第43話 結末
文字数 1,866文字
「しかし、どうして樅さんは楓さんにこのようなことを? 動機は何なのでしょうか」
「榊さん、バーチャルアイドルって、人気があれば結構儲かるんだよね?」
式は部屋に置いてあるゲーミングチェアを見ながら言う。
「ええ。特に最近のめーぷるちゃんはサラリーマンの平均月収の倍以上は貰っているのではという噂もあります。最近人気が出始めた彼女でもそれくらい貰っているので、本当に人気のある人ならば百万円以上も十分考えられます」
「そして樅さんは夜勤勤めの毎日だ。夜勤は日勤よりも給料が高い傾向にあるけど、逆に言えば高い給料を貰えるような仕事をしなければならない理由があるのかもしれない。あるいは、就職難で人手不足の夜勤にしか就くことができなかったりとか、いずれにしろ望まない仕事を樅さんはやっていると思う」
樅に視線を向けると、びくりと身体を震わせた。
「それと動機に何の関係が?」
「多分、ただ配信をしているだけで多くのお金を稼いでいる楓さんに嫉妬していたんじゃないかな。自分は身体に鞭を打って働いているのに、妹は碌に学校にも行っていないのに多くのお金を稼いでいる。確かに見る人によっては不公平にも映るかもしれない」
「なるほど……」
「おそらく樅さんは楓さんを殺そうとまでは思わなかったのかもしれない。もし本当に殺したいと思うなら、爆発させた後に部屋に入ったときにいくらでも殺せただろうから。それにもっと爆発の火力を上げてもいいしね」
「樅、それは本当なの?」
黙って話を聞いていた桐が尋ねる。
「……うん。毎日毎日夜勤ばっかりで、日に日に体がボロボロになっていくのを見て、こうまでして働いて何の意味があるのかなって思ってた。確かに夜勤はそこそこ良い給料を貰えるけど、体をボロボロにしてまで得るほどの金額じゃない。私も楓みたいに、自分の好きなことだけをやってお金を貰いたいよ……」
か細い声で呟く樅。
「それでも、こんなことはするべきじゃなかったですよ。あなたにとって、楓さんは血の繋がった姉妹なんですから」
「……」
式の慰めの言葉が樅に響いたかはわからない。
式には、姉妹が仲良く暮らせる日が訪れることを願うことしかできなかった。
翌日、事件のその後を榊から聞いた。
「あの後、目を覚ました楓さんが、お姉さんの樅さんの犯行を許したそうですよ」
「へえ、あんなことをされたのに許せるなんてすごいな」
「引きこもり生活を送っていた後ろめたさがあるためか、お姉さんに恨まれても仕方ないと思っていたようです。もし自分が逆の立場だったら、同じことをしていたかもしれないと」
引きこもりになった後ろめたさがあったからこそ、姉の苦しみを理解できると言った楓。
後は樅が素直になることができれば、姉妹の完全な和解も遠くないだろう。
「それに見てください。SNSでめーぷるちゃんが報告しているのです」
榊からSNSを見せてもらい、昨日の配信の出来事を説明するめーぷるちゃんの文章を確認する。
少し事故があったためしばらくの間休むが、すぐに帰ってくるので心配ないという旨が書かれていた。
「早ければ来週には復帰するみたいですよ」
「そんな早くに。プロ根性というか何というか……」
完全に回復しない段階で活動を再開しようというのだから、楓も大したものだ。
「そして式くんにお知らせがあるのです」
「何?」
「このめーぷるちゃんに私たちも負けてられません。そこで私たちもバーチャルアイドルを作りました!」
榊がある画像を見せる。
そこには探偵の姿をした美少女キャラクターが写っていた。
「……ナニコレ?」
「私たちメイド探偵会のバーチャルアイドル、その名も『めいたん』です! キャラクターデザインは私が手掛けて、声は春崎さんが担当してくれることになってます」
榊が部室棟にある防音室に式を案内すると、そこには音声を収録している春崎の姿があった。
「え、えっと、皆こんにちわ~! 数々の難事件を解決してきためいたんだよ~☆」
「春崎さん、もう少し気持ちを込めてお願いします」
「あ、式くんも来たんだ! ねえこれ難しいよ~」
春崎も大変だな、と式は思った。
「お願い、助けて~!」
「……まあ、頑張ってね」
「ちょ、ちょっと!」
「さあ春崎さん、自己紹介動画の収録はまだ終わっていませんよ」
逃げ出そうとする春崎を後ろから捕まえる榊。
その光景を尻目に、式はそそくさと退出した。
「榊さん、バーチャルアイドルって、人気があれば結構儲かるんだよね?」
式は部屋に置いてあるゲーミングチェアを見ながら言う。
「ええ。特に最近のめーぷるちゃんはサラリーマンの平均月収の倍以上は貰っているのではという噂もあります。最近人気が出始めた彼女でもそれくらい貰っているので、本当に人気のある人ならば百万円以上も十分考えられます」
「そして樅さんは夜勤勤めの毎日だ。夜勤は日勤よりも給料が高い傾向にあるけど、逆に言えば高い給料を貰えるような仕事をしなければならない理由があるのかもしれない。あるいは、就職難で人手不足の夜勤にしか就くことができなかったりとか、いずれにしろ望まない仕事を樅さんはやっていると思う」
樅に視線を向けると、びくりと身体を震わせた。
「それと動機に何の関係が?」
「多分、ただ配信をしているだけで多くのお金を稼いでいる楓さんに嫉妬していたんじゃないかな。自分は身体に鞭を打って働いているのに、妹は碌に学校にも行っていないのに多くのお金を稼いでいる。確かに見る人によっては不公平にも映るかもしれない」
「なるほど……」
「おそらく樅さんは楓さんを殺そうとまでは思わなかったのかもしれない。もし本当に殺したいと思うなら、爆発させた後に部屋に入ったときにいくらでも殺せただろうから。それにもっと爆発の火力を上げてもいいしね」
「樅、それは本当なの?」
黙って話を聞いていた桐が尋ねる。
「……うん。毎日毎日夜勤ばっかりで、日に日に体がボロボロになっていくのを見て、こうまでして働いて何の意味があるのかなって思ってた。確かに夜勤はそこそこ良い給料を貰えるけど、体をボロボロにしてまで得るほどの金額じゃない。私も楓みたいに、自分の好きなことだけをやってお金を貰いたいよ……」
か細い声で呟く樅。
「それでも、こんなことはするべきじゃなかったですよ。あなたにとって、楓さんは血の繋がった姉妹なんですから」
「……」
式の慰めの言葉が樅に響いたかはわからない。
式には、姉妹が仲良く暮らせる日が訪れることを願うことしかできなかった。
翌日、事件のその後を榊から聞いた。
「あの後、目を覚ました楓さんが、お姉さんの樅さんの犯行を許したそうですよ」
「へえ、あんなことをされたのに許せるなんてすごいな」
「引きこもり生活を送っていた後ろめたさがあるためか、お姉さんに恨まれても仕方ないと思っていたようです。もし自分が逆の立場だったら、同じことをしていたかもしれないと」
引きこもりになった後ろめたさがあったからこそ、姉の苦しみを理解できると言った楓。
後は樅が素直になることができれば、姉妹の完全な和解も遠くないだろう。
「それに見てください。SNSでめーぷるちゃんが報告しているのです」
榊からSNSを見せてもらい、昨日の配信の出来事を説明するめーぷるちゃんの文章を確認する。
少し事故があったためしばらくの間休むが、すぐに帰ってくるので心配ないという旨が書かれていた。
「早ければ来週には復帰するみたいですよ」
「そんな早くに。プロ根性というか何というか……」
完全に回復しない段階で活動を再開しようというのだから、楓も大したものだ。
「そして式くんにお知らせがあるのです」
「何?」
「このめーぷるちゃんに私たちも負けてられません。そこで私たちもバーチャルアイドルを作りました!」
榊がある画像を見せる。
そこには探偵の姿をした美少女キャラクターが写っていた。
「……ナニコレ?」
「私たちメイド探偵会のバーチャルアイドル、その名も『めいたん』です! キャラクターデザインは私が手掛けて、声は春崎さんが担当してくれることになってます」
榊が部室棟にある防音室に式を案内すると、そこには音声を収録している春崎の姿があった。
「え、えっと、皆こんにちわ~! 数々の難事件を解決してきためいたんだよ~☆」
「春崎さん、もう少し気持ちを込めてお願いします」
「あ、式くんも来たんだ! ねえこれ難しいよ~」
春崎も大変だな、と式は思った。
「お願い、助けて~!」
「……まあ、頑張ってね」
「ちょ、ちょっと!」
「さあ春崎さん、自己紹介動画の収録はまだ終わっていませんよ」
逃げ出そうとする春崎を後ろから捕まえる榊。
その光景を尻目に、式はそそくさと退出した。