女が転校生として僕が通っていた学校に来て、たまたま席が近かったから接する機会も多かったんだ。それから意気投合して放課後や休日に遊ぶ仲になったんだ」
「そうだったんですか」
「彼女は見ての通り美人で、それは昔も変わらなかった。転校初日に何人もの男子から告白されてたっけな。もちろん大して知りもしない男と付き合おうとは思わなかっただろうし、全て断っていたけど」

 当時のことを懐かしみながら語る池上。

「それから高校や大学も一緒になって、クラスや学科なんかでも一緒だったから、会うことは多かった。流石に大学卒業後は別だったけど、それでも暇さえあれば会って仕事の愚痴とかを言い合う仲なんだ。それがもう何年も続いて今に至る、というわけだ」
「たしかに、それだけ付き合いが長いと、もう異性というよりは大切な友人という認識になりますね」

 式はまだ十七歳だから当然だが、それほど長く付き合いのある人物はいないため、新鮮に思えた。

「まあ僕の話はこれぐらいにしておいて、次は君たちの話を聞かせてくれよ。職業柄、どうしても君たちが解決してきた事件が気になるんだ」
「そんなに楽しいものじゃないと思いますけど……」

 式はこれまでの事件を思い出し、池上に話した。

「なるほど。これまでに担当した事件の中でも特に印象に残ったのはどれなのかな?」
「そんなの全部ですよ。榊さんや春崎さんからは『死体を見るのに慣れたんじゃ?』とか聞かれますけど、そんなの慣れたくないですね」
「はは、それは最もだ」

 それ以降もしばらく雑談をしていたが、ようやく女性陣が戻ってきた。
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