師弟

文字数 1,841文字

 ダダザイオオサムとインブデマスジイは富士山の見える峠の茶屋で休んでいた。
「インブデ先生、富士にはやっぱ月見草が良く似合いますね」
 とダダザイオオサムが煙草を吹かしながら遠くを見る様に気障に云う。
「ダダザイ君、その花は夕化粧だよ。君の目は節穴かね」
 とインブデマスジイがそう云うと、何時もの様につまらなそうに放屁した。
「インブデ先生、私の方にくっさい屁をかまさないで下さいよ」
 ダダザイオオサムはたまらずゲロを吐く。
「いんや、ダダザイ君、ワシの屁は人畜無害だよ。君の鼻がおかしいんじゃないか、オッホッホ」
 インブデマスジイは葉巻をくゆらせながらもう一発かました。風が止み、自分の周辺に屁の匂いが充満したインブデマスジイは、
「オー、こりゃくっせえのう、昨夜食った肉が悪かったかのう、くっせえくっせえ」
 と云いその場から飛び逃げた。
 それを見ていたダダザイオオサムは勝ち誇った様に、
「インブデ先生の屁、本当くっさいすよ、どんなもん食ったらそんなくっさい屁が出るんですか、私は奥様が気の毒でたまりません。あっ、今わかりました、ほんで奥様いっつも毒ガス用みたいな分厚いマスクしてるんですね」
 と云う。
「何を云うかねダダザイ君、女房の前でワシは屁などこきませんよ、オッホッホ」
 とインブデマスジイは余裕の体でそう云う。
「本当ですか? そしたらあの変なマスクは何の為にしているんですか? 私は先生の家に伺って、まだ奥様の顔をちゃんと見た事がありませんから」
 とダダザイオオサムが師に不満を述べる。
 インブデマスジイが、
「女房は口が裂けているからマスクをしているんじゃよ。気の弱いダダザイ君が見たら卒倒するかもしれんゆうてのう、オッホッホホ」
 相変わらず余裕の体で云う。
「口裂け女! そんなバカな! またまた先生の何時もの悪い冗談ですか?」
 とダダザイオオサムが半笑いでそう云うと、
「いんや、口は裂けとるよ。まぁ口裂け女と云うより元々口がでかいから避けている様に見えるだけでのう。けんど女房の奴がダダザイ君には見せたがらんのじゃよ、オッホッホ」
 とインブデマスジイの笑いに無理矢理感が出て来ている。
「どうしてそんなに私を意識されるんでしょうかね?」
 とダダザイオオサムが云うと、
「女房の奴、どうやら君に惚れとるらしいんじゃ、どうじゃダダザイ君、今度君の女房とワシの女房を代えっこしてみんかね? サトウ君とタニザキ君がやった様にのぅ、オッホッホッホ」
「そんなインブデ先生、そりゃ無茶と云うもんですよ。新婚ほやほやで、しかも先生が紹介者なのに、私のピチピチの若い女房と先生の腐ったバナナの様な老婆と交換するなんて、絶対ありえないでしょう! もし先生がそれを強く云うのなら私は先生の弟子を辞めます!」
 とダダザイオオサムが興奮で顔を真っ赤にしながら云う。
「冗談だよ、冗談、君も相変わらずだなぁ。ワシには君のぶっさいくな鼻垂れ女房は趣味じゃないからのう、オッホッホ」
「ぶっさいくで悪うござんしたね。先生の納豆にウンコ汁かけた様なババーより、よっぽどましですけどね」
 とダダザイオオサムは怒りに声を震わせながら云う。
「君もそこまで云っちゃあおしまいよ、今日で君との師弟関係は無しと云う事で、よろしおまっか? オッホホホッホホ」
 もう笑い声は引き攣っており泣き声にしか聞こえない。
「悪かったなぁ、このブタマン野郎が! 今までくっさい屁かまされても我慢して来たのに、こっちこそ願ったりかなったりじゃい! イーダ、屁っこき変態エロエロ悪人ジジイのくせに」
 とダダザイオオサムが全身を怒りでワナワナ震わせながら云う。
「そりゃそうとワシから離れて文壇の中で君みたいな変人で色きちがいがやっていけると思っとるのかね、オッホッホゲホゲホ」
 最早笑い声は邪魔でしかない。
「ふーんだ、ブタマンの悪人でくっさい屁こきジジイから離れたって、ちゃーんとやっていけるもんね。私は今日からシンガリナオヤン先生の弟子になるから大丈夫だもんねー、イーダ、今からシンガリ先生の所に行ってオカマ掘らせるから、すんぐに仲直り出来るもんねーだ、だまーみろ、悪人でブタマンのくっさい屁こき男め、オマエのやった盗作のこと全部ばらして、文壇からおれんようにシンガリ先生にとっちめてもらうからな、アバヨー」
 と捨て台詞を吐きダダザイオオサムは富士を見ながら峠をガキの様に駆け下りたのである。
「悪人の屁っこき屁っこきクソジジイ!」
 と泣き叫びながら……。
 
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